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兄妹

 カラフルに彩られた華やかな街灯に、賑やかなクリスマスソングがあちらこちらの店から聞こえてくる。街を歩く人々は皆、幸せそうな笑顔を浮かべていた。まだ本番のクリスマスまで二週間以上あったが、街はすっかり聖夜をお祝いする準備で賑わっていた。


「雪だ!!」


「あ?」


 隣を歩く咲子の声に反応して、周は空を見上げた。


 雲で覆われた薄暗い空から、白い粉雪が慎重に舞い降りてくる。咲子の白いニット帽には、いつの間にか柔らかそうな粉雪が降りかかっていた。


「今年は『ホワイトクリスマス』になるかなぁ?」


 咲子は周の袖を握ったまま聞いた。


「ああ、なるかもな。でも、よく知ってたなそんな言葉」


「へへ、りょうちゃんがずっと前に教えてくれたんだ」


 そう言って一度は笑った咲子の表情が、頭上に広がっている空のようにみるみると曇っていく。


「ん? どうした? 何かあったのか?」


「……うん……あのね……」 


「お、ここだ!」


 咲子が何か話し始めると、ふたりは目的地のペイストリーショップに到着した。


 自動ドアが開くと店内で流していた音楽が、話し続ける咲子の小さな声を掻き消した。店の奥からクッキーか何かの甘い香りが漂ってくる。


「うわっ! すげー良い匂い! おっ! たくさんあるなぁー! サキどれにする? このダークチョコレートのやつにしようか? いや、こっちのもおいしそうだぞ! うわっ! こっちのは全部ホワイトチョコレートだ!」


 周はガラス張りの飾り棚に並べられている様々なケーキに、瞳を輝かせてはしゃいでいる。


「うん……」


 結局ふたりは、ダークチョコレートケーキとホワイトチョコレートのハーフ&ハーフを注文した。店を出ると、粉雪はまだ降り続いていた。


「サキ、駅前のスーパーに寄ってから帰るぞ。牛乳買わなくちゃ」


「……うん」


 突然、咲子の小さな肩に周は手を軽く乗せた。


「?」


 咲子は驚いて兄の方を振り向く。周は二コリとほほ笑んだ。


「佐々木さんのこと……」


「……」


「もう一度ちゃんと話してみろよ。きっと、佐々木さんもサキと話したがってると思うから」


「……うん」


「大丈夫だよ。きっとうまくいくよ」


 周は咲子の白いニット帽を視界が見えなくなるまで深く被せた。


「うわっ!!」


 咲子はフラフラしながら、慌てて帽子の位置を元通りに直す。


 周はそれを見て笑った。 


「ははははっ!」


「もー!! 意地悪したらダメなんだからねっ!」


 咲子はぷっ頬を膨らませる。


「ははははっ!! 何だよサキ、その顔!」


 周は咲子の顔を真似して笑った。


「あははっ!」


 咲子もつられて笑った。特別おかしかったわけではないのに、咲子は笑っていた。


 頭上からは粉雪が深々と降り注いでいた。粉雪の中、兄と妹は笑いながら牛乳を買いにスーパーへ向かった。


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