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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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99/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 99

「…葉問…」


 私は、言った…


 「…オマエ、頭は、おかしくは、なってないようだな…」


 「…ボクは、正常です…」


 葉問が、答えた…


 いたく、真面目な表情で、答えた…


 それを見て、私は、なんだか、おかしくなった…


 だから、思わず、


 「…プッ!…」


 と、吹き出した…


 そんな私を見て、葉問も、当惑した…


 「…なにが、おかしいんですか? …お姉さん?…」


 「…だって、おかしいだろ?…」


 私は、言った…


 「…私が、オマエは、頭がおかしいんだと言って、言われたオマエは、頭が、おかしくないと、言い返す…それが、まともな大人のすることか?…」


 私が笑いながら、説明すると、


 「…たしかに…」


 と、言って、葉問も、笑みを見せた…


 「…まともな、大人のすることじゃ、ありませんね…」


 「…そうだろ?…」


 私は、強く、言った…


 それを、見て、


 「…お姉さん…」


 と、葉問が、私を、呼んだ…


 「…なんだ?…」


 「…オスマン殿下のことですが…」


 「…殿下が、どうした?…」


 「…トラブルに巻き込まれるかも、しれません…」


 「…トラブル?…」


 「…サウジの国王陛下が、倒れました…なにかが、起こるかも、しれません…」


 葉問が、真面目な表情で、告げた…


 だが、私は、


 「…葉問…」


 と、声をかけた…


 「…なんですか?…」


 「…オマエの言うことは、わかる…だが、私になにが、できる?…」


 私は、言った…


 「…私は、平凡さ…平凡、極まりない女さ…そんな平凡極まりない私にできることなど、なにもないゾ…」


 「…そんなことは、ありません…」


 葉問が、即答した…


 「…お姉さんは、誰かも、愛されます…だから、誰からも、力を貸してもらえる…」


 「…力を貸して、だと?…」


 「…そうです…嫌われる人間は、どこに行っても、誰からも、嫌われます…だから、誰も、力を貸して、もらえません…お姉さんは、その真逆です…」


 「…私は、真逆?…」


 「…そうです…正直な話…この先、なにが、起こるか、この葉問にも、皆目、さっぱり、わかりません…ですが、オスマン殿下が、一目見て、お姉さんを、気に入ったように、お姉さんには、なにか、ひとに好かれる力が、あります…」


 「…ひとに、好かれる力?…」


 「…だから、その力があれば、絶望的な局面でも、なにかが、起こる可能性があります…」


 「…絶望的な局面?…」


 「…これは、言い過ぎかもしれませんが、なんでも、最悪な事態に備えるのが、一番です…」


 「…」


 「…とにかく、この後の展開は、お姉さん次第かもしれません…」


 そう言うと、葉問は、呆気なく、消えた…


 私が、声をかけるまもなく、呆気なく、消えた…


 私が、


 「…私次第?…」


 と、呟くと、


 「…なにが、お姉さん次第なんですか?…」


 と、今度は、葉尊が、聞いた…


 私は、一瞬にして、葉問から、葉尊に変わったことに、驚いた…


 まるで、手品のように、一瞬で、葉問から、葉尊に変わったのだ…


 目の前の同じ人間の明らかに、中身が、変わった…


 人格が、変わったのだ…


 だから、驚くなと、言う方が、無理…


 無理筋だった…


 もう、何度も、葉尊から、葉問に…


 あるいは、


その真逆に、葉問から、葉尊に変わった場面を、何度も、見ているにも、かかわらず。驚きだったのだ…


 だから、つい、葉尊に、


 「…なんでもない…なんでもないさ…」


 と、いう私の十八番の言葉を口にした…


 葉尊には、悪いと思いながらも、つい、反射的に、口にしてしまった…


 自分でも、しまったと、思った…


 葉尊に、悪いと、思ったのだ…


 だから、


 「…葉尊…すまんかった…」


 と、葉尊に、詫びた…


 が、


 私が、詫びることに、葉尊は、驚いたようだ…


 「…なぜ、お姉さんが、詫びるんですか?…」


 と、直球で、聞いた…


 私は、なんと言おうと、考えたが、


 「…いや、なんとなく…」


 と、自分でも、歯切れが悪かった…


 すると、


 「…お姉さん…」


 と、葉尊が、声をかけた…


 「…なんだ?…」


 「…まだ、始まったばかりです…」


 突然、葉尊が、言った…


 「…始まったばかり? …なにが、始まったばかりなんだ?…」


 「…お姉さんとの生活です…」


 「…私のとの生活?…」


 「…まだ結婚して、半年も経ってないじゃないですか?…」


 その通りだった…


 まさに、その通りだった…


 まだ、この葉尊と結婚して、半年も経って、なかった…


 おまけに、同居したのは、つい先月…


 それまでは、いわゆる別居婚だった…


 いっしょに、住んでいなかった…


 だから、まだ、お互いのことが、わからない…


 なにしろ、同居して、まだ一か月だ…


 互いを知る時間としては、短か過ぎる…


 短か過ぎるのだ…


 「…お姉さん…互いに、楽しく人生を満喫しましょう…」


 葉尊が、明るく言った…


 「…楽しく人生を満喫だと?…」


 「…人生は、長い…ボクも、お姉さんも…」


 葉尊が、笑う…


 「…だから、楽しみましょう…マラソンでも、なんでも、苦しくとも、楽しまなければ、いけません…」


 「…苦しくても、楽しまなければ、いけないだと?…」


 「…人生は、長い…そして、苦しい…あの徳川家康が、ひとの一生は、重荷を背負って、歩くようなものと、言ったじゃないですか…」


 葉尊が、笑った…


 「…でも、お姉さんといっしょにいると、その重荷を背負うのも、つらくなくなる…」


 「…どうしてだ?…どうして、私といると、つらくなくなるんだ?…」


 「…楽しいからです…辛くとも、楽しいからです…」


 「…」


 「…辛いのは、当たり前です…なにしろ、家康に言わせれば、重荷を背負っているんですから…ですが、伴走者というか…いっしょに、歩く人間がいて、その人間といることが、楽しければ、辛さも、気にならなくなります…」


 「…」


 「…お姉さん…これからも、ボクといっしょに、人生を歩んで、いきましょう…」


 葉尊が、明るく言った…


 私は、葉尊に、そんなことを、言われたのは、初めて、だった…


 これまで、葉尊に、そんなことを、言われたことは、一度もなかった…


 が、


 当然、そんなことを、言われて、悪い気分になることは、ない…


 だから、私も、


 「…もちろんさ…」


 と、言った…


 「…葉尊…オマエといっしょに、歩いて、ゆくさ…」


 私が、答えると、


 「…ハイ…いっしょに、歩いていきましょう…お姉さん…」


 と、葉尊が、応じた…


 私は、幸せだった…


 実に、幸せだった…


 この平凡な矢田トモコが、六歳年下で、長身で、イケメン、おまえに大金持ちの御曹司と、結婚して、愛されている…


 この六頭身で、巨乳で、幼児体型の矢田トモコが、愛されている…


 冷静に、考えれば、ありえない事態だった…


 ありえない話だった…


 物語のシンデレラは、若くキレイな娘…


 そのシンデレラを見初めた王子様も、また、若いイケメン…


 だから、二人とも、実に似合っている…


 だが、この矢田トモコは、すでに35歳…


 若くはない…


 真逆に、夫の葉尊は、29歳と、若い…


 おまけに、180㎝と、長身…


 私は、159㎝…


 別に、日本の女として、決して、身長は、低くはないが、葉尊と並ぶと、似合わない…


 やはり、夫が、180㎝あれば、妻も、165㎝は、欲しい…


 そうでないと、二人並ぶと、凸凹コンビになってしまう…


 私は、思った…


 だから、私は、世間で、35歳のシンデレラと呼ばれたが、本物のシンデレラのように、王子様=葉尊と、並んでも、さまにならない…


 絵にならない…


 が、


 しかし、そんなカップルは、世間にありふれている…


 言い訳ではないが、実にありふれている…


 そもそも、現実は、物語とは、違う…


 アニメや漫画や、ドラマや映画とは、違う…


 そもそも、若く、お金持ちで、長身のイケメンで、性格も良い男など、この世の中に、存在しない…


 お金持ちであれば、やはり、謙虚さに欠けたりするだろうし、長身のイケメンならば、普通は、私などではなく、もっと、若くて、美人の女と、結婚しただろう…


 が、


 なぜか、葉尊は、私を選んだ…


 この矢田トモコを選んだ…


 これは、解けぬ謎だった…


 私といっしょにいると、楽しいからと、今も葉尊は、言ったが、私に言わせれば、眉唾物だった…


 いや、本当なのかもしれないが、どうしても、私には、信じられなかった…


 が、


 現実だった…


 だから、夢なら、覚めないで、もらいたいと、思った…


 これが、夢ならば、一刻も長く、その夢を見ていたいとも、思った…


 同時に、葉尊が、美人に、こだわらないのは、やはり、身近に、美人が、いるからでは? と、気付いた…


 リンダと、バニラ…


 共に、絶世の美人だ…


 おおげさではなく、絶世の美人だ…

 

 二人が、パーティーで、正装した姿を何度か見たことが、あるが、とてもこの世のものとは、思えない…


 まるで、芸術品…


 おおげさではなく、生きているのが、不思議なくらい、美しかった…


 あのバニラなど、普段は、バカ、バニラなどと、私は、いつも、バニラの悪口を言っているが、とても、悪口を言えなくなるほど、美しかった…


 とても、いつも、私に対して、悪態をついている女と、同一人物とは、思えないほど、だった…


 が、


 葉尊にしてみれば、それは、日常なのかもしれなかった…


 日常の光景なのかも、しれなかった…


 いかに、美人でも、毎日見ていれば、飽きる…


 たとえ、どんな美食でも、毎日食べれば、飽きるというか、こんなものかと、思ってしまう…


 それと、同じかもしれないと、思った…


 が、


 と、すると、どうだ?


 この矢田トモコと結婚したのは、新鮮だったからなのかもしれないと、気付いた…


 この矢田トモコは、今まで、葉尊が、見たこともない存在なのかもしれないと、気付いた…


 例えば、毎日、美食ばかり食べていると、たまに食べるお茶漬けが、新鮮だったりする…


 シンプルだが、うまいと、感じる…


 それと、同じかもしれないと、気付いた…


 が、


 それを、今、目の前の葉尊に聞くことは、できなかった…


 なんで、私と結婚したんだ? と、直球に、聞くことは、できんかった…


 そして、それは、もしかしたら、あのオスマン殿下も同じかもと、思った…


 私が、今、葉尊といっしょにいて、幸せのように、オスマン殿下もまたマリアといっしょにいて、幸せなのかもしれないと、思った…


 見かけは、3歳の幼児にしか見えない、小人症のオスマン殿下に、とって、3歳のマリアは、子供…


 文字通り、自分の子供の年齢だ…


 が、


 マリアと、いることが、心地良いのかも、しれない…


 ふと、気付いた…


 30歳のオスマン殿下が、3歳の幼児たちと、いっしょに、生活する…


 言葉は悪いが、オスマン殿下が、小人症でなく、普通の大人ならば、違っただろう…


 3歳の幼児たちも、自分たちと、オスマン殿下を同等とは、見ないからだ…


 が、


 オスマン殿下は、小人症…


 外見は、3歳にしか、見えない…


 だから、子供たちも、自分たちと同じだと、思う…


 が、


 実際は、全然違う…


 だから、本当は、オスマン殿下も、そんな生活は、嫌に違いない…


 が、


 マリアがいる…


 その幼児の中に、バニラがいる…


 すると、どうだ?


 嫌では、ない…


 オスマン殿下は、マリアが好きだから、嫌ではない…


 そういうことだろう…


 私は、目の前の葉尊を見ながら、葉尊が、どうして、私を選んだのか、考えた…


 そして、それが、いつのまにか、オスマン殿下と、マリアのことに、考えが移った…


 オスマン殿下と、マリアのことを、考えたのだ…


 そして、それを、目の前の葉尊に、言うことは、できなかった…


 なぜなら、葉尊は、オスマン殿下を知らないからだ…


 だから、言えんかった…


 言えんかったのだ…


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