生活魔法ー最後は火起こしー
結局、水を生み出す魔法の習得を認められるまでは3日かかった。もちろん毎日、着替え持参だ。3日目には着替えは必要なかったけれど。
次の火を起こす魔法を習得すれば、生活魔法は全て習得だ。このペースはやっぱり皆より早いみたい。魔法の授業は一つ魔法を習得したら、次の魔法へというものなので、これだとどんどん進んじゃう?そう思って、スミス先生に尋ねてみると…。
初等科で学ぶのは生活魔法と初級魔法だけだけど、初級魔法にもいくつも魔法があって、それが各属性でまた違ってくるらしい。
初級魔法からは自分の適性のある魔法を習っていくのだけど、私の場合は全属性の神様の寵愛があるから、魔法の適正も全属性持っている。つまり、5属性の初級魔法を全て覚えなければいけないそうだ…!
5属性のいくつもある初級魔法を全て初等科のうちに?!果たして習得できるのかどうか…。
スミス先生は、私のペースだと余裕を持って初等科のうちに習得できると言ってたけど、本当だろうか?本当だとしても、あまりに一気に突き進むと一つ一つの魔法がおろそかになってしまうような…。スミス先生が教えてくれるんだから、そんなことはないんだろうけど。
魔法の習得には才能や、特に上級魔法からは魔力量が大きく関わってくるらしいが、神様の寵愛が関係してくるのか、私は年齢の割に魔力量が多く、才能も高いらしい。魔力量は成長につれて増えていくものだから、相当なものになるだろうとも。
神様は私にいったいなにがさせたいのだろう…?そんなことを、ふと思うのだった。
ちなみに、もし早いうちに全ての初級魔法を習得しても、中級魔法は中等科に入るまで教えてもらえないそうだ。魔法に関しては飛び級のようなことはないみたいだ。それなら、あまりに友達と差が開いてしまうこともないだろう。友達と魔法の授業の話が合わなくなるのは、少し寂しいからよかった。
さて、火を起こす魔法の授業だ。光源を起こす魔法では、大きな光を出し過ぎた。水を生み出す魔法では、水を溢れさせてびしょ濡れになった。
そんな失敗をしていた私は、火を起こす魔法で大きすぎる火を出してしまったらどうしようと、心配になってスミス先生に尋ねる。
「大丈夫ですよ。生活魔法では暴発するということはないし、安心だと言ったでしょう?光が大き過ぎたり、水を溢れるほど生み出したりしたのも、暴発のレベルではありませんよ。それに、火は生み出した術者を焼くことは絶対にありません。例え、身体を包み込んだとしても、暖かいと感じる程度です。安心できましたか?」
「はい。それで安心しました!でも、術者を焼くことはないということは、術者以外の人は…?」
「もちろん、その火を生み出した術者以外にとっては熱い火ですからね。気をつけないといけません。初級魔法で生み出すものに比べたら、暴発もない安全なものなので、皆さん日常生活で使っているのですがね。ここでは先生がしっかり守っているので大丈夫です。うまく火を起こせるようになっても、光や水を生み出す生活魔法よりも習得を認めるまでには練習を重ねてもらいますよ。それで、習得が認められたら、安全に使える証拠です」
その言葉を聞いて、気をつけてしっかり習得しようと思うのだった。
練習は近くに水があった方が最初は安心するだろうということで、水を張った池の近くで行うことになった。まずは、スミス先生の見本からである。
スミス先生は手を宙にかざし、魔力を込めていく。そして、呪文を唱える。
【火よ起これ】
すると、先生が手をかざした宙に火が生まれ…浮かんでいる。池の側に積んだ小枝にその火を放つと、小枝に燃え移り焚き火となったのだった。
さて、私の番だ。集中、集中っ!
まずは目を瞑り、集中力を高める。そして、目を開けると、手を斜め前の宙に向かってかざす。小さな火を思い浮かべて、魔力を込める。そして、【火よ起これ】と呪文を唱えて、私の目の前の宙に生まれたものは…
親指の爪くらいの大きさのとても小さな火だった。
(あれ…?大きくならないように気をつけ過ぎたから…?これじゃいくらなんでも小さすぎるよね…)
案の定、スミス先生を振り返ると…。
「さすがに小さ過ぎますね。小枝に火を放つのは、せめてもうちょっと大きい火が生み出せたらにしましょう。その火は池に放って消してくださいね。さて、練習あるのみですよ」
(そうだよね…。小枝の山もそんなにあるわけじゃないし…。スミス先生の言葉で安心してたつもりだったけど、やっぱり不安だったのかも。でも、今くらいの魔力であのサイズなら、普通に魔力を込めてもそんなに大きくならないはずだよね!さて、気を取り直して練習、練習!)
小さな小さな火を池に放って消すと、次の火を生み出すべく、また練習を再開するのだった。
アンはたしかに魔法の才能もズバ抜けて高く、魔力量も多い。しかし、逆に多すぎるせいで、魔力を込め過ぎてしまっていたり、魔力の込め過ぎを心配するあまりに込める魔力が少な過ぎたりと…初回の練習で成功!ということには、中々ならないのだった。




