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プロローグ
午前十時、深水仁栄は友だちの相川二瑠の家へと急いでいた。
二瑠は今年の春、他県からこの街へ引っ越してきた転校生だった。
背は高くて色が白くて華奢な体格。班が同じだったこともあって、仁栄と二瑠はすぐ仲良しになった。
今日は、二人で一緒に釣りに行く約束をしている。約束の時間は十一時、仁栄の家から二瑠の集合団地までは、自転車で十五分程かかる。
途中で駄菓子屋へ寄っていけるな、そんなことを思いながら仁栄は自転車を走らせた。
真夏の太陽は既に高く、クマゼミの鳴く声がやたらとうるさかった。
今年度十歳になる仁栄には、宿題以外に他は何も気にかける問題など見当たらない、去年と同じ夏休みだった。いや、宿題さえ気にかけていなかった……。
仁栄は釣竿が車輪に引っ掛からないように気をつけながら、自転車のスピードをゆっくりと上げ、颯爽に通い慣れた狭い路地を抜けた。