初級魔法習得へー神様の分身?ー
火を起こす魔法を練習し始めて2日目には、思い浮かべたサイズに近い火を生み出すことができるようになってきた。その生み出された火を見てふと思う。
(宙に浮いている火って火の玉みたいな感じ。もしも夜に浮いてるのを見てしまったら、怖いかも…)
翌週も火を起こす魔法の練習を続けた。生み出す火の大きさも安定し、焚き火を燃やすだけの、ちょうどいい大きさの火を毎回出せるようになった。そして、練習を始めて6日目、火を起こす魔法の習得を認められたのだった。
生活魔法の習得が全て認められたので、次は初級魔法だ。初級の防御魔法からスタートである。初級の中でも簡単なものを、防御魔法→攻撃魔法→回復魔法と覚えていき、一通り習得できたら次の防御魔法へといった感じで進んでいく。私の場合は5属性の簡単な防御魔法を習得できたら、攻撃魔法の授業に入るわけだ。
防御魔法は上級のものが町の結界などに使われていて、初級の防御魔法だと術者から半径5mくらいの人達を守れるくらいの効果があるそうだ。
(防御魔法はわかるけど、この平和な世界で攻撃魔法は何に使うんだろう?)
そう思っていたのだが、ここ【オスラン皇国】と周辺国家は友好関係を築いているので戦など起こっていないが、世界中が全て平和なわけではないらしい。
周辺国家のことについては、この国の歴史を習った後に、歴史の授業でまた詳しく習うそうだが、周辺国の中にはそのまた周辺国とのトラブルを抱えている国もあり、本格的な戦にはならないまでも小さな衝突はよく起こっているらしい。
また、この国の中でも人の住んでいない山奥などには猛獣などが生息していて、時折人里に降りてきて人に危害を加えてしまうらしい。一度、降りてきた猛獣はもう元の生息地へと戻ることはないので、町を護るために退治する必要がある。猛獣も単体とは限らない。群れを作って襲われた場合は、剣での退治では限度がある。そんな時に攻撃魔法が役立つのだそうだ。
同盟を結んだ周辺国からは、時に援助要請もある。実際の戦とはならずとも、強力な魔法の使い手が自軍に集まっているのは、他国への牽制となるのだとか。
派遣されて、実際に戦うことはほとんどなく、牽制のためにも強力な魔法の使い手を同盟国から集めておくというのが狙いだそうだ。
国の騎士団には魔法部隊があって、援助要請に応じて同盟国に派遣されたり、猛獣が多く出没する地域にも派遣されているのだそうだ。
初級魔法からは精霊や神様から与えられた加護や寵愛の力を借りて魔法を行使する。そのためには、まずは自分が得ている加護や寵愛の力を感じ取り、力を借りられるようにお願いしないといけない。
(攻撃魔法が必要なのはわかった。でも、できたら…実際には使いたくないな…。騎士団って響きはちょっと惹かれるけど…)
初級魔法を学び始めるにあたって受けた説明はここまでである。そして、ここからは実践だ。
「精霊や神々は加護や寵愛を与えた人の側に、自分の力を分け与えた分身を付けてくれています。それを我々は【聖光】と呼びます。先生は光神と火神の寵愛を受けているので、先生の側には光と火の【聖光】が。アンさんの側には、水神、火神、地神、風神、光神の【聖光】が。アンさんには今はまだ感じ取れていなくても、産まれた時からアンさんの身近に存在してるのです。その存在を感じ取るためには、自分を守ってくれている【聖光】が確かに存在しているということを信じ、感じ取りたいと強く願うことが必要です。そうすれば【聖光】はアンさんにも感じ取れ、ぼんやりと見えるようにもなるので、ますます身近な存在となります。正しいやり方は一つではありません。【聖光】に話しかけるのも、神に祈るのも方法の一つです。とにかく信じ、願うのです。では、やってみてください」
(私の周りに産まれた時から…?神様は遠くから見守るだけじゃなくて、近くにも存在してたのか…。前世では夢でだけど、神様に会ったんだもの。神様の存在、その分身の存在も信じることができる。あとはその存在を感じ取れるよう、目に見えるよう、強く祈るだけ…!)
アンは目を瞑り強く祈る。すると直に、自分の周囲に何かが舞っているような気配を感じる。目を開けるとそこには…
赤、青、茶、緑、黄色と5色の光がフワフワと待っていたのだった。
(水晶玉で測定をした時みたい…。すごく綺麗…)
アンは【聖光】の存在をはっきりと視認した。その様子を見ているスミス先生にも、アンが【聖光】の存在を感じ取ったのがわかったが、さすがにビックリの早さである。
まず、今まで感じていなかった存在を信じるというのは中々難しい。それに、【聖光】は妖精のように気ままな存在で、普通はどんなに祈っても簡単には姿を現してはくれないのだ。
アンを守っている【聖光】があっさりと、しかもはっきりと視認できるほどに現れたのには理由がある。アンを愛してやまない神様達の分身達である。アンに存在を求められたことが嬉しく駆け引きなどできなかったのだ。そんなことは知る由もないアンは、5色の綺麗な【聖光】達にまだ見惚れているのだった。
(【聖光】がこんなにもすぐに姿を現すとは…。神々の寵愛も相当なものなのでしょうね…。これは、扱える魔法の威力も相当なものになるでしょう。気を引き締めて導いていかなければ。それが神々の御意志なのでしょうから)
そう改めて誓う学園長なのだった。




