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前世そして転生ー神様の愛が重過ぎて…ー

【寡黙・クール・とっつきにくい】


…これが私の周りからのイメージのようだ。それは、そうだろう。私は本当に必要最低限のことしか、口にしない。表情も変えない。そのように『している』のだから。



 本来の私…昔の私はそうではなかった。むしろ、おしゃべりで表情に感情が丸出し…そのような子どもだった。それが、なぜ今のようになったのか?それには、もちろん理由がある。


 いつの頃だろう?私の周りの不思議としか言えない出来事に気づいたのは。私が楽しそうだと快晴、私が泣いていると大雨。雨の日でも、私が傘を忘れて「雨、嫌だなぁ」と呟いた瞬間、雨は止んだ。私が大好きな友達には、良い出来事が続いた。私が苦手だと感じ、少しでもそういった感情を見せれば、その子には不運な事が起きた。私にちょっとしたいたずらをしようとした友達は、いたずらをする前に痛い目にあっていたようだ。



 …最初はもちろん偶然だと思った。でも、偶然では片付けられないくらいに、そういった事は続いた。


 こんなこと、誰にも言えない。言っても信じてもらえない。そう思った。だって、私にも信じられない。信じてもらえないだけでなく、変な目で見られるかも…。そんな不安もあった。だから、友達にも、親にさえも言えなかった。



 それから、私は出来るだけ負の感情を表に出さないようにした。友達に良い事が起こるのはいい。でも、負の感情を出したせいで、周りが傷つくのはもう見たくない。


 でも、負の感情だけ出さないと言うのは難しい。友達とおしゃべりしてても、たわいない会話の中で、愚痴のような話題が出てしまうこともある。そこで私だけ黙りこむなんてことは、小学生の私にはまだできなかった。



 そして、また不運な事に見舞われるクラスメイトが出た。階段から転げ落ちるという不運に…愚痴を言った、その日のことだった。


 そのおしゃべりをしたメンバーは、口には出さないものの、あんなことを言った日に、そんなことになるなんてと、ビックリしていた。でも、愚痴を言ったことと、結びつけるなんて発想はないようだった。それは、そうだろう。愚痴を言っただけで、そんなことが起きるわけがない。

 

普通はー・・・


 負の感情だけ隠すなんて器用な事は、私にはできない。そう思い知った。今回は階段から転げ落ちたクラスメイトも軽い怪我で済んだ。でも、次もそうとは限らない。もしもっと大きい怪我をしてしまったら…そう思うと怖くなった。



 出来るだけ不自然にならない程度に、友達から距離を置くようにした。それでも、あまりに距離を置きすぎると不自然になる。そう考えて、中学校は家から少し距離のある、私立の中学校へ進学したいと親に相談した。そこで、学びたいことがあると言うと、チャレンジしてみるといいと言って、応援してくれた。


 そして、受験も問題なく乗り切った。その中学校には、同じ小学校の友達は居なかった。クラスメイトとも必要最低限しか喋らずに、休憩時間も1人で読書ばかり。それでも、入学当初は何人かが話しかけてきてくれた。でも、私からは話しかけなかった。1人を望んでるような素振りを見せた。次第に、そういう人と認識されたのか、1人で居ても、ほって置いてくれるようになった。


 そして、私に対していつの日か、【寡黙・クール・とっつきにくい】というイメージが確立されていった。



 大学生になった頃から、同じような夢を見ることが多くなった。どこかの国の民族衣装なのか、見覚えのない衣装を纏った、まだ幼さを残す人たちが、悲しそうな顔をして私を見ているのだ。


 何か私に喋りかけてもいるようだったが、その言葉は日本語でもなく、聞いた覚えのある外国語でもなくて、何を言っているかのはわからなかった。


 朝には夢の詳細までは覚えていなかったけど、夢を見たことは覚えていた。そして、夜になってまた夢を見ると、同じ夢だとはっきりわかった。

 

私は夢の中でも喋らない。


 そんな夢を見ることが多くなって1年近く経った頃、いつもとは違う夢を見た。夢の雰囲気は似ているのだ。でも、何かが違う。何が違うのだろうと思っていたら、その違和感がゆっくりと私に近づいてきた。そう、1年近く見た夢では毎回そこに居る人も同じだったのに、今日は今までの夢には出てこなかった人が居たのだ。


 彼はやはり見覚えのない白い衣装を纏い、髪も銀髪。他の人たちが幼さを残す顔立ちなのに対して、彼は私よりも少し歳上のように見えた。


 今までの夢では喋りかけてはきても、誰かが私に近づいて来るなんてことはなかった。夢だとわかっていても、初めてのことに、私は少し身構えていた。すると、私のその気持ちを察したように「安心して」と私にもはっきりわかる日本語で、彼は話しかけてきたのだ。



 彼は語った。


 自分達は私たち人間が神様と呼んでいる存在であること。

 私が神様に好かれる綺麗な魂を持っていること。

 それ故、産まれた時から、色々な神様が私を寵愛し、見守っていたこと。

 それが、いつしか行き過ぎ、私の負の感情に過剰に反応してしまっていたこと。

 そして、それが原因で私が変わっていき、感情を表さないようになって、初めて行き過ぎた行動に気づいたこと。

 私の笑顔が見られなくなって、深く悲しんだこと。


 優しげに、それでいて淡々と語る彼の言葉を私は、最初に話しかけられた驚きのまま、呆然と聞いていた。



 何を馬鹿な…と思った。神様だとか、神様が私を見守っていただとか…でも、それを否定することが何故か私には出来なかった。


 今、目の前に居る銀髪の彼から感じるオーラには、確かにそうだと感じさせる何かがあったのだ。



 彼は更に語った。


 実は私は本来は別の世界…いわゆる異世界で産まれるはずだったこと。

 神様達は、本来私が産まれるはずだった世界の神様であるということ。

 何故だか、地球で産まれることになってしまった私を追いかけて、見守っていたこと。

 だが、どうしても異世界への干渉は力の加減が難しく、暴走してしまっていたこと。


 そしてー・・・


 本来、異世界で産まれるはずだった私の命は、地球の理から外れる為、二十歳までは生きられないだろうということ…。


 最初は変わらず淡々と、最後は悲しそうな表情を滲ませながら、申し訳無さそうに…彼は語った。



 何故か私はそれを聞いた瞬間、今まで欠けていたパーツが戻ってきてカチリとはまったような感覚を得た。


 つまり、ストンと納得したのだ。この1年間、夢に出てきた彼らの衣装や、喋る言語は確かに見覚えのないものだったし、理解できなかった。


 それでも、どこか…安心してしまう感覚があったのだ。普通なら不審に思いそうなものなのに。そんな夢ばかり見ることに不安になるのではなく、安心を…。



 そんな表情を見てとったのか、彼はまた優しげな表情に戻って、語り始めた。


 地球では二十歳までしか生きられないが、魂は生まれ変わるということ。

 そして、生まれ変わる先は本来産まれるはずだった異世界になるということ。

 その異世界では、神様の寵愛を受けたり、加護を授けられている人は、少なからず居て、隠す必要はないこと。

 本来の世界である限り、神の力は暴走せず、普通に生活できるということ。




 二十歳の誕生日までは、もう数カ月をきっている。若くしてこどもを失うのだから、両親の悲しみは計り知れない…。


 それでも、これから大学を卒業して、社会に出てからも、まったく人と関わらない生き方なんて出来ない。この世界で生きることには限界があったのかもしれない。


 それなら、残された数カ月、しっかりと親孝行をして過ごそうと思った。最近は両親にさえ見せることが少なくなっていた笑顔を…本来の自分の姿をしっかり見せようと思った。


 神様の愛が暴走して、大変なこともあったけど…。私は両親のもとで愛されて育って幸せだったことを伝える為にも。



 そして、数カ月後…。


 私は新たな、そして本来産まれるはずだった異世界に新たな生をうけた。家族構成は両親と姉、そして私という4人家族だ。


 名前はアン、アン・リード。…ちなみに地球では杏、高嶺杏という名前だった。偶然?それとも神様の配慮かしら。


 ただ、地球での杏の記憶は産まれた時から持っていたわけではなかった。アンの成長に合わせて少しずつ馴染むように思い出していった感じだ。


 完全に杏の記憶を思い出したのは7歳の時。最初から前世の記憶を持っていなかったのは、こちらの世界により早く馴染む為だろうか。


 本当に神様の配慮…行き過ぎてない?



 こちらの世界では保育園や幼稚園といったところはなく、みな7歳から学校へ通うようになる。7歳までには皆、神様や精霊の加護などが安定するからだそうだ。


 そう、神様の言った通り、こちらでは神様に愛されることは、そう珍しいことではないらしい。ただ、寵愛と加護ではやはり寵愛を受けていた方が大きな力を扱えるようだ。神様と精霊の加護の違いも然り。神様の加護を受けていた方が精霊の加護を受けているよりも強い。


 つまり…神様の寵愛>神様の加護>精霊の寵愛>精霊の加護、といった具合だ。


 誰しも何らかの寵愛か加護は得ているようだ。あとは、何の神様か精霊であるかによって扱える属性が、そして、いくつの寵愛や加護を得ているかによって、いくつの属性を使えるかが決まるらしい。属性と言うのは、神様や精霊の力を私たち人間が具現化できるようにした魔法の属性のことだ。そう、この世界は魔法も使えるのだ!


 攻撃魔法や防御魔法、回復魔法もあるが、1番多く使われているのは、生活魔法だ。この世界には、ガスも電気も水道もない。ガスは火魔法で、電気は光魔法で、水道は水魔法で。本来、魔法を使うには自分が授かっている神様や精霊の属性が関わってくるが、生活魔法は大きな力を使わないからか、分類上は無属性魔法に分けられ、誰もが取得し使うことができるそうだ。



 7歳になり、学校へ通うようになった初日にまずは皆、自分がどんな寵愛や加護を得ているか測るらしい。


『らしい』というのは、姉様から聞いた話で、どんな風に測るかなどは、入学してからのお楽しみということで、詳しくは教えてくれなかった。


 ちなみ父様は火神の加護を、母様は水神の加護を、姉様は地神の加護を得ているそうだ。家族が皆、神様の加護を得ているというのは、ちょっと珍しいらしく、私がどんな加護を得ているかに秘かに注目されているとか、しないとか…。


 神様の話が確かなら、私は何らかの神様の寵愛を得ているはずだけど…。それは入学式までお預けだ。



 待ちに待った入学式当日を迎えた。入学式といっても、日本のように、式典のようなことはない。まずは名前順に属性を測り、それによってクラス分けをするらしい。属性のバランスを見ながらクラス分けをするので、今日すぐにとはいかないようで、今日のところは先生の紹介と属性の測定を済ませたらおしまいだ。


 先生の紹介も終わり、測定の時間になった。みんなで測定会場へと移動する。属性の測り方はどうだったかというと、水晶玉に手をかざすだけという簡単なものだった。かざした水晶玉から溢れる光の色を見て属性を、その光の強さをみて神様or精霊か、また寵愛or加護かがわかるらしい。先に並んだ子供達の様子を見ていたが…。


 火属性の時は赤

 水属性の時は青

 地属性の時は茶

 風属性の時は緑

 光属性の時は黄


となるらしい。


 皆、ドキドキしながら手をかざし、自分の属性を知って楽しそうに騒いでいる。水晶玉から溢れる光はとても綺麗で、見ていてまったく飽きなかった。これが姉様の言っていた『楽しみに』ということだろうか。


 そして、あっという間に私の順番がやってきた。さすがにちょっと緊張する。が、先生に大丈夫と促されて、ドキドキしながら、手をかざす。するとー・・・


 赤、青、茶、緑、黄の強い光が水晶玉から測定会場に溢れんばかりにこぼれだした。


 先生達は、まさかすべての属性で神様の寵愛を得ているなんて!と騒然となり、子供達やその保護者たちも何事かとそのこぼれだした光に見入っていた。そして私は…呆然とその光を見ていた。


 最初に冷静さを幾ばくか取り戻した先生が、とりあえず私を測定済みの子供が待つスペースに案内し、それを見て他の先生も残りの子供達の測定を始めたのだった。


 そして、なんとか全員の測定を終え、今日のところは解散となったが、私と両親は引きとめられ、教員室へと案内された。


 曰く、神様の寵愛を受けているだけでも、この街では初めてだということ。

 2属性の神様の寵愛を受けているだけでも、神の寵児であるとされているということ。

 すべての属性で神様の寵愛を得ているなど前例がないこと。

 この地方都市の学校では教えきれないことが必ず出てくるので、首都の学校へ入学して国の保護のもと、その力を磨くべきだということ。


 両親は先生の話を真剣に聞いて、本気で首都の学校への入学を考えているようだった。


 私ももちろん自分のことだから、真剣に聞いていた。だが、頭の中で大部分を占めたのは…『やってくれた…』という感情だった。



 確かに前世での記憶を思い起こせば、夢に出てきた神様も1人ではなかったし、全員が愛してくれているのはわかる。でも、神様は言ったではないか。この世界では、『普通に生活できる』と。それなら、例えすべての属性で神様に愛されるにせよ、なぜ加護にしなかった?!すべての神様の寵愛などと前例のないことをしたら、普通に生活できるという範疇を超えてしまうではないか!神様の嘘つき!


 こんなことを考えていると、空がどんよりと曇ってきた。私の言葉に落ち込んでいるのかもしれない。が…落ち込みたいのは、私の方だ!



 先生の話が終わり、ようやく帰宅した頃には、夕方近くなっていた。普段なら早速夜ご飯の準備をするところだが、今日は早速姉様も含めての家族会議となった。家族会議…もちろん、私の進路についてだ…。


 7歳の私は席には着いているものの、話は私を除いた3人でどんどん進んでいく。その内容は私には初耳のことでいっぱいだ。


 両親の仕事は揃って研究者であり、もともと首都で仕事していたのを、子育てすることを機に惜しまれながら、この街に転居してきたこと。

 折に触れて、首都に戻る気になったら元の職場に復職しろと誘いがあったこと。

 故に、仕事の心配は全くないということ。


 姉様もこの春から初等科から中等科に進学する。姉様は魔法をすでに年齢相応以上に使いこなせていること。このままいくとこの街の学校では学ぶことが少なくなるのではと、両親が考えていたということ。つまり、姉様も首都に行くことで、より良い教育環境を得ることができるのだ。そして、姉様自身も首都に行く気満々…だということ。


 逃げ道は塞がれたー・・・


 私は今世こそ平穏に、ごくごく普通の生活を送ろうと、前世での記憶をはっきりと思い出した時に決めたというのに、そうはいかないようだった。やはり世界は変わっても神様の愛情は私には重いようだ。

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