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夏虫の憶  作者: ヤエムラ
壱.―音音―
8/8

壱ノ二.

 

 高木の幹の上からサッと飛び降りて来ると、法示郎さんは僕の頭を軽く撫でた。瞬間、「うわっ!」と彼の口から驚きの声が漏れる。


「どれだけお天道さんの下にいたんだよ!」


 撫でた頭の熱に眉を寄せ、「大丈夫か?」と己の手の平と僕の頭を交互に見やる。何気なく自分でも触れてみると、彼が驚くのも無理が無い程にとても熱くなっていた。恐らく木陰で休むことも、小川に立ち寄ることも怠っていたせいだろう。


「九郎さんがサオリを逃がしたんです。昼からずっと探してて……」

「昼から?――ああ、もう九郎の奴は何考えてんだよ。この炎天下の下、佐吾を扱き使うなんて」


 すっかり火照って熱くなった僕の頬を両手で挟み、法示郎さんが「とにかく休もう」と軽く撫でる。余程酷い顔でもしていたのだろうか、心配する彼の表情は渋いものだった。


 それから手にしていた頭巾を徐に外すと、覆い被せるようにして僕の頭の上にそれを乗せた。「あまり役には立たないけれど」とはにかんで、僕より大きな手でその頭を撫でる。思わぬ彼の優しさに、先程までの苛立ちがスッと薄れていった。


「サオリってアレだろ?九郎が飼ってる山楝蛇(やまかがし)のメス」

「はい……」

「またか、あのバカ」


 素直に答える僕に対しても、「おまえもお人好し過ぎる」と法示郎さんは口を尖らせた。正直言われなくてもわかっていたが、何故かいつも彼には絆されてしまう。結局その度に一人で苛々して後悔するのだから、九郎さん以上に僕自身にもホトホト呆れていた。


「苦手なんです。あの人の何を考えているのか、わからないところが」

「確かに、否定は出来んな」

「他の方だったら、こんなことに巻き込まれることはないのに……」


 割と僕の傍にいることの多い彼は、何かに集中すると周りが見えなくなる迷惑な人だった。ある一点に置いてとても優秀であることは承知しているけれど、それと普段の差はあまりにも激し過ぎる。好きなことに没頭するのは構わないが、こちらを巻き込んで騒ぎを起こすのだけは勘弁して欲しい。


「まあ、そう言ってやるな。俺も手伝うからさ」


 差し出された手を掴み、僕は「ありがとうございます」と呟いた。「どういたしまして」と返す法示郎さんに手を引かれ、疲れ切った足でその後を着いて行く。


 よく考えれば、あれから僕は一度も座っていなかった。

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