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薬草採取

「フラン、行こうか」


 僕は彼女に手を差し出した。


「はい」


 フランが返事をして僕の手を掴む。

 そして、二人で歩き出す。


 僕は彼女に向けて、控えめに魔力を送った。


「ありがとうございます……」


 フランが僕にお礼を言う。


「うん、大丈夫」


 医者の話では、彼女の呪い付きは、もう安心して良い所までは来ているらしい。

 もうしばらくすれば、僕が魔力を分ける必要もなくなるだろう。


 そうなれば、もう手を繋ぐ必要も無くなるのか。


 少し、名残惜しい気もするが仕方ない。

 彼女の呪い付きが治れば、必要が無くなるのだ。


 それに、僕が名残惜しいとか思ってもいけない。

 僕が、彼女を求める訳にはいかないのだ……。

 僕と彼女は、主人と奴隷の関係……。

 フランは僕が言えば、本当に何でも言う事を聞きそうな気がした……。


 僕は左手に温もりを感じながら、彼女には幸せになってほしいと思った。

 僕には、彼女の気持ちを分かってあげる事はできないかもしれない。

 僕と彼女の立場だって変えられない。


 しかし、僕が主人であるからこそ、できる事もあるはずだ。

 この立場が変えられないのであれば、せめて僕が善く接していれば良いのだ。

 きっと、少しはマシだろう……。


 それでも、契約している僕からは、離れられないのだけれど……。





「フラン、そういえばさ」


 僕はフランに声を掛ける。

 彼女は、僕の事をどう思っているのだろうか……。

 直接ズバリとは聞けないので、魔力を注がれる感想を聞きいてみる事にする。


「はい」


 彼女はいつもの様に返事をする。

 その透き通った瞳を僕の方に向ける。


「フランは、僕に魔力を注がれるのって、嫌じゃないの?」


 彼女は、僕の話をいつも真剣に聞いている様な印象を受ける。

 ただの世間話でも、どこか気を張っている様な感じだ。


 まず、その大きな瞳で、僕の方を見て表情をうかがう。

 そして、少しだけ間が空いて、いつもの穏やかな声で答える。


「私は……好きですよ……?」


 彼女は、少しだけ恥ずかしそうにしながらも、微笑んだ。

 そして、今度は真っ直ぐに前を向いて、つぶやく。


「魔力を注がれるのって、なんだか温かい気持ちになります」


 彼女と話すと、大抵の場合は、僕が望む様な答えが返ってくる。

 一緒に居ると、本当に心地が良い。


「なんだか満たされる様な感じがするんです……」


 はたしてそれは彼女の本心なのだろうか……。

 僕と彼女の関係が、そうさせているのではないのだろうか……。


 しかし、彼女の表情を見る限り、そんな風には感じられない。

 とても美しく、愛らしい。

 そんな彼女に癒される。


「そう、なら良かった……」


 僕は、いつもの様に言葉を返す。

 しかし、フランはこちらを向くと、僕の顔をジッと見つめた。

 そして、僕に尋ねる。


「ご主人様。どうかしたのですか?」


 フランは少し不安そうな顔をしている。

 彼女は人の表情に敏感なのかもしれない。

 それか僕が分かりやすいのか……。


「ううん、心配しないで。フランが魔力を注がれるのを、どう思っていたのか気になっただけ。僕は少し苦手な感じだったから……」


 僕は魔力を注がれた時の感想を言った。

 主に考えていたのは別の事だが、僕が苦手に感じたのは本当だった。


「そうなのですか……。あのときは、すみませんでした」


 フランは僕に対して謝った。

 少し気を使わせてしまったようだ。


「ううん、いいんだよ。あのときは仕方ない」


「はい……」


 フランの声が落ち込む。


「あの……ご主人様……」


「うん?」


 僕は彼女を不安にさせない様に、なるべく穏やかな声を心掛ける。

 やはり、なんだか不安そうな顔をしている。


「ご主人様は……私と手を繋ぐのは、嫌ですか? 私に魔力を注ぐのは、面倒でしょうか?」


 フランは僕に、遠慮がちに尋ねた。

 しかし、そんなことは無いので、そう答える。


「ううん、嫌じゃないよ。魔力を注ぐのも面倒なんかじゃない。それにフランの役に立てるのは嬉しいからね」


 少し恥ずかしがりながらも答えた。

 僕は彼女が気を使わない様にしたかった。


 僕はただ……彼女に一方的に気を使われるのが嫌なのだ。


「はい……」


 彼女は、少しだけ俯くと、小さな声でつぶやいた。





 ギルドに着いて、フランと一緒に掲示板を眺める。


「沢山あるのですね」


 横で見ていたフランが言った。


「うん、そうだね」


 僕は依頼を見ながら答える。


「何か、依頼を受けるのですか?」


「うん、受けるのはこれだけど、ちょっと他のも見たくて」


 僕は、薬草採集の依頼を指差した。


 ついでに自分のランクで受けられる依頼を探す。

 図書館の清掃、雑貨屋のアルバイト、ペットの猫探しとかもある。

 結構何でもアリだ。


 しかし、やはり僕のランクで受けられる依頼に、あまり報酬の良いものは無かった。


 僕は予定通りに薬草採集の仕事を受けることにする。

 フランをなるべく外に連れ出してあげたいので、今日は森を散歩するつもりなのだ。


「フラン、行こうか」


 僕は隣に居るフランに声を掛けた。


「はい」


 僕はフランの手を引いて、カウンターに向かった。





「こんにちは、エールさん」


 丁度良く、顔見知りの店員さんが居たので話しかける。


「あら、ユウさん」


 彼女は、僕が魔法について教わった人だ。

 基礎を丁寧に教えてくれた。


 それに、エールは僕が違う世界から来たことを知っている。

 僕が、ホームシックになった時に、彼女に相談したのだ。

 そして、彼女の祖父を紹介してくれた。


「ふふ、可愛らしいお嬢様ですね」


 エールは、フランの方を見ると、笑顔を浮かべながら言った。

 それに反応してフランが挨拶をする。


「フランと申します」


 フランが丁寧にお辞儀した。


「どうもご丁寧に。私はエールと申します」


 エールも丁寧に挨拶を返した。

 そして、エールはまた微笑みながら言う。


「ふふ……。もうこんなに可愛らしいお友達ができたのですね。ユウさんも隅に置けませんわね」


 エールは、僕をからかう様にして言った。

 僕とフランが、手を繋いでいるというのもあるだろう。

 ギルドの中でくらいは、離しておいても良かっただろうか。


 僕は、とりあえず適当にはぐらかす事にした。


「えっと……まぁ……」


 エールには世話になっているが、フランが奴隷であることを言う必要は無い。

 僕は、フランが奴隷である事をあまり知られたくなかった。


 せっかく、どこかのお嬢様と判断されたなら、そのままにしておいても良いだろう。

 しかし、フランは何を思ったか、奴隷である事を暴露する。


「エール様、私はご主人様の奴隷です。この手も、私のために魔力を下さっているのです」


 フランの言葉に、エールは少し驚いた表情をする。


「あら、そうでしたの……」


 僕も驚いてフランの方を見た。


「ちょっと、フラン」


 すると、フランは少し控えめに、しかしハッキリと答える。


「ご主人様の友人に、誤解を与えるわけにはいきません」


 僕は、フランの言葉に少しポカンとしてしまう。

 彼女は、奴隷としての立場を全うする気でいるらしい。


 エールは、その様子に微笑むと、小さな声で言った。


「ふふ……。ユウさんも男の子ですものね」


 どうやら僕は、別の意味で在らぬ誤解を受けた様だ……。


「すみません、余計な事でしたか……?」


 フランが僕の反応に、申し訳なさそうに言った。


「ううん、フランが良いなら、いいんだ。ごめんね」


 僕は、変に気を使ってしまった事を謝った。

 少し気にし過ぎらしい。

 フランがそれで良いのなら、僕も気にしないことにする。


 しかし、フランは小声で僕のことを注意する。


「ご主人様……いけません」


 どうやら奴隷に謝っては、いけないという事らしい……。

 主人というのも、なかなかに難しいものだ……。


「ふふ……。何だか不思議な関係ですね」


 その様子を見ていたエールが言った。


「ユウさんは、こちらに来たばかりですものね」


 エールがそれとなく言った。

 フランがその言葉に反応する。


「ご主人様。エール様は、ご存知なのですか?」


「うん、僕が彼女に相談したんだ。エールさんのお爺さんも知っている」


 僕は、誰が事情を知っているかをフランに伝える。

 しかし、エールのお爺さんには、なるべく触れて回らない方が良いと言われている。

 たしか国籍がどうとか言っていた。


「でも、詳しい話は、僕らだけの内緒ね」


 一応、フランには念を押しておく事にする。


「はい」


 フランは、返事と共に頷いた。





「これをお願いします」


 薬草採取の張り紙をエールに渡す。


「はい。依頼と一緒に、彼女をあなたに登録しますか?」


 僕はその言葉の意味が理解できずに、首をかしげる。


「登録? えっと、それってどうなるのですか?」


「そうですね。奴隷の方ですと、ギルドには直接登録する事ができないのです。なので、主人に登録することになります。彼女を登録することで、ギルドの依頼を一緒に受けることができます。それに、近くに居れば、倒した魔物と経験値を共有できますよ」


「なるほど……」


 フランと一緒に依頼を受けることができるらしい。

 報酬は変わらないだろうが……。


 しかし、話が急にゲーム的なノリになった。

 倒した魔物と経験値を共有って……。

 やはりレベルがあるって事は、経験値もあるのか……。


「ご主人様がお許し下されば、私だけでもギルドの依頼を受けることができます。私、働きたいです」


 フランも説明に参加した。

 ギルドの依頼は、危ないのもあるので、少し心配になる。

 彼女一人に危険な依頼をさせる気は無いが……。


「そうですね。色々と不便を解消できると思いますよ。それに登録は無料です」


 エールもフランの意見を尊重した。

 そして、無料という言葉に少しだけ釣られる。


「えっと、フランはそれで良いの?」


「はい。お願いします」


 フランは、少し気合の入った声で答える。

 そんなに働きたいのだろうか……。


 僕はフランが望むならと、登録してもらうことにした。


「じゃあ、お願いします」


 エールにお願いする。


「分かりました。彼女一人でも依頼を受けられるようにしますか?」


「えっと……」


 僕はフランの方を見る。


「ご主人様。お願いします」


 やはりフランは、その気の様だ……。

 仮に一人で依頼を受けるにしても、安全なものを受けて貰えば良いか。


「えっと、お願いします」


「はい。では、腕輪をこちらに」


 フランが腕輪を隠すアクセサリを外すと、僕と彼女、それぞれの腕輪を石板に近づける。

 僕の銀の腕輪とフランの黒と銀の腕輪が石板と共鳴した様な光を放つ。

 石板には、同時に文字も浮かび上がった。


「はい、登録完了です」


 エールが僕とフランに言った。

 石板を見るとエールが再び口を開く。


「あら、レベルが一つ上がっていますね。それに、魔法も随分使われている様ですね」


 また、石板には前回と同じように、レベルが表示されていた。

 僕はいつの間にか、レベルアップしていたようだ。


 エールが石板をこちらに向けて見せてくれる。


 石板には僕とフランの情報が表示されていた。

 それに、いつの間にか僕の情報に、ランクと所有奴隷という項目も表示される。


 ユウ・アオイ 男 18歳 貴族

 Gランク

 レベル7

 魔法使い

 魔力指数 120

 所有奴隷 フラン・ノーツ


 フラン・ノーツ 女 16歳 奴隷

 レベル14

 魔法使い

 所有者 ユウ・アオイ


 フランのレベルが地味に高い……。

 それに、魔法使いって何だろうか。

 僕の剣士だった項目が、魔法使いに変わっている。

 魔法が使える様になったことで、魔法使いになったのだろうか。

 フランも魔法使いの様だ。


「エールさん、魔法使いって何ですか?」


 僕はエールに尋ねる。


「クラスですね。このクラスと呼ばれるものは、よく行う行動で変わったりしますよ」


 最近は、魔法ばかり使っていたので、そうなったのだろうか。

 フランを魔力で包んだりとか……。


 というか、クラスってどんな意味があるんだろうか。


「このクラスってどんな意味があるんですか?」


 僕はまた、エールに聞いてみた。


「クラスは、レベルが上がったときの成長の方向性を表していると言われています。人によっては調節したりもするんですよ。例えば、魔法使いでしたら、魔力の扱いに長けていきます」


 クラスによって成長の方向性に違いがあるらしい。

 レベルが上がった時の成長の方向性か……。


「なるほど、レベルが上がると能力も上がるのですね……」


「そうですね。レベルで人の能力は上がっていきます」


 僕は少し考え込んでしまう。

 このレベルという概念は、まだなんとなく慣れない。

 単純に強くなるという事だろうか。

 そうなると、レベルを上げなければいけない気がする。


 この世界には、魔物がいる。

 しかも、交戦的なのだ。

 僕が見た魔物は、みんな襲いかかってきた。

 まだ、狼と猪、それにスライムしか見ていないが……。


 もし、僕がこれから冒険者で暮らしていくなら、レベルを上げる必要がありそうだ。


 それにフランとの約束もある。

 いつかこの世界を旅するというのなら、レベルは上げておいた方が良いだろう。


 しかし、どうせなら、僕は剣士とか前衛に憧れてしまうのだが……。

 でも、魔法も使いたい……。

 悩ましい所だ……。


 それにレベルアップ時の成長の方向性が変わるというのなら、レベルの低いうちから考える必要がある。

 一体どんなクラスが一番強くなれるのだろうか……。


「エールさん、これってどんなクラスが良いのでしょうか?」


 エールは僕の質問に少しだけ考え込む。


「うーん、難しいですね。人それぞれに向き不向きがありますから。私は自分が好きな事をしている時に現れるクラスが良いと思いますよ」


 つまり、成るべくして成るということだろうか。

 おそらく剣を普段から沢山使っていれば、剣の扱いに長けていくのだろう。

 魔法ならば魔法か……。

 普段の行動で変わるというのなら、嫌いなものや苦手なクラスを目指しても仕方ないか……。


「なるほど」


 僕とフランは、エールから説明を受けた後、ギルドを後にした。





 僕とフランは、森へ行く前に、広場で買い物をして行く。


「ご主人様、こんなに買って頂いて良かったのでしょうか?」


 フランはサンダルから、買ったばかりのブーツに履き替えながら言う。


「うん、必要な物だからね」


 いまのフランのサンダルでは、森は歩きにくいと思ったので、ブーツを買った。

 他にも、私服を何着か。

 これで当分の間は、そんなに出費はないことだろう。

 宿もあと4日ほど残っている。


 僕は買った物とフランの脱いだサンダルを皮袋へと入れる。

 そして、中から鎧と剣を出していく。


「その皮袋って、すごいですよね」


 フランは僕が出す様子を見ながら言う。


「そうだね。一体どんな魔法が掛けてあるんだろうね」


「不思議ですね」


 フランは感心した様に言った。

 フランもこの魔道具に関しては、知らないらしい。

 僕はこの世界では、世間知らずなので、仕方ない。

 彼女も本で読んだことには詳しいが、あまり外には出して貰えなかったらしい。

 本もお爺さんの残した古い本なので、彼女が知らないと言う事は、この魔道具は最近の物なのだろう。


 僕は鎧と剣を装備し終わると、フランに言う。


「フラン、行こう」


「はい」


 僕は、フランの手を取って歩きだした。





 広場から西門まで歩いて、門を出る。

 西門から出るとすぐに森が目に入る。


「フラン、靴は歩きにくくは無い?」


「はい」


 二人で森の奥へと入っていく。

 この森は木々の間隔が広いので、比較的明るい。

 ちょっとした森林浴だ、散歩には丁度良かった。


「あ、これこれ」


 僕は薬草を見つけた。


「これを集めるのですね」


「うん。一つ見付かれば近くにも生えてるはず」


 辺りを探して、フランと一緒に採取していく。

 薬草は、その辺のツタで縛って皮袋に放り込む。

 やはり、この魔道具は、便利だ。




「ご主人様、ありました」


 今度はフランが見付けた。


「お、ほんとだ」


 フランはキョロキョロと辺りを見て、一生懸命に探してくれる。

 僕は、そんな彼女が転ばないか少し心配しながら、一緒に探す。


 やっぱり、一人より、二人かな……。

 誰かと一緒だと、心強いものだ。




「フラン、そろそろ、ご飯食べようか」


「はい」


 適当な場所にコートを敷いて座り込む。

 そして、広場で買った軽食をフランと食べた。


「こうやって、緑の中で食べるのって、なんだか気持ち良いですね」


「うん、そうだね」


 フランの言葉に相槌を打つ。


 フランは僕を気遣ってか、何かと話しかけてくれる。

 それでも、僕は「うん」とか「そうだね」くらいしか言えていないのだけど……。

 全く、自分のボキャブラリーの無さに、飽き飽きする。


 これでは、フランに悪いと思い、なんとか話題を絞り出す。


「フランはさ……。呪い付きが治ったら、どうしたい?」


 僕は、フランにどうしたいかを尋ねた。

 この先、僕が冒険者として働く間、彼女は暇になるのだ。

 何も無い宿で、一人待つのも難しいだろう。

 僕だったら嫌だ。


「どうって……。ご主人様は、どうなさるのですか?」


 逆にフランに聞き返されてしまう。


「僕は、色々とギルドの依頼をやろうかと思うけど」


「では、私も着いていきます」


 僕の言葉にフランが答える。


「でも、僕が受ける依頼は、魔物と戦うかもしれないよ?」


「頑張ります」


 フランは、その手でギュッと服の裾を握り締めて言う。

 おそらく、怖いのだろう。

 僕だって怖い。


「うーん」


 僕は少しだけ考え込む。


 フランは魔法使いだ。

 でも、魔物と戦う様な魔法ができるのだろうか……。


「フランは、何か戦闘用の魔法って使えるのかな?」


「えっと……」


 フランが言い淀んだ。

 やはり、難しいと言われる回復魔法は使えても、人を傷付ける様な魔法は使えない様だ。

 おそらくそんな魔法は、練習なんかもして来なかったのだろう。


 大人しい彼女が、攻撃魔法を練習している訳は無いのだが……。


 武器だって今の予算だと買う訳にもいかない。

 一度覗いた時は、小さなナイフや剣でも金貨が必要だったし……。

 剣は僕の一本しかないし……。


「うーん」


「ダメ……。でしょうか……?」


「やっぱり、フランには、危ない事はやってほしくないかなぁ……」


「え……と」


 フランは、酷く落ち込んだ様な表情をしている。

 僕はその様子に心が痛むが、いま出来ないことは仕方ない。

 彼女が怪我をしない様に、防具を買うにもお金がかかるし。





「そろそろ帰ろうか」


「はい……」


 フランは、あれから落ち込んだままだ。

 しかし、元気付けてあげられる様な言葉も出てこない。


 しばらくすると、フランの方から口を開いた。


「ご主人様」


「うん?」


 僕は、なるべく優しい声で返事をする。


「もし私が魔物を倒せる様な魔法を使えたら、一緒に連れて行ってくれますか?」


「えっと……」


 僕は、言葉に詰まった。

 実は練習していたとかだろうか。

 フランは努力家なので、もしかしたら使えるのかもしれない。


 しかし、危ない事をさせたくは無いので、こう答える。


「うーん、考える」


「ちょっと、見ていて下さい」


 フランは繋いだ手を離すと、両手を森に生える木に向けて構えた。

 僕はその様子を見守る。


 誰かが攻撃魔法を使う所は見たことが無いので、興味深かった。


 彼女の魔力が両手に集まっていく。

 そして、彼女の手から水の塊が飛び出した。


 目標の木に当たって、大きな音がする。


 結構大きい。

 サッカーボール程はあっただろうか。


「はぁはぁ……。どう……ですか?」


 おそらく渾身の力を込めたのだろう。

 ほんのりと瞳が色付いている。


 彼女の手を取り魔力を注ぐ。


「うん、すごい」


 僕は、魔法が当たった木の方を見た。

 木の皮が僅かに剥がれ、当たったら痛そうだった。


「でも、魔物を倒せる程じゃ無いかも……」


 それが僕の感想だった。

 この世界の魔法は、案外弱いのかもしれない。


「そう……ですか……」


 フランの落ち込んだ声が聞こえる。

 彼女には酷かもしれないが、一発で魔力を補充しなければイケナイのであれば、戦闘では使えないだろう。

 僕と手を繋ぎ続ける訳にもいかない。

 呪い付きが治れば変わるのかもしれないが、彼女は魔力が少ないと言っていた。


「大丈夫だよ。僕一人でも、頑張るから」


 僕はフランを励ます様に言った。


「そうじゃ……ないです……」


 彼女は僕の言葉に呟いた。

 そして、僕の顔を見ると再び口を開く。


「ご主人様。呪い付きが治ったら、また見て頂けますか?」


「えっと……うん……」


 彼女の真剣な眼差しに、僕はうなずくしかなかった。

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