お気楽極楽倶楽部エピローグ
現役探偵倶楽部に、竹原が挑戦。
大崎は、机の上に並べた三つのカップを指さした。
「このカップのいずれか一つに、先程の玉が入ってます。どのカップに玉が入っているのか、当ててみてください」
「わかったわ」
竹原は机を挟んで、大崎に対面するように腰かけた。
「正し、条件があります。カップを動かすことなく、一発で当ててみてください」
「一発で? 間違えたらアウトってことね。他にヒントは?」
「ありません。ノーヒントでお願いします」
大崎は余計なヒントを与えまいと、わざとそっぽを向いた。
「私に透視でもしろというの? 随分意地悪な問題なのね」
竹原は腕を組むと椅子にもたれ掛った。
「確率は三分の一、この問題、沢村さんは答えを知ってるのかしら?」
「知らないと思います。さっき思いついたばかりの問題ですから」
「そう。良かったら、沢村さんも一緒に挑戦してみない?」
「私もですか? 構いませんけど、意地悪な問題に決まってますから、自信ないなあ」
「自信ないか……」
竹原はチラリと大崎の表情を覗き込んだ。大崎のかすかな眉の動きを見逃さなかった。
「答えが解ったわ」
「え? もう解っちゃったんですか?」
問題を出してまだ十分と経っていない。かごめが驚いたのも無理のない話だろう。
「フフフッ。こうするんでしょう? 大崎君?」
竹原は立ち上がると、机の端を掴んで少しばかり傾けた。すると真ん中のカップに、コツンと何かがぶつかる音がした。
「答えは中央のカップ」
「さすが先生。探偵倶楽部OBには、簡単過ぎましたか?」
「玉が大きいとカップを動かしてしまう、音の出ないものでも成立しない。即席にしては、良くできてる。沢村さんのヒントがなければ解けなかったわ。認めましょう、探偵倶楽部の実力を」
「よっしゃあ! やりましたね部長!」
かごめはつかさずガッツポーズを作った。
「でも、私ヒントなんて出しましたか?」
「あなたたち、良いコンビになりそうね。かつての私たちのように……」
竹原はそう言うと、遠い目をした。
「私たち?」
「雨脚が強くなって来たわ。あなたたちも、もう帰りなさい」
竹原はかごめの問いに答えることなく、部室を出て行った。竹原の言う通り、窓を打ち付ける雨は、さらに激しさを増していた―――。
学園の昇降口に立った二人は、止む気配のない雨に、露骨に嫌な顔をした。
「部長の傘に、私も一緒に駅まで入れてもらえませんか?」
「え? そ、それは、あ、相合傘……。も、もちろんオッケーだよ」
大崎は喜び勇んで傘を取りに行った。しかし、かごめがいくら待っても大崎は戻って来なかった。
「おかしいな?」
「どうしたんですか部長?」
「今朝確かにこの傘立てに入れておいたのに、僕の傘が見当たらない」
「え!? そんな所に傘を入れて置いたら、盗まれるのは当然じゃないですか! 危機感無さすぎですよ部長!」
「なんてことだ! 探偵倶楽部の威信に掛けて、僕の傘を盗んだ犯人を捜し出してみせる!」
「もう勝手にしてください」
かごめは飽きれたとばかりに、カバンから折り畳み傘を取り出すと、パッと広げた。
「なんだ、かごめくん。傘を持ってるじゃないか」
「誰も傘を忘れて来ただなんて言ってません。出すのが面倒だっただけですから、お先に失礼します」
そう言うとかごめは、涼しい顔で校門に向かって歩き出した。大崎が慌てて後を追いかける。
「かごめくん。僕もその傘に入れてくれ!」
「やですよ! こんな小さな傘じゃ、私まで濡れちゃうじゃないですか。まぬけな部長なんて、酸性雨を浴びてハゲてしまえばいいんです」
「冷たいじゃないか、いろんな意味で!」
そんな二人を、ミステリー研究会の小谷圭祐が、離れた所で眺めていた。
「なにやってんだ? あいつら」
小谷の手には大崎レイの傘が、しっかりと握られていた。
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