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学校、屋上、四月

 昼休みの屋上。


 誰もいないことを確認してから、淳はフェンスを背にして蹲み、ポケットから朝の登校時に自販機の横で拾ったタバコの箱を取り出した。


 銘柄はラッキーストライク。そしてラッキーなことに、まだ未開封だった。ワクワクしながら淳は慎重に透明のビニールを剥がし始める。


「ラッキーストライクとはシブイ趣味してるねー! 川上淳くん!」


「うわっ!! 痛でっ!! うあぁぁぁ!!」


 行き成りに名前を呼ばれて、淳は驚いて思わず立ち上がろうとした。その拍子に肩をフェンスで思いきりぶつけて、バランスを崩して転倒した。 せっかくのタバコの箱は、膝の下でグシャグシャに潰れていた。


「ふははははっ!! うひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」


 顔を上げると、先週淳のクラスにやって来た転校生が、大袈裟にお腹を抱えて笑っていた。


「キミはたしか……」


「先週自己紹介したばっかだぜ。二度もさせるなよ」


 そう言うと、転校生は淳のすぐ傍まで近づいてきた。


「神辺くんだよね?」


「京一でいい。ってか吸わねーの?」


「あっ……いや……」


「ライター買い忘れた?」


「あっ!!」


 すっかりライターのことを忘れていた。火を点けないとタバコは吸えない。


「うひゃひゃひゃっ!! オレも最初は、それやったやった!」


 肩を上下に揺らしながら、京一はズボンのポケットに手を突っ込んで、ごそごそと探し始める。そしてポケットから何かを取り出すと、淳に向けて山なりに放り投げた。


「ほら。これで火を起こしなさい。理科の授業を覚えていますか? 勉強は大切ですよ」


 淳は反射的にそれを両手でキャッチした。それは大きな虫眼鏡だった。


「え?」


「はい。今のが俗に言う『反射運動』ですね。どうぞ実験を続けてください、川上教授」


 京一はわざとらしく人差し指で眼鏡のズレを矯正しながら、首を傾ける。


「あ、うん」


 淳は理科の実験を思い出しながら、小さな光をタバコの先に集中させる。


 右手にタバコ、左手に虫眼鏡。手が震えてなかなか照準が定まらない。虫眼鏡を少しずつ上下に動かして、光の大きさを調節してみる。光が大きくなるのを避けながら、少しずつ小さく、小さくしていく。


 そのとき、淳の手元の辺りから煙が姿を現した。


「……あっ! 煙が上がってきた! やった! あれ? でもどこから? 僕のタバコからじゃない!」


 煙の方をよく見ると、淳のすぐ後ろで京一が寝そべりながらおいしそうにタバコを吸っていた、左手でライターをカチャカチャ鳴らしながら。


「あーー!! ライター持ってんじゃん!! ってかタバコもーー!!」


「うひゃひゃひゃひゃっっ!!!!」


 京一の笑い声と同時に、五時間目の始業チャイムが鳴った。


「さっ、行きますか」


 ピタッと笑うのを止めると、見事な首跳ね起きで起き上がった京一は、一度、わずかに首だけ淳の方へ傾けた。まるで、淳にちゃんと付いて来るように、命令しているかのように。


 そして、京一はひとりで歩き始めた。


「ま、待てよ」


 扉の向こうへ消えていく京一を、淳は急いで追いかけた。


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