パラノイヤ 解答編
竹原圭子が出した問題に、探偵倶楽部が挑む。
「かごめくん、君の答えを聞かせてくれ。もしかしたら僕の考えと違うかもしれない」
かごめは大崎に問われ、自信満々にホワイトボードに向かった。
「三つあったカップの選択肢の一つが消えたことにより、残りは二つに一つ。確率は二分の一、どちらを選んでも50%です」
「そうか……。僕と同じ考えだ」
大崎は少し肩を落とすと呟いた。
「しかし、先生は最初に選んだカップに玉が入っている確立と、ヒントを得て選び直したカップに玉が入っている確率は等しくないと言っている。つまり、その答えは間違っていると言うことだ」
「考えすぎですよ部長。きっと先生は私たちを混乱させる為に、わざとおかしなヒントを出したに違いありません。こんな問題、小学生でも解ります」
かごめは憤然として腕を組む。
「うむ、では問題をもう一度整理してみよう」
大崎もまたホワイトボードに向かうと、マジックペンを手に取った。
「初めに三つカップがあった。出題者である先生は、当然どのカップに玉が入っているのかを知っている。だからこそ、玉が入っていないカップを開けて見せた。なぜこんな事をしたのか? 答えを言う前に選択肢を減らすなら、初めから二択で良かったはずだ」
「それは最初に選択した左端のカップに、玉が入っていなかったからですよ。解答者に当てて欲しかったから、ヒントを出したのではないですか?」
「それは違う。もし逆に、最初に選択したカップに玉入っていたとしたら、外させる為とも考えられる。このヒントは、解答者を惑わせるだけで、どちらを選んでも結局何も変わらない」
「意味のないヒントと、言う事ですか?」
「問題はそこだな。何も変わらない……」
大崎はホワイトボードに、三つの円を描いた。
「なるほど、確かに何も変わっていない」
「なんですか?」
ニヤリと口を歪ませた大崎を見て、かごめは訝しんだ。
「確率さ。三つのカップ、その確率は三分の一だ。それはどれを選んでも変わらない。例え意味のないヒントを得たとしても……」
「では最初に選んだ左端のカップに玉が入っている確率は、三分の一と言う事ですか?」
「答えを変えなければそう言う事になる。しかし、この一見意味のないヒントを得ることで、中央のカップに玉が入っている確率は上る」
「え? どれを選んでも同じはずの確率が、どうして上がったりするんですか?」
「要は、外れる確率だ」
「外れる確率?」
かごめはまだ納得いかない様子で首を傾げた。そんな折、探偵倶楽部顧問の竹原圭子が部室に再び姿を現した。
「ちょうど一時間よ。私の出した問題が、解けたかしら?」
「ええ、たった今解けました」
大崎はホワイトボードから竹原に向き直ると、ゆっくりと答えた。
「中央のカップに玉が入っている確率は三分の二、67%です」
それを聞いて、かごめは当然の如く反論した。
「どうしてそうなるんですか? そんなのおかしいですよ」
「左端のカップに玉が入っている確率は三分の一だとすると、中央のカップ右端のカップどちらかに玉が入っている確率は三分の二。右端カップの選択肢が消えたことで確率はそのまま中央のカップに移行する。ですよね先生」
竹原は大崎の答えに、フフフと微笑んだ。
「俗に言う、モンティ・ホール問題。よくわかったわね大崎君」
「モンティ・ホール?」
かごめは訳も分からず聞き返した。
「昔アメリカのクイズ番組がきっかけで、実際に起こった問題なの。パラノイヤとも言われているわ。ヒントがあったとは言え、たいしたものだわ」
「では、現役探偵倶楽部の実力を認めて貰えるんですね!」
かごめは目を輝かせた。
「先生、今度は僕が先生に挑戦してもいいですか?」
「え? 探偵倶楽部OBの実力を量ろうというの? いいわ、おもしろそうじゃない」
大崎の提案を、竹原は快く受けたのだった。
見せてもらおうか。探偵倶楽部OBの実力とやらを。