零ノ一.
商店街の一角に、万人受け出来るような生き物がいないことで有名なペットショップがあった。
通学路に面している為たまにショーウィンドウから中を覗くことがあるけれど、そこを訪れる客は少ない。恐らく原因は、店で売られている生き物の殆どが毒々しい色合いの爬虫類や、危険な虫達だからだと思う。
けれどたまに、そんなところと知っていながら冷やかし程度に中を覗いて行くことがある。
お店の店主は人の良さそうな中年の男性で、いつも丁寧に「どんな動物をお探しですか?」と、訊ねて来てくれる。けれどその度に僕は、「蛇を見に……」と歯切れの悪い言葉を返していた。
本当はそんなモノに興味も無い癖に、案内してくれる店主に頭を下げて、何時間も水槽の中の彼らを見詰めて帰る。「迷惑な客だな」と、水槽に反射する自分の顔に向かって苦笑を浮かべたこともあったが、店主から嫌な顔をされたことは一度も無かった。
それどころか、「いつか飼えるといいですね」と彼は優しく微笑んでくれた。
だけど僕が探す蛇の種類は、どこのペットショップにも売られていない。何故ならばそれが、飼育に許可のいる危険な毒蛇だからである。けれどここで待っていれば、いつか彼女を探しにあの人が来るのではないかと馬鹿な考えを廻らせた。
そしてまた、僕はここに通うのだ。
そんな折、ペットショップのショーウィンドウで蛙のようにへばり付いている彼を見た。僕と同じワインカラーの制服に身を包み、首にはライトグリーンの蛇を堂々と巻き付けて。
道行く人々が、その背中を訝しげに振り返る。けれど彼は向けられる好奇の視線など気にも留めず、只只ガラス向うの何かにその瞳をキラキラと輝かせていた。途端、呆気に取られていた筈の僕の口から小さな笑いが漏れる。なんて懐かしい光景なんだろうと、そう思った。
だっていつもそうやって動物達に気を取られ、ヘタして逃がして大騒動。「一緒に探してくれ!」と何度僕は貴方に頼まれて、そして何度貴方に「お願いだから大人しくしていて下さい」と、口を尖らせただろう。けれど貴方は一度だって、僕の言うことを聞いてくれた試しは無い。どれだけ心配してその背中を追っていても、貴方は振り返ってもくれなかった。
それでもまだ、貴方の生き方に未練のある僕はおかしいのでしょうか。
「やめておけ。今の九郎は、九郎であって九郎ではない」
彼に向かって伸ばしかけた腕を、突然誰かに掴まれる。グッと力を込められて、反射的にその手を振り返った。
――そこには、これまた同じ制服に身を包んだ一人の男子生徒が立っていた。こちらが驚く程に整った顔を歪ませて、僕の目をジッと見詰めてくる。耳に掛けていた彼の黒髪が、顔の近くでサラリと零れ落ちた。
「……久、親さん?」
――そうだ、僕はこの綺麗な人を知っている。
「久し振りだな、佐吾」
名前を呼ばれ、優しく微笑む彼の姿に僕はハッとした。