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パーティー

 森の中で出会った、弓兵のフューリに、馴れ馴れしく肩を組まれながら村まで歩く。

 彼は、少しお調子者の様だが、面白い。


「なんだよ、ユウ! お前、あのときウルフに喰われかけてた、奴だったのか!」


「はい。お二人とも、あの時はお世話になりました」


 僕は、メルドとフューリに助けられた事を話して、お礼を言った。


「あっはっは、良いって良いって、今度なにか奢れよな?」


 フューリは、僕の肩を叩きながら言った。


「えぇ、機会があれば」


 僕はフューリに答える。


「フューリ、貴様はユウが襲われているのを知りながら、気が付かないフリをしていただろうが」


 メルドが、フューリに低い声で言った。


 僕は、メルドの言葉にフューリの顔を見る。

 今の話が本当ならば、フューリのことはあまり信用しない方が良いかもしれない……。


「いやぁ……だってしょうがないじゃん? 普通に考えて、貴族の馬車の方が優先でしょ……」


「あの馬車には、魔法障壁が掛けられていただろう。放っておいても平気だった」


「そりゃあ、そうだけどさ……」


 メルドの言葉に、フューリが弱々しく答えた。


「あの時は、僕が不用意に武器を持ってなかったのも悪いんです。馬車の人には、治療費も出してもらいましたし、誰も気に病む必要はありませんよ」


 僕は少しだけ思うところもあったが、フューリをフォローした。

 彼の立場だと、貴族を助けるのが正しいのかもしれない。

 それに、実際あのケガが無ければフランと契約する事もできなかった訳だし、あれはあれで良かったと思う。


 僕の言葉に、メルドが少しだけ笑った。


「ふっ……。でも、奢るというのは撤回しておけ。フューリの場合は、酒だけじゃ済まないからな」


 メルドが僕に忠告をする。

 僕はメルドの言葉を素直に受ける事にする。

 何だかよく分からないが、その方が良さそうだ。


「フューリさん、そう言う事なので、さっきのは無しで」


 僕は、フューリに向けて言った。


「ちぇー、メルドは俺にだけ厳しいよな」


 フューリが拗ねる様に言った。


「ふん……」


 フューリの様子に、メルドが鼻を鳴らす。


 少しずつ村に近づくと、村の入り口から手を振る人が見える。


「アレックスだ」


 隣に居たフューリが言うと、アレックスに向けて手を振った。

 メルドも控えめに手を上げて答える。


 そして、アレックスはこちらに走り寄って来て言った。


「ユウも一緒だったのか」


 アレックスは一度、僕の方を気遣うと、メルドの方を見て真面目な顔をして言う。


「メルド、どうだった?」


「あぁ、ダメだった、見つからん。昨日、今日で奴に狩られた様な魔物もいなかった」


 メルドが答えると、アレックスは残念そうに答える。

 そして、続けてフューリに尋ねた。


「そうか……。フューリ、何か手掛かりになりそうなものは、感じられたか?」


「うーん、全然。あいつ近くに居ても気配ないんだぜ? ありゃ、純血だって無理だって……」


 フューリが、両手を上げて答えた。

 その様子にアレックスが頷く。


「分かった。俺たちは予定通り、町の防衛に回ろう。それと、今日の帰還には彼も同行する」


 アレックスが言うと、メルドとフューリが頷いた。


 そして、アレックスが集団に向けて声を上げる。


「みんな、今日は解散だ。各自、本部で報告を上げて休んでくれ」


 彼の声に、一同が解散を始める。


「メルド、フューリ。報告を上げたら、一時間後に出発しよう」


「あぁ、分かった」


「はいよ」


 メルドとフューリも、アレックスの言葉に返事をすると、歩き始めた。


「ユウ、悪いが、もう少し待っていてくれ」


「うん、了解」


 僕がそう答えると、アレックスは走って行ってしまった。





 僕は一人、村のアーチのそばで待つ。

 もうしばらくすれば日暮れだ。


 これからまた、この草原を歩く事になる。

 町に着くまでには、日が沈んでしまうだろう。

 当然、魔物だって出るかもしれない。


 しかし僕は、不安よりも期待という気持ちが強かった。

 なぜなら、この世界で初めて同年代の青年達と時間を共にする事になるからだ。


 彼らとは、なんだか友達になれそうな気がした。





 僕が少しの間待っていると、アレックスが重そうな荷物を背負ってやって来た。


「お待たせ。あいつらも、もうすぐ来る」


「うん。そんなに荷物があるんだね」


 僕は、彼に荷物の事を尋ねた。


「今回は長かったからな」


「町までの間、入れておこうか?」


 僕は彼に提案する。

 僕の場合は、どれだけ荷物が多くても、皮袋に入れてしまえば関係ない。


「よせよ。人目に付く場所では使わない方が良い」


 彼がやんわりと断った。


「じゃあ、村を離れたら、町の近くまでにしよう。それなら平気でしょ?」


 別に見せびらかしたい訳では無いが、彼ら三人には何か恩返しがしたかった。


「それなら、良いか。よろしく頼む」





 しばらくの間、アレックスと世間話をして過ごしていると、メルドとフューリも大きな荷物を背負ってやって来た。


「待たせたな」


「お待たせさん」


 全員が揃うと、アレックスが小さな石板を取り出しながら言った。


「よし、早速出発しよう」


 アレックス、フューリ、メルドの順に腕輪を近づけて行く。

 そして、アレックスがこちらを向いて言った。


「ほら、ユウも。町までの臨時だが、パーティーだ。一緒に組もう」


「うん、ありがとう。よろしく」


 僕は、お礼を言って腕輪をかざした。

 僕の腕輪と小さな石板が共鳴する。


 しかし、パーティーってなんだ……。

 自然と応じてしまったが、良かっただろうか。


 フランの時と同じ様に、経験値を共有とか、そういうやつだろうか……。


 そして、僕の腕輪を見たフューリが驚いた様に口を開いた。


「げげっ、ユウは貴族だったのかよ」


 そういえば、腕輪を隠すのを忘れた……。

 別に隠す必要も特には無いのだが、あまり気を使われたくもない。


「フューリは、随分とユウに慣れ慣れしかったからな。町に帰ったら、牢屋行きだな」


 メルドが脅かす様に言うと、フューリが僕に謝った。


「いや、それは勘弁! ユウ! ごめん、許して!」


 僕はその様子を冗談と捉えて、笑った。


「あはは、そんな牢屋なんて」


 僕が笑っていると、アレックスが口を開いた。


「あー、ユウ。フューリが何かしたなら、許してやって欲しい。フューリは、少し前にも貴族の娘の機嫌を損ねて、牢屋に入れられたばかりなんだ」


 アレックスの顔は、少し真剣に言った。

 僕がフューリの方を向くと、彼はまだごめんなさいのポーズをしている。

 本当に冗談という訳ではないらしい……。


「えっと……分かった。許すから、顔を上げて欲しい」


 僕は、フューリに向けて言った。


「ふぃー、助かったー。でも、なんで貴族様が冒険者なんてやってるんだよ」


 フューリがアレックスに向けて、愚痴を漏らした。


「メルドと同じで変わり者なんだよ」


 アレックスは、メルドの方を向いて言った。


「ふん……」


 そういえば、メルドの腕輪は赤いリストバンドに隠れて見えなかった気がする。


「メルドさんも、貴族なのですか?」


「まぁな」


 メルドが答える。


「ユウ、メルドもフューリも気にしないから、もう少し遠慮無く話そう。その方が、気が楽だ」


 アレックスがそう言うと、二人とも頷いた。


「あぁ」


「そうそう。貴族に敬語使われるとか、誤解されかねないっての」


 僕も、それならと改めて言った。


「うん、分かった。そうするよ」


 僕の言葉に、三人とも快く頷いた。





 アレックスとフューリを先頭に、僕とメルドが後に続く。


「それでさ、メルドの奴が俺の目の前で、魔物の死体を燃やしやがったんだよ」


 フューリが話す内容は、どうやらメルドの愚痴らしい。

 アレックスは、笑いながらフューリの話を聞いていた。


 僕は、隣を静かに歩くメルドの様子を伺う。

 彼の格好は、如何いかにも魔法使いといった出で立ちで、僕の好奇心をくすぐった。


 彼の着ている真っ赤なローブや、手に持つ大きな杖は、魔法や魔力を高めたりするためにあるのだろうか。


 そんな事を考えながら彼の方を見ていると、彼が僕の視線に気が付いた。


「ん? どうした? ユウ」


 僕は、何となく思った事を口にする。


「ねぇ、メルド。魔法ってどんなのがあるの?」


「突然どうした? あれほどの魔力制御を行っておきながら、魔法を知らない訳では無いんだろ?」


 彼は、少し僕の事を買い被っている様な気がする。


 正直、今の僕は、魔法らしい魔法は使えない。

 魔力制御というのも、おそらく人よりも少し多めの魔力で包んでいるだけだろう。


「実は、魔法については最近学び始めたばかりなんだ。今はこんな風に基礎しかできない」


 僕は自分の前に手を広げて、光の玉を作ってみせた。

 すると、メルドは驚いた様に声を上げる。


「おい、ユウ。お前の属性は?」


「えっ? あ、うん……。光属性っていうらしい。やっぱり珍しいの?」


 僕はメルドに尋ねる。


「あぁ、珍しいな。本で読んだ事はあるが、この目で見るのは初めてだ」


 彼が僕の言葉に答えた。


「そうなんだ。僕は、この属性でどんな魔法が使えるか分からなくて、こんな風に基礎しかできないんだよ」


 夕暮れの草原の中、踏みならされた道を照らした。


「なるほどな……。でも、どの属性も、それぞれの特性を除けば、ほとんど変わらないさ。俺の魔法で良ければ、少し見せてやろう」


 メルドはそう言うと、手の平に火の玉を出現させた。

 メラメラと燃える火の玉は、とても熱そうに見える。


「知っていると思うが、魔法の基本は、想像だ。魔力を魔法に変換し、意思を込める事で操作する」


 メルドはそう言うと、前方に向けて火を放った。

 火の玉は大きく放物線を描くと、先を歩くフューリの目の前に着弾する。

 そして、小さな爆発音と共に、一瞬だけ辺りを照らした。


「おい! あぶねーだろ!」


 フューリがメルドに反論したが、メルドは気にせず僕の方を向いて言った。


「簡単だろ? 呪文や術式を利用したモノもあるが、基本は全て同じさ」


「なるほど……。でも、やっぱり僕の属性だと攻撃魔法は難しいのかな……?」


 僕もフューリの事は気にせずに、メルドに言った。


「ふむ……。なるほど……光か……」


 メルドは少し考える様にして言った。





 そうして歩いていると、前方から声が聞こえた。


「おーい、ユウ。すまないが、荷物を頼めないか? さっきからフューリがうるさくてな」


 アレックスに続いてフューリが口を開いた。


「アレックスが勿体ぶって言わないからだろ? それで、ユウ。面白いものって何なんだよ」


 僕は皮袋を出すと、アレックスの荷物を受け取る。

 そして、彼の荷物を皮袋に押し込んだ。


「おい、マジかよ。入っちゃったぞ? すげーな! アレックス、今の見たか? どうなってるんだ?」


 フューリが騒ぐなか、僕はメルドに声を掛ける。


「メルドも、町までで良かったら、荷物を入れておくよ」


「ふっ……面白い。一体どこで手に入れたんだ?」


 そう言って、メルドは荷物を僕に渡した。


「ふふ……内緒」


 僕は、そう言って受け取った荷物を皮袋の中に入れた。


「フューリは?」


 僕は、アレックスの隣で騒いでいるフューリに声を掛ける。


「マジか! 頼む!」


 フューリの荷物も受け取って、皮袋の中に入れた。


「あの大きさの鞄が3つか……。袋の大きさといい、収納量といい、規格外だな……」


 メルドが横で呟いた。


「なぁ! ユウ! 一体どれくらいまで入るんだ?」


 フューリが僕に尋ねた。


「もう少しだけなら。あと、この魔道具の事は、内緒ね」


 僕は、控えめに答えておく事にする。

 僕が答える様子に、アレックスも頷いた。





「アレックス、今度どこか遠くに行く時はユウも連れて行こうぜ!」


 前の方で何やら僕の話をしているらしい。

 フューリの声は、よく響くのでこちらまで聞こえる。


 どうやら、僕の魔道具が目当てらしい。


 そんな事を考えていると、隣を歩くメルドが口を開いた。


「なぁ、ユウ。魔弾って知ってるか?」


「魔弾?」


 僕はメルドに問いかけると、メルドは前方に向けて手を伸ばした。


「こんな感じだ」


 メルドが言うと、一瞬だけ彼の手にとても濃い魔力が集まった。

 そして前方に飛んで行く……。


「おい! メルド! 痛いだろ!」


 メルドの放った魔力は、フューリのお尻に当たったらしく、手で摩りながら押さえながら言った。

 アレックスは、笑いながら隣でフューリをなだめている。


「すまんな。ユウに魔法を教えているんだ。実験台になってくれ」


 メルドがフューリに向けて言った。


「やだよ! なんか別のものにしろよ!」


 メルドは、フューリへの対応をそこそこに、僕の方に向き直って言った。


「今のが魔弾だ。魔法を発動させずに魔力だけを飛ばす。普通に魔法を飛ばすよりも難しいし、射程も短い。それにただの魔力の塊だからな……威力も少ない」


「なるほど……魔弾か……」


 僕は、手の平の上に魔力の固まりを浮かべて、草原に向けて放った。


 すると、少し先の方で光が弾ける。

 どうやら失敗したらしい。

 もっと魔法が発動しない様に、魔力を固める様にイメージしたりするのだろうか?


「すまんな。光を上手く扱う様な魔法は、すぐに思いつかなくてな。魔弾も、普通なら魔法を扱う上での練習にしか使われない。魔法をより遠くに飛ばすための練習にな」


 メルドは少し残念そうに答えた。

 しかし、僕はそんな彼に好印象を抱いた。

 少しの間だけでも、真剣に考えてくれていた様だ。

 僕は、そんな彼にお礼を言う。


「ううん、ありがとう、メルド。参考になったよ、練習してみる」


 そして僕は、草原に向けて魔弾の練習をしながら歩いた。


 僕の練習中には、メルドが熱心にアドバイスをくれた。





 しばらく歩いていると、日も少しずつ暮れ始める。

 オレンジ色の夕日に照らされて、草原が黄金色に染まっていた。


 すると、前を歩くアレックスとフューリが立ち止まる。

 僕とメルドが、前の二人に追いついた。


「メルド、ユウ。日が沈み切る前に、この辺で休憩を取ろう。ユウ、一度みんなの荷物を出してくれ。メルド、今の内に魔光石まこうせきの準備を頼む。俺とフューリで、みんなの夕飯を作る」


「あぁ」


「うん、分かった」


 アレックスの言葉を受けて、僕は荷物を一つ一つ出してゆく。


 アレックスとフューリは、荷物を受け取ると火を起こし始めた。

 メルドが魔法でやれば簡単なのではと思ったが、二人はあっという間に火を起こす。

 かなり慣れているのか、なにか魔道具でも使ったのだろうか……?


 そして、僕の隣にいるメルドは、カバンから何かゴツゴツした石を取り出すと、魔力を込め始めた。


「メルド、それが魔光石?」


 僕は、彼の横でその様子を覗き込みながら言った。


「あぁ、そうだ。知らないのか? 町の明かりにも使われているはずだが」


 メルドは、石に魔力を込めながら言った。


「僕はこの世界の事は、あまり知らないんだ……」


 僕は、なんとなくそう答える。


「ふっ……。そうか……。俺も屋敷を出るまでは何も知らなかったからな……」


 メルドは少しだけ笑うと、魔光石を僕に見せた。

 そして、説明をしてくれる。


「これは、魔光石と言うんだ。こうして魔力を込める事で、しばらくの間は発光する」


 そして、メルドは魔力を込めた石を僕に渡した。

 その石は、ぼんやりとホタルの様に光っていた。


「メルド、これはランプの代わりに使うの?」


「そうだ。腰にぶら下げて、町までの明かりにする」


 メルドは、そう言うと、二つ目の魔光石に魔力を込め始めた。


「メルド、手伝うよ。ただ魔力を込めれば良いの?」


 僕は、地面に広げられている魔光石を指して言った。


「あぁ、頼む。でも、無理はするなよ。町までは、まだ半分あるんだ」


 メルドは、そう言うと魔光石の内の一つを僕に手渡した。

 そして、やり方を説明する。


「魔力を内側に込めるイメージだ。少しずつ詰め込む様に、より長く、留まる様に……」


 僕は、メルドの声に合わせて魔力を込める。


 僕の魔力を受けて、魔光石が光り始めた。


「やはり、上手いな。魔力の制御はどこで習ったんだ?」


「えっと……。ギルドの人に教えて貰った」


 僕は、魔光石に魔力を込めながら、メルドの質問に答えた。


 作業を終えて、僕とメルドが世間話をしていると、アレックスがこちらに向けて声を上げた。


「ユウ、メルド。準備ができたから、みんなで食べよう」


 僕とメルドが鍋まで行くと、準備されていたのは、良い香りのするスープだった。


「ほら、ユウ」


 アレックスが僕に、スープの入った器とパンを差し出した。


「ありがとう、アレックス」


 僕は、お礼を言って受け取る。

 スープの香りが食欲をそそる。

 スープは、緑の葉っぱとベーコンの入ったシンプルなモノだった。


 しかし、即席にも関わらず、とても良い香りだ。

 なにかダシでも入っているのだろうか……?


「飲んでみろよ。フューリは、弓と料理だけは上手いんだ」


 隣に座るメルドが言った。


「うん」


 僕は、メルドの言葉に頷いて、スープを飲んだ。


 歩き疲れた身体に、温かいスープが染み渡る。


「うん、美味しい」


 しばらくの間、四人で夕飯を楽しんだ。





 夕日が沈み、辺りが暗くなる頃に、丁度片付けが終わった。


 僕は、再びみんなの荷物を預かり、皮袋の魔道具に入れた。


「さぁ、出発しよう」


 アレックスの合図で、みんなが歩き出す。


 少しずつ、打ち解けて来たのか、今度は四人で並んで歩いた。


「なぁ、ユウ。光属性ってどんな魔法が使えるんだ?」


 フューリが僕に声を掛けて来た。


「実は僕も、あまり分からないんだ。でも、目眩しには使えると思う」


 僕は彼の質問に答えながら、実際に実演して見せる。

 僕は、歩く方向に手を伸ばして、魔法を発動させた。


 夕日の沈んだ、真っ暗な草原に、一瞬だけ光が瞬いた。


「うわっ、眩し」


「これは凄いな……」


 フューリとアレックスがそれぞれ言った。


 そして、続けて懐中電灯の様に夜道を照らした。


「あとは、こんな風に暗い場所で明かりにするくらいしか、思いつかないかな……」


 そして僕は、色の変化や光の強弱を見せた。


「へぇ、すげぇな」


「あはは、芸達者だな」


 フューリとアレックスが笑いながら言った。

 確かに見た目が派手なのは、僕も認めるところだ。


 そうして、点滅させたり、サーチライトの様に指向性を加えたり、色々と披露する。


 そうしていると、メルドが呟いた。


「なぁ……。一体どれくらいの間、魔法を使っていられるんだ?」


 僕は、彼の質問に答える。


「えっと、限界を確かめた事は無いけど、しばらくの間は大丈夫だと思う」


「その光量でか?」


「えっと、光の量はもう少しいける」


 僕は、そう答えて魔力を込めて明るさを増した。


「ふむ……」


 メルドが言うと、フューリが口を開いた。


「なぁ、死神を探す時さ……。ユウの魔法で見つけられるんじゃね?」


 そして、フューリの言葉に、メルドが頷く。


「あぁ……いまそれを考えていた」


 しかし、二人の考えを遮る様にアレックスが口を開いた。


「よせよ、ユウのレベルでは危険すぎる。仮に死神を見つけられたとしても、真っ先に狙われるだろ?」


 アレックスは、メルドとフューリの意見の危険性を指摘する。


 僕は話の内容がよく分からないので、彼らに尋ねる。


「ねぇ、死神を見つけるってどういう事?」


 僕の質問に、アレックスが答える。


「死神は、闇に隠れるんだ。隠れた死神を見付けるには、強い光を当てる必要がある。だから今は昼間の内に探して、夜は明かりを焚いて備えてるんだ」


「なるほど……」


 アレックスの説明に、一応は納得する。


 僕の時も死神は、消えたり現れたりを繰り返していた。


「ところで、ユウのレベルは?」


 メルドがアレックスに尋ねる。


「8レベルだ」


 アレックスが答えた。


 彼らのレベルは分からないが、僕が低い事は分かる。

 僕は、普通に暮らしていた、フランよりも低いのだ。


「そうか……」


 メルドが少し残念そうに言った。


 やはり、レベルか……。

 僕はメルドの反応に、少しだけショックを受けた。


 この世界でのレベルという概念は、とても大切な意味を持っているのだろう。

 もちろん、強さのバロメーターであるレベルが、大切でないはずが無いのだが……。


 レベルを上げないとな……。

 そんな事を改めて思った。





 そうして歩いていると、静かにしていたフューリが、突然声をあげる。


「おい、アレックス! メルド!」


 そして、フューリが背負っていた弓を、その手に構えた。


「森から5匹! この感じは、マッドウルフの群れだ!」


 フューリの掛け声と共に、アレックスが素早く武器を抜いて前に出た。


 僕も、彼に習って武器を構える。

 そして、魔力で剣と体を包み込んだ。


 しかし、少し焦っているためか、魔法が自然と発動し、僕の体と剣を光らせた。


「ユウ! 君は、下がっていろ! レベルが違い過ぎる!」


 アレックスの声が聞こえたかと思うと、隣に居たメルドが僕を庇う様に歩み出た。


わがうちたけほむらよ、火球かきゅうりて、とも仇成あだなてきて!」


 メルドの詠唱と共に、杖の先に魔力が広がった。

 彼の魔力が暗闇の中、ゆらゆらと赤く輝き揺れる。

 その様子は、とても神々しく見えた。


「フレイムブリッド!」


 メルドの掛け声と共に、一気に魔法が解放される。

 杖の先端から、いくつもの火球が飛び出した。


 火球は、放物線を描きながら飛んで行き、着弾する。

 命中した辺りが、一瞬だけ赤い光に染った。


 五つの炎の内、二つが魔物に当たるのが見えた。


「ははっ、外したな! メルド!」


 弓を構えるフューリが笑う。


「ちっ、うるさいぞ、フューリ!」


 メルドはフューリに反論をすると、再び杖に魔力を込め始める。

 しかし、メルド呪文を唱えるよりも先に、フューリの言葉が草原に響き渡った。


かぜよ、おれはなてきもとみちびけ! フォローショット!」


 彼の放った矢は、目にも止まらぬ早さで、闇の中へ飛んでゆく。

 そして、そのすぐ後に、甲高い魔物の悲鳴が聞こえた。


「フレイムブリッド!」


 直後にメルドの詠唱が完成し、再び暗闇の中へと放たれる。

 しかし、放たれた火球は、草原を明るく照らしただけだった。


「ちっ。外した、来るぞ!」


 僕の目の前でメルドが叫んだ。


「フォローショット!」


 そして、またフューリの矢が草原へと放たれた。


「やべっ、俺も外した」


「みんな下がれ!」


 アレックスが叫んだ。


 前方は暗闇に満たされ、魔物のその姿はほんの僅かでさえも捉えることはできない。

 自身に受けた痛みが、前に立つ仲間が噛み付かれる姿が頭を過った。


「っ……」


 僕は意を決して歩み出す。

 そして、メルドとフューリの前に立ち、アレックスと肩を並べた。

 やはり、後衛は前衛が守るべきだ。


「おい、お前は下がってろ」


 後ろでメルドが何か言った気がしたが、僕はそれを無視して前方に腕を構える。

 そして、真っ暗な草原に向けて、魔法を放つ。

 眩い閃光が、辺り一面を照らした。


 僕の光を受けた魔物が、暗闇から浮かび上がる。

 予想よりも、遥か近くに接近されていた。

 二匹の魔物の内、一匹が僕に飛び掛かって来る。


 僕は魔物の軌道に合わせて剣を突き刺す。


「はぁっ!」


 剣を握る手の確かな手応えと共に、魔物の体が僕に直撃した。

 まるでトラックでもぶつかって来たかのような衝撃。

 無様にも魔物の体当たりを受けて吹き飛ばされる。

 気が付けば、握った剣の柄を生暖かい血が滴り落ちていた。


「いてて……」


 体の発する重く鈍い痛みに耐えながらも、体の上で息絶えた魔物を体から退かした。


「無茶をしたな」


 メルドがそう言いながら、僕に向けて手を差し伸べた。


「あはは、そうかもね」


 僕は彼の言葉にそう答えて、手を取った。


「でも、助かったよ。ありがとう」


 最後に、メルドがそう小さく呟いていた。





「メルド、これじゃあ素材を回収できないじゃないか……」


 フューリが、メルドが倒した黒焦げの魔物の前で言う。


「うるさい、だったらお前が全部仕留めろ」


 メルドがフューリに反論をする。


「いや、それは無理だし……」


 僕は二人の喧嘩をそこそこに、アレックスの方に目をやる。


 アレックスが倒した魔物は、既に解体済みのようだ。

 僕はメルドに教わりながらも、一匹目の魔物を解体し終えたところであった。


「ユウ! こっちを照らしてくれ!」


 アレックスが矢の刺さった、狼のところで僕を呼ぶ。


「少しの間、明かりを頼む」


「うん、分かった」


 僕は彼の言葉に頷いて、彼の手元を照らす。


「しかし、よく刃が通ったな。マッドウルフは30レベルくらいあるんだぞ」


 アレックスが魔物を解体しながら言った。


 アレックスの短刀には、恐ろしい程精密に魔力が込められていた。

 僕と違って魔力に無駄が無いのだ。

 そして、彼の刃は、特別力を入れた訳でもないのに、何の抵抗も無く魔物を切断する。

 ほとんど音も無く、まるで柔らかいモノを切る様に……。


「うーん、まぐれかも」


 僕は、アレックスの解体を眺めながら、答えた。


 この魔物は、思ったよりもレベルが高かったらしい、我ながら危ない橋を渡ったと思う。


 僕は、たった一度の戦闘で、彼ら三人がとてもレベルの高い冒険者である事を理解した。

 こんな暗闇のなか、見えない魔物に魔法や弓を当てる事ができる。

 そして、単純に剣に魔力を込めるだけでも、こんなにも正確に魔力を制御できる。


 僕には、知るべき事が沢山ある事を、改めて思い知った瞬間でもあった。


 僕は、少しでもその技術を得ようと、アレックスの魔力制御を見つめた。





「ユウの魔法は便利だな」


 僕の隣を歩く、アレックスがそう言った。

 僕は草原に伸びる踏み均された道を、魔法で照らしていた。


「うん、暗い所ではそうかも」


 僕は何気なく答える。


「あぁ、暗い所ではもちろんだが、本当にずっと魔法を発動していられるんだな」


 今度は、メルドが言った。


「あはは、魔力の効率だけは良いのかもね」


 メルドの言葉に、僕が答える。


「アレックス。やっぱり、ユウに手伝っておうぜ。捜索にだって、明かりが必要だろ?」


「それはそうだが……」


 フューリの言葉に、アレックスが言った。


「アレックス、僕の魔法があれば、死神を見付けられるの?」


 僕は、アレックスに尋ねた。


「あぁ、おそらくね。でも、死神は強い。やはり、危険だ」


「そんな事言ったら、誰だって危険だろ? 町の近くに来ている可能性もあるんだし、早く退治した方が良いって」


 アレックスの言葉に、フューリが反論する。


「そんなこと言って、討伐報酬が欲しいだけなんじゃないのか?」


 そんな中、メルドが隣でボソっと言った。


「……」


 メルドの言葉に、フューリが一瞬ギクリと反応した様な気もするが、気のせいだろうか……。


「アレックス、もし僕が死神の事で役に立てるなら、手伝いたい。それに、君らと一緒に居ると色々と学べそうな気がするんだ」


 僕は、自分の意志を伝える。

 どちらも本当の事だ。


 彼らと行動を共にできれば、僕にとってはかなり有益な事だろう。

 そして、死神を倒す事ができれば、フランが気に病む事も無い。

 まだ、あれから、被害は拡大していないのだ。

 これ以上、死神の被害が出ない様にしたかった。


「うーん。まぁ、ユウがそう言うのなら良いんだが……」


「よっし、じゃあ決まり! 俺らで死神を見付けようぜ!」


 アレックスが、了承すると、フューリが一際大きな声で言った。


 その後、僕らは何事も無く町へと到着した。


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