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怠惰と転換

 テレビでは午後のニュースが単調に流れていた。彼にとっては砂嵐と同等の価値しかない。


 明仁はベッドに横たわり、首だけテレビの方を向けていた。


 今日で確か十日目になる。退院してからだったのか、学校を休み始めてからだったのか分からないが、とにかく十日目だったと、彼は思っていた。


 学校に行かない時間はやたらとゆっくりと流れていった。


 初めのうちは、大好きなビデオゲームに夢中になれた。しかし、それもすぐに飽きてしまうと、次に本を読み始めたが、全然集中することが出来ず、今ではこうしてただテレビのスイッチを切り忘れただけのような状態が続いていた。


 このままではいけないと、明仁自身にも分かっていた。


 明仁の心の中で言葉が勝手に回り始める。


 怠惰、自己嫌悪、悪循環、環境脱出不可能症候群。


 まるで漢字の書き取り問題を解いている時のように、彼の頭はやけにしっかりと働いていた。


「明ちゃん、お昼ごはんにしましょう。降りてらっしゃーい」

 階下から母親の呼ぶ声がする。母親は明仁が学校へ行きたがらないことへ理解を示してくれていた。

 手すりをしっかり握り締めながら、彼は一人苦笑した。頭の怪我はとっくに治っているにも拘らず、階段を一歩一歩慎重に降りていく自分自身に。 


 キッチンに入ると、ダイニングテーブルの上で美味しそうな天ぷらうどんが、湯気を立てて待っていた。


「お母さん、昨日天ぷら揚げすぎちゃって」


 母親は悪戯っぽい笑った。


 なぜだか妙にその笑顔が明仁を苛立たせた。


「また、天ぷらかよ! 他のものが食いてえよ!」


 今までとは違う、荒々しい言葉遣いが唐突に明仁の口から飛び出した。


「……」


 母親は絶句し、そう言った明仁自身も言葉を失った。


 不自然で不愉快な沈黙。


 明仁はテーブルのうどんには箸をつけず、いつも棚にしまってあるお菓子の袋を手に取ると、逃げるように部屋へと戻っていった。


「明ちゃん!!」


 階下から母親が追いかけてくるような気がして、明仁は部屋に入るなり勢いよく扉を閉めると鍵を掛けた。


 動悸が激しくなっていく。発熱しているような頭の中で、明仁は間違った道を選んで進んでいく自分の姿を見ていた。


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