第一話「出会い」
個人的にはあんまり好きじゃないんですが…w 無理やり感が半端ないのでw
まぁ自己満で置いておきます(ぇ
彼は走った。走り続けた。走り続けた。まだだ、まだまだ遠くへ……!
「はぁっはあっ……」
息を切らしても、胸が避けそうでも、足がちぎれそうでも、目が飛び出しそうでも、どうしたって逃げないといけない。逃げろ。
彼は、騒がしい音を立てながら草木を掻き分けて進んでいた。しばらくすると、人が踏みならした山道へ抜けた──がその途端、地面が傾いた。
「はぁっ……」
突然、彼はふらっとしたと思うと、その場に突っ伏した。限界だった。意識は遠のいた。
ポタッ……ポタッ……。
かすかな意識の中で、雫が滴れる音が聞こえる。手が真っ赤に染まり、血が垂れている。血の雫の音だった。その少年の目は何かに取り付かれたかのように妖しく輝いている。その目に二つの死体が映る。少年が無表情に見つめていると、不意にそれが起き上がった。その狂気の表情が、彼を見据えた。それから、二つの死体が重たく口を開いた。
「おぉ……カオルよ…」
名前を呼ばれたその少年は、ビクッと表情を取り戻し、次の瞬間夕闇に悲鳴がこだました。
「――っ!」
カオルは飛び起きた。息を切らして自らの手を見つめる。にじんでいるのは手汗だった。血ではない。聞こえるのは、彼の呼吸と鳥の囀りだけだ。どこにもあれはない。
「おっ……」
隣で、誰かが呟いた。カオルはある屋敷の一間の布団で眠っていたようだ。山道で倒れた後、誰かに運ばれたのか、と息を切らしながら考え、声の主を見る。
「やっと起きましたね……。どうぞ、手拭です」
顔の左半分が髪の毛で隠れているその青年は、カオルとは正反対に落ち着いた様子で手拭を差し出した。カオルはそれを受け取りつつ彼に問うた。
「ここは……?」
「木春五拾郎様のお屋敷です。私はこの屋敷の使用人、筑波子キキョウと言います。山の入り口の山道で君が倒れていたので……。実は昨日も一人行き倒れてた人がいたんですよね」
キキョウはそう話ながら手元の洗濯物をたたみ終えた。これでよし、と言わんばかりに洗濯物の山を一つ叩いたキキョウは、カオルに目を向けた。
「だいぶうなされていましたけど……大丈夫ですか?」
その言葉を聴いた瞬間、脳裏からさっきの悪夢が蘇る。狂気に染まった母と父の顔。――殺めた事実が蘇る。
「あ……あぁ……母さん……父さん……!!」
その様子をみたキキョウは眉間にしわを寄せて、カオルに近寄った。彼の肩に手を置こうと思った矢先、カオルが弾かれたように叫んだ。
「近寄るなぁっ!!」
「っ!?」
「何で……僕が……? どういう……ああ……」
手を払われたキキョウは、面食らった様子でカオルを見た。まだうわ言を呟いている。ちょうどその時、部屋の襖が開いた。キキョウはその方を向くと「あ」と漏らした。
「お菊さま!」
現れたのは、この屋敷の一人娘、木春菊だった。真っ黒の癖毛を束ねているのでところどころから束ね損ねた癖毛が出ている。それだけでは貴族の娘とは思えないが、やはり貴族の娘である、着ているものは違っていた。そんな彼女をカオルはチラッと横目で見た。視線が合う。カオルが目を見開いた。
「どうかなされましたか?」
お菊はキキョウのその問いに首を振り、少年を指差した。
「あぁ……彼は今朝行き倒れていた子です。さっき目が覚めて……何かうなされていて──」
「……母さん」
キキョウは、彼が何か呟いたのに気づき、話すのを中途で止めた。お菊はカオルに歩み寄った。キキョウがあわてた声で言う。
「お菊さま、危ないですよ」
寄ってくるお菊を見つめながら、カオルは口を動かしている。
「違う……でも、……似てる」
そんな彼に、お菊が包み込むように両肩に手を置いた。少年の目に涙が滲む。それを見たキキョウとお菊が戸惑った表情になり、キキョウが心配そうにカオルに問いかけた。
「だ、大丈夫ですか?」
一筋の涙をこぼしながら、カオルは頷いた。涙を拭い、うつむく。使用人は一つ息を吐いて言った。
「そろそろ夕飯にしましょう」
次回予告:カオルの異変…キキョウが明かす自身の過去とは?




