表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/124

魔女熱

 窓の外が白み始める頃、僕は目覚めた。


 久しぶりに夜明け近くに、起きる事ができた様だ。

 今日は、期限付きの依頼を受けている所為か、少しだけ緊張しているのかもしれない。

 これから、隣の村まで荷物を運ばなければならないのだ。


 そして、僕の腕の中には、いつもの様にフランが収まっていた。

 彼女の頭は、僕の胸元に押し付けられているので、その様子を伺う事はできない。

 彼女は、もう起きているのだろうか……。


 僕は、それを確かめるために、彼女の名前を呼んだ。


「フラン?」


「あ、ご主人様……。おはようございます……。もう……起きてしまったのですね……」


 彼女は、埋めた顔を上げると、まるで残念といった風な声で答えた。

 そして、その様子はあまり元気の無い様にも見える。

 やはり、昨日は少し無理させただろうか……。


 僕は彼女から離れながら声を掛ける。


「フラン、平気?」


「はい……。でも、今日は働けそうにありません……。あの……ご主人様は、もう行ってしまうのですか……?」


 彼女は気丈に振る舞い、僕の事を気にする。

 しかし、彼女の様子はあまり平気そうでは無かった。


「フランは、働かなくても良いんだよ……。それより全然平気そうじゃないじゃないか……」


 僕は彼女の熱っぽさを感じて、その額に手を触れた。


「ぁっ……あの……」


 彼女の額が少しだけ熱っぽい……。

 どうやら、熱を出している様だ。


 やはり、治りかけの彼女に無理をさせるべきではなかった。


「ごめんね、やっぱり無理をさせたかな……。今朝は、二人で医者に行こうか」


「えっと……。それではギルドの依頼が……。それに、この熱は、おそらく魔女熱と言われるものです……」


「依頼は、お昼前までに町を出れば大丈夫だよ。それに、魔女熱って?」


 僕は、聞き慣れない単語を彼女に聞き返す。

 魔女と付くからには、何かしら魔力や魔法に関係する事なのだろうが……。


「魔女熱は、長い間魔力に触れていると掛かる事のある病気です……。でも、良い事なんですよ……?」


 フランは、少し辛そうにしながらも、微笑んだ。

 僕はその様子に首を傾げる。

 熱が出て良い事とはどういう事なのだろうか……。


「良い事……?」


「はい……。魔女熱は、発症すると、その者の魔力が高まるのです……。その証拠に、私に魔力を注いでみて下さい……」


 彼女はそう言うと、僕の手をそっと掴んだ。


 僕は、彼女に向けて魔力を注いだ。

 しかし、今までと違って魔力がなかなか入って行かない……。

 まるで呪い付きの発作のときとは逆に、内側から押し返される様だった。


「あれ……。おかしいな……」


「一時的なものです……。熱が治まれば、また元に戻るはずです……」


「魔力が高まるってことは、呪い付きは平気なのかな……?」


「はい……おそらく……。魔女熱を治す方法も……特に無いんです……。ただ自然に治まるのを待つしかありません……。ですから、お医者様も行かなくて良いと思います」


 彼女には、お財布の中身を話していないのだが、時折気にする様な節がある。

 実際にあまり余裕は無いのだが、申し訳ないと思った。


「そうか……。じゃあ、今日はゆっくり休んで。朝ご飯は食べられる?」


「はい、きちんと食べた方が、それだけ回復も早いと思います」


「分かった、食事は部屋まで持って来た方が良いかな?」


「いえ、下まで行きます」


 彼女はそう言って、ベッドから立ち上がろうとするが、その様子はふらふらとどこか頼りない。

 思ったよりも、深刻な様だ……。


「いいよ。貰ってくるから、待ってて」


 彼女をベッドの端に座らせる。


「すみません……。頭がぼーっとしてしまって……」


「ううん、大丈夫」





 フランと食事を済ませて、少しだけゆっくりする。

 フランをベッドに寝かせて、僕はギルドの冊子を読んだ。


 この冊子は、以前も読んでいるが、こういうのは何度も読んで覚えてしまった方が良い。


「あの……ご主人様」


 ベッドに横になったフランが、僕の事を呼んだ。


「うん」


 僕は、彼女の方に顔を向けて、返事をする。


「熱が引いたら……魔力を計ってもいいですか?」


「うん、いいよ」


「もし……魔力が沢山増えたら、魔物退治にも私を連れて行ってくれますか?」


 どうやら、彼女は魔女熱に少なからず期待をしているらしい。

 元々、魔力が少ないと言っていたので、ずっと望んでいた事なのかもしれない。


「うーん、それは考える」


 僕は、そんな彼女に曖昧に答えた。


「ずるいです……」


 彼女は少しすねた様に言った。

 僕は、その様子に、少しだけ心が和む……。


 彼女のためにも、早く依頼を済ませて帰らなければならない。


「フラン、そろそろ行ってくるよ」


「はい……」


 僕は彼女を残して、隣村へと向かった。









 隣村までの道中は暇だ……。

 何も無い草原を、何時間も歩く事になる。

 前の世界の電車や車が少し恋しい……。


 しかし、僕の体力は、レベルや魔力のおかげか、前の世界よりも増えている様らしい。

 こうして何時間も歩いても、次の日に足が痛くなる様な事もない。


 ただ、僕はまだ8レベルなので、レベルの恩恵は少ないかもしれない……。

 なので、レベルは、ともかくとして……。


 やはり、魔力が関係しているのだろうか……。

 そういえば魔力は、身体能力を強化するのにも使われているのだったか……。


 僕が魔法を教わったときに、ギルドの職員のエールが言っていた様な気がする。

 確か、武術法とかだったか……。


 僕は、いままであまり試していないが、練習しておく事にする。

 これからは、そういう技術も必要になるだろう。

 それに、魔力が余っているのに、使わないのも勿体無い……。


 まずは、全身を魔力で包んでみることにする。

 体の表面を薄い膜がまとわりつく様な感じだ。


 次に、包む魔力の量を増やしていく……。

 すると、全身を水に包まれている様な感じになった。

 プールやお風呂に潜った様に、全身を魔力が包み込んだ。


 自分ではなく、フランの事は毎日の様に包んでいるが、これはこれで変な感じだ……。

 彼女は、嫌じゃないのだろうか……。


 そして……包む魔力をより濃くしていく……。

 包み込む範囲や厚みは変えないよう、体の近くに留める様なイメージを加え、なおかつ体内から放出量を増やす。

 空気で言えば、圧力を加える様なイメージだ。


 これはこれで、なかなか集中力を要するらしく、歩きながらだと、結構難しい。

 それに、魔力の圧を上げすぎると、勝手に魔法が発動してしまう。

 練習をしていると、ときおり淡い光が全身を包み込んだ。


 これは僕が扱いきれてないのが原因かもしれない。

 こうして練習したり、レベルを上げる事でより上手く扱える様になるのだろうか……。


 僕は道中、魔力で体を包む練習を続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ