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戦いの行方とお茶会

「はぁ!」


 渾身の力を込めて、袈裟斬りに剣を打ち込んだ。

 正面で受け止められ、切り返される。


 動きに緩急を付け、フェイントを仕掛けて切り込んだ。

 的確に剣を逸らされ、受け流される。


 魔力で身体を強化し、素早い突きを繰り出した。

 体の軸をズラして避けられる。


「ふむ……」


「はぁ、はぁ」


 僕は手練の老騎士から、一旦距離を取って考えをまとめる。

 間合いはほぼ互角の筈だ。なのに当たらない。

 力押しでは勝てない。だからと言って、技術でも無理だ。

 どうしたって、何かが足りない。


 どうする。既に詰んでいるというのか。


「もう諦めるかね」


「いいえ、まだ諦めるつもりはありません」


 グランドムの問い掛けに対して、即答する。

 ここで諦めれば、僕の目的は果たせない。

 何か、こちらから仕掛けるしか無い。


 手に持つ剣を握りしめた。

 力や技では勝てない。

 残された道は、魔弾と魔法か。


「ただ、一撃入れれば良いのですよね」


「うむ、言葉を違えるつもりは無い」


「魔法を使っても?」


「構わんよ」


「では」


 僕がここまで真剣にやるのには訳があった。

 理由は、彼が本気を出さなければ貴族の話は無しだとか言い出したからだ。

 そして、彼は一つのルールを提示した。

 ただ、一発当てろと。


「ふむ……」


 別に、貴族に成るという事に極端な拘りは無い。

 何かを犠牲にして貴族になるつもりも無かった。

 だが、僕は彼女達の為にできる限りの事をしてあげたい。

 だから、自分の手の届く範囲では上を目指そう。


 無数の魔弾を、身体の周りに浮かべた。

 これはゲームだ。

 ただ当てれば良い、威力は弱くて良い。

 そう自分に言い聞かせて、魔力の塊を作り上げる。


「いきます」


「うむ」


 左腕を振るい、魔弾の一つを高速で射出した。

 しかし、魔弾はグランドムの目の前で打ち落とされる。

 大した反射神経である。


 続けて、次々と魔弾を射出していく。

 腕の振りは陽動だ。本当は腕など振らなくとも魔弾は放てる。

 腕の振りに合わせて魔弾を放ち、不意に、腕の振りとは別のタイミングで魔弾を放った。

 そして、あえて光らせた光球の中に、見え難いほぼ無色の魔弾を混ぜる。

 つまり、二段構えの陽動である。


 しかし、それらは工夫の甲斐も無くグランドムの剣によって正確に叩き落とされていく。

 そして、彼は、魔弾を叩き落としながら言った。


「ただ的になるのもつまらん。反撃してもかまわんな?」


「えぇ、もちろんです」


 僕の回答に、老騎士は即座に踏み込んでくる。

 それに合わせて左腕を前に構えた。


 思い浮かべたのは、散弾銃ショットガンだ。

 腕の先に、無数の魔力の粒を創造し、彼が迫るのに合わせて解き放つ。


「良い機転じゃ!」


 しかし、それも真横へと避けられた。

 やはり今までの踏み込みも、向こうは本気を出していなかったらしい。

 そして、一足跳びにこちらの間合いに踏み込んでくる。


「っ!」


 すぐに身体強化に意識を向けて、迎え撃つ。

 彼の一撃をなんとかして受け止めた。

 しかし、やはり力だけでは押し負ける。

 彼はこのまま振り抜くつもりなのだろう。


 そして、合わせられた剣と剣が、拮抗することもなく振り抜かれようとする。

 だが、これを待っていた。


「光よ!」


 剣に込めていた魔力を、魔法へと一気に昇華させる。

 輝き出す光の魔法に指向性を加えて、相手の顔面へと解き放つ。

 まるで特大のカメラフラッシュを焚いた様にして、グランドムの顔を強く照らした。


「ぬぉっ!」


 グランドムが声を上げ、そのまま力尽くで剣を振り抜いた。

 剣に体を預ける様にして、衝撃に備える。

 やがて人の体重を無視した一撃は、僕の身体を容易に吹き飛ばす。


「っ……」


 予め予想していたお陰か、姿勢を整えて地面に着地した。

 すぐに魔力を下半身に込める。

 僅かによろけながらも、クラウチングスタートを決めるようにして、相手の懐目掛けて地面を踏み抜いた。


 勝った。

 気持ちが急くのを抑えながらも敵へと迫る。

 だが、彼の次に取った行動は、僕の予想を遙かに上回った。


「ふんっ!」


 グランドムが剣を振るい、地面の土を巻き上げたのだ。

 大量の土砂が宙を舞い、僕の視界を埋め尽す。

 たまらず進路を変えて、僅かに迂回する。

 舞い上がった土砂の薄い所に突っ込み、泥を被り、砂に目を細めながらも、相対する標的へと駆けた。


 しかし、その僅かな時間が、一撃のチャンスを逃す結果となる。

 こちらが次に切り込んだ時には、既に鋭い視線がこちらを捕らえていたのだ。

 彼の剣が、僕の剣を難なく受け止める。


「いまの魔法、加減したな。全力を出せと言っただろう」


 鍔迫り合いをしながらも、僕は答える。


「目が一生見えなくなっても良いのですか? 僕の魔法は、目の奥の網膜を焼きます。この世界の魔法でも、治療できるとは限りませんよ」


 刀身をギラギラと輝かせながら、威嚇する様に言う。

 そうして一呼吸の間、にらみ合いが続いた。

 すると、グランドムは剣の込めた力を抜く。


「ふむ、それは困る」


 そして、彼の剣が構えを解いた。


「良いだろう。今日のところは、合格としよう」


 その言葉に、僕はホッと胸をなで下ろす。

 足元を見れば、人が数人は入れそうな大穴がポッカリと口を開けていた。




 戦いが終わると、すぐにフランが駆け寄って来る。

 いつから見ていたのだろうか。

 少しカッコ悪いところを見せてしまったかもしれない。

 彼女のすぐ後ろには、フレイヤも一緒であった。


「ご主人様、お怪我はありませんか?」


「うん、大丈夫だよ」


 心配そうな表情を浮かべる彼女に対して、なるべく微笑んで答える。


 そして彼女達の後ろには、こちらへ向かってくるもう二人の姿があった。

 彼らは、グランドムと一言二言、言葉を交わすと、こちらへと話し掛けてくる。


「まるで、お伽話の勇者だな。格好良かったぞ」


「もうアレンたら、茶化さないの」


 二人は城壁近くで医者を営んでいる、アレンとエリルであった。

 どうやら、グランドムは大事を取って医者を呼び寄せていたらしい。

 つまり、初めから激しい戦いをする用意があったという事だろうか。

 少し納得がいかない。


「茶化してなんか無いさ、あの調子なら、その内ジイさんにも勝てるんじゃないか?」


「もう、そんなわけ無いでしょ。グランドム様はリノスフルム王国の英雄様よ?」


 僕も、アレンを注意するエリルに同調しておく。


「そうですよ。手加減されていたんです」


 そう言って、地面に空いた大穴に、視線を向けて見せた。

 そこには、人が数人はスッポリと入ってしまう程の扇状の大穴が空いており、穴の近くには大量の土砂が撒き散らされていた。

 剣の一振りでこれだ。

 本気を出されれば、剣ごと叩き切られそうな気がする。


「まぁ、そうか。見た所、元気そうだが、どこか治す所はあるか?」


「えぇ、この通り、平気ですよ」


 そう尋ねるアレンに、僕は両腕を広げてみせた。



 医者のアレンには平気と言ったはずなのだが、屋敷の部屋を一つ借りてフランから治療を受ける。

 とはいっても、本当にどこかを怪我している訳でも無いのだが。


「ご主人様、早く服を脱いで下さい。お医者さんのいらない様な小さな傷でも、私が綺麗に治しますから」


「わ、フラン、本当に大丈夫だから」


 僕の服を無理矢理に脱がそうとしてまで心配する彼女を、どうにか宥めようとする。

 しかし、抵抗も虚しく、上着を脱がされてしまう。


 彼女は僕の周りを回るようにして、傷の有無を確かめる。

 しかし、一度剣を受けたはずの場所にも、傷痕は見当たらなかった。


「ほら、やっぱり大丈夫だよ。僕には例の契約の力もあるし」


「……」


 確かに、グランドムの容赦は無かったが、実際に剣撃を受けた所はあまり無い。

 やはり必要最低限の手加減はされていたのだ。


「どうして、あのような事になっていたのですか?」


「ちょっとした訓練だよ。フランは心配しなくても大丈夫」


 そう適当に誤魔化しておく。

 これは僕とグランドムの問題で、実際に訓練にはなっているので嘘は言っていない。

 彼女に心配を掛けるようなことでも無いだろう。


「そうですか……。出過ぎたことをして、申し訳ありませんでした」


 彼女は俯くようにして謝った。

 それにしても、彼女の元気があまりない気がするのは、気のせいだろうか。


「そんな事で謝らなくても良いのに。フランも僕にそう言うでしょ」


「いえ、そんな……」


「どうしたの、何かあった?」


 そう尋ねると、彼女は僅かに逡巡し、妙な質問が返ってくる。

 その表情は、真剣な様子であった。


「あの……私は本当に、ご主人様に甘えていても良いのでしょうか……?」


 その質問の意図は分からないが、こちらも真面目に答えておく。


「えっと、良いんじゃないかな。僕もいつもフランには甘えているし」


 答えの中に、少しばかり恥ずかしさが混じってしまう。


「ですが、私はご主人様のお役に立てていないと思います」


「役に立つとか立たないとか、あんまり関係無いんじゃ無いかな。家族って、そういうもんでしょ」


 すると、再び僅かに逡巡した後、彼女は額がこつんと僕の胸元に寄りかかった。


「では、甘えます……」と。


 彼女の微かな声と共に、石鹸の香りを感じた。

 不意の出来事に、鼓動が高鳴り、戸惑いを隠せない。

 僅かな間、沈黙が続くと、彼女の身体が離れる。


「フラン?」


「えっと……もう大丈夫です。何でもありません……。いつもの我が儘と思って許して下さい」


 そう言って彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。




***



 用意されたお風呂で身体の汚れを落とし、用意された小綺麗な着替えに身を包んだ。

 フランとフレイヤは、別室でお留守番であるらしく、僕だけ大きな部屋に通される。

 大きなテーブルが一つ、その上にはティーセットの様な物が準備されていた。

 そして、そこで待っていたのは、色取り取りの可憐なドレスに身を包んだ少女達であった。


「お初にお目にかかりますわ。ユウ様」


 しかし、何故こんな状況になっているのだろうか……。

 目の前には、こちらに好意的な微笑みを向ける、年頃の少女の姿があった。

 ピンクのドレスに身を包んだ。見目麗しい女の子である。


わたくしは、リーリエ・ヘイム・アレイスターと申しますの。歳は15。特技は、ダンスとバイオリン。あと、細剣レイピアが得意ですわ」


 そう言って、彼女はクルリと回ってみせた。

 しかし、最後のは余計じゃ無いだろうか。

 細剣が得意なんですか。そうですか。


 そうして、次の少女が僕の前へとやって来る。

 これはなんかのオーディションなのだろうか。

 少女はスカートの裾を両手で持ち上げて、ペコリとお辞儀した。


「ミーア・ラウ・ファングスです! 8才です! 特技は、えっと、風魔法が使えます!」


 彼女は手に持ったハンカチをフワリと浮かべて見せた。

 それをさらに風でクルクルと回し始め、折り紙の様にして空中で折って行く。

 すごい、技術だ。

 風魔法はあんな事も出来るのか。

 そう関心して見ていると、ミーアは「あっ……」と小さな声を上げた。


 どうやら何か失敗したらしく、ハンカチがこちらに向けて飛んできてしまう。

 目の前まで飛んできたので、受け取って返してあげる。

 すると、彼女はお礼を言って、恥ずかしそうに微笑んだ。


 流石はファングス家、あざといですわね……とか後ろの方で聞こえている。

 なんか、色々と間違っている気がする。特にアピールポイントが。


 しかし、なぜ僕が見知らぬ女の子達に自己紹介を受けているのだろう。

 すでに5、6人目くらいだろうか。

 しかも、まだ半分くらいである。


 やがて自己紹介が終わると、一つの大きなテーブルを囲み、お茶会が始まる。

 総勢十数名。この人数でテーブルを囲むのだからなかなか壮観である。

 そうしていると、隣に座る、水色の髪が印象的なご令嬢に話し掛けられた。


「ユウ様は、どちらのご出身なのですか」


「ええと、実は事情があって、出身についてはあまり詳しいことは言えないのです」


 名前はユーニスさんだったか?

 さすがに全員の名前をいきなりは覚えられないが、彼女の披露した演舞は衝撃的だったので覚えていた。

 彼女は槍術にかなり堪能であるらしい。

 いまは髪色と同じ、綺麗な水色のドレスに身を包んでいるので、武人という印象は微塵も感じさせないのだが。


「そうなのですか。私の故郷は、リノより南のアントシエにありますの。ユウ様は旅行はお好きですか?」


「旅行ですか、いつか世界を巡ってみたいとは思いますが……」


「まぁ、それは良かったですわ」


 そう言って、彼女がずいと近寄ってくる。

 しかし、この人距離が近いな。

 ドレスの合間から、胸がみえ……。


「ユーニスお姉様。いくらお嫁の貰い手が居ないからと言って、色仕掛けは卑怯ではありませんか?」


「あら、私としたことが、フェアじゃなかったですわね」


 そう言いながらも、こちらに肩と肩が触れる程近付いて来る。

 そして、ニコリと微笑んだ。


「リーリエには、無いですものね」と。


「な、なんですってっ……!」


 しかし、僕を間に挟んで喧嘩するのはやめて頂きたい。

 リーリエと呼ばれた少女はぐぬぬといった表情を浮かべると、僕の腕をギュッと抱きしめて引っ張った。


「ユウ様、あんな年増は放っておいて、こちらにでゆっくりお話ししませんこと?」


「あらあら、この子ったら。無いものを押しつけたりして、はしたなくってよ」


「ユーニスお姉様こそ、そのはしたない物をお隠しになるべきだわ。いい加減、年相応の慎ましさを覚えて頂きたいものですわね」


「うふふ、私は慎ましすぎるのも考え物だと思うのだけどね。では、伺ってみましょうか。ユウ様は一体どちらがお好きなのかしら」


 僕を宗教戦争に巻き込まないで欲しい。

 と、そんな論争が起きる最中、僕の背中をツンツンとつつく者が現れた。

 彼女はええと、ミーアちゃんである。彼女は勇者か。


「ユウ様、お祖父様から珍しい魔法をお使いになると聞きました。一度見てみたいのですが……」


 そう上目遣いで尋ねられた。

 仕方なく、彼女を連れて席を離れる。ここは危険だ。共に行こう。

 席を移り、いくつかの魔法を披露すると、ミーアは年相応の無邪気な笑顔を見せて喜んだ。


「すごい! すごい!」


 そんなに凄いだろうか。

 ちょっと調子に乗り始めて、魔法で光の人形などを作り出して動かして見せる。


「すごーい!!」


 僕からすると、彼女の喜びようの方が余程凄い。

 彼女は人を乗せる天才か。

 しかし、そうしていると、今度は別の女の子に腕を引かれて連れて行かれる。

 文字通り、引っ張りだこである。


「ユウ様、こちらの紅茶は私のお家の自家製ですの。お口に合いまして?」


「えぇ、とても美味しいと思いますよ」


「それは良かったですわ。実は、年代物のワインもお持ちしていますの」


 今夜ご一緒にいかがですか、と耳打ちされる。

 と、反対側から、それを引き離すように腕を引っ張られた。


「あら、そんなつまらない話ではなく、もっと実のある話をしませんこと?」


 ええと、彼女は名前はなんだったか。

 彼女は察したのか、エリーシェと名乗った。


「ユウ様は武芸を嗜まれているとか。かの死神をお一人で退治なさったと小耳に挟みましたわ。武勇をお聞かせ願えませんかしら」


「私も! 私も聞きたいです!」


 と、いつの間にかミーアちゃんが隣にやって来ている。

 彼女は年上のお姉様方に囲まれているにも関わらず、まるで物怖じしていない。

 彼女は勇者か。

 だがごめんよ、それについてもあまり詳しく話せ無いのだ。


 その後も席を代わる代わる、話しかけられ、引っ張り回され、しばらくの間振り回される事となった。


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