眠ったままの少年
個室の小さなベッドの上で眠る少年は、皆が良く知っている仁栄とはまるで別人のように見えた。
顔に着けられた生命維持装置が不恰好で、頭に巻かれている白い包帯も何だかわざとらしかった。
完全なる静寂に包まれた病室では、コンピュータの音だけが規則正しく響いている。まるでテレビドラマのワンシーンのように。
若林が仁栄の母親と静粛に挨拶を交わしている間、他の皆は少し離れたところからベッドの上の少年を眺めていた。
誰も何も言わなかった。若林と母親の話が終わった頃を見計らって、学級委員の岡本が口火を切った。
「あの、これみんなで折った千羽鶴と、寄せ書きです。深水くんが、早く元気になって学校に戻って来るように祈りを込めて……」
岡本は紙袋を仁栄の母親に手渡した。
「まあ、ありがとう。仁栄もきっと喜ぶわ」
母親は笑顔で紙袋を受け取ってくれた。
「それでは、私たちはこれで失礼致します。じゃあ、行こうか」
若林は母親に会釈をすると、皆の方を振り返って促した。
全員が病室を退出した後、暫くして咲子はりょうがいないことに気がついた。
「あれ? りょうちゃんは?」
後ろを振り向くと、りょうが少し遅れて病室から出て来るのが見えた。
「りょうちゃん。大丈夫?」
「うん。ちょっとね……」
りょうは、今にも泣き出しそうな表情で下を向いていた。
あの遠足での事故から、りょうは暗い表情をすることが多くなった。りょうだけでなく、クラス全体が暗くなっていた。
もちろん、咲子も皆と同じく暗く悲しい気持ちになっていたが、それとは別に何か違和感のようなものを感じていた。
しかし、それが何なのかは咲子には分からなかった。