第四話「暴走」
状況が理解できないカオルの元に、五拾郎を含む屋敷の人物が騒々しく現れた。
「どうした何事だ!?」
「お菊!! 貴様ァ……」
五拾郎がそう木原を睨み付けたが、木原はじっと刀越しにキキョウを見据えていた。彼はグッと唇を噛みしめたかと思うと、その腕に力を込めた。
「うっとうしいんだ!」
そう叫びながらキキョウの刀を押し放す。
「何でこんな奴が大事にされて、俺はあんな目に遭わないといけなかったんだ!?」
じっとカオルは木原を見つめていた。キキョウは汗を流しながら木原に問う。
「お前も……一人だったのか?」
「あぁそうさ! やつらは俺を売り飛ばしたんだ! おかげで俺はどんな目にあったってんだよ。幸せそうな奴には、もう、うんざりだ!!」
カオルはその言葉に目を見開いた。なんだって? 五拾郎が木原の言葉に反応した。
「そんなもの……ただの勝手な考えだろう!」
「ふん……! だから俺はこいつを連れて行く! 声がでねぇのを言い事にこっそり連れて行ってやろうと思ったが…こいつ、襖を倒しやがった。こんなべっぴんならよ……きっと高く売れたろうに!」
お菊が声のない叫びを上げた。キキョウがさっきの倍大きな声で叫んだ。
「ふざけるな!!」
それに動じない木原は、負けじと言い返す。
「お前も一人だったんだろ!? なぜ彼女を庇うんだ?」
「それは──」
キキョウはお菊に目を遣り、うつむいた。
「私は──」
「ふん。隙有りだ……!」
カオルは小さく叫んだ。お菊の瞳から、涙が溢れた。キキョウが、その刀に一閃された。彼は刀を落とし、床に突っ伏した。擦れる声でお菊を呼ぶ。
「ぐ……お菊様ぁ……!」
お菊はガタガタと目に見えるほど震えていた。最早立つ事もままならないようだった。キキョウは激痛の中、必死に声を絞り出した。
「お菊……様……俺は……」
カオルは脈が速くなるのを感じた。ドクンと心臓が波打つ。あの時が、脳裏によみがえる。
「う……」
倒れている三人。
「うあ……」
血まみれの自分。
「ああぁ……!」
死に際の、母親。
「──……」
次の瞬間、カオルは豹変していた。肌は黒く、髪は長く白く、妖気を漂わせていた。口元には、不敵な笑みを浮かべている。例えるなら、死神──
その場の誰もが息を呑み、うろたえた。
狂気の目が見開かれた。
次回予告:暴走するカオル!! この状況──どうなる!?




