35歳のシンデレラ アラブの女神編 93
「…オスマン殿下が、日本で、ただ一人、信頼できる人物が、私だと?…」
うーむ…
実に、ひとを、見る目がある…
やはり、アラブの至宝と呼ばれる頭脳の持ち主と言われるだけのことはある…
私は、納得した…
実に、納得したのだ…
天才は、天才を知る…
やはり、この矢田トモコの真の偉大さは、オスマン殿下のような偉人にしか、わからんのかもしれん…
私は、そう思った…
私は、そう信じた…
と、言いたいところだが、さにあらず…
ホントに、あのオスマン殿下は、アラブの至宝なのか?
と、思った…
ハッキリ、言えば、疑った…
大体、どこのバカが、私を信頼するというのか?
そもそも、私は、私を信頼しない…
私を評価しない…
私が、他人ならば、私を評価しない…
なぜなら、私は、平凡だからだ…
とりたてて、他人様よりも、優れたものなど、なに一つない…
それが、わかっているからだ…
ずっと、以前のことだが、私同様、平凡にも、かかわらず、自分が、いかに、優れているか、周囲に吹聴する女が、いた…
私のかつてのバイト仲間だ…
まったくの平凡な人間にも、かかわらず、自分自身は、優れていると、自負していた…
誰にも、負けないようなことを、言っていた…
当然、陰で、笑われている…
私は、自分でいうのも、なんだが、友達が多く…その中には、街で、出会っても、つい、二度見、三度見、してしまうような美人もいた…
だから、つい、その美人の友達を、その女に、紹介したくなった…
その美人の友達を前にしたら、その女は、どういう態度を取るのか、知りたかったからだ…
もちろん、紹介は、しなかったが、結末は、わかっている…
その美人に、嫉妬するに違いないからだ…
その美人を前にしたら、冗談でも、自分が、キレイだとか、言えなくなるからだ…
どうあがいても、勝てないことは、瞬時にわかる…
見た瞬間に、わかる…
だから、嫉妬するのだ…
そして、以前も、言ったが、その女は、結婚し、離婚して、再婚した…
当たり前のことだった…
それが、わかったのは、偶然、街で、会ったとき…
その当時、その女は、いつも自分の付き合っている男を携帯電話の待ち受け画面にして、周囲の人間に、見せびらかしていた…
待ち受け画面の男は、決して、身長が、低くはないが、高くはなかった…
そして、後日、その男と結婚したと、聞いた…
が、
その女と、偶然、街で、再会したときは、180㎝は、超える大柄な男と、歩いていた…
しかも、小さな子供を二人連れていた…
だから、すぐに、前の男とは、離婚したことが、わかった…
当たり前のことだった…
私が、男でも、決して、彼女とは、結婚しない…
彼女と結婚するぐらいなら、一生独身の方がいい…
そう、思った…
現実に、彼女と同じ職場で、彼女に手を出す男はいなかった…
皆無だった…
これも、当たり前のことだった…
まったくの平凡なルックスと能力で、おまけに性格の悪い彼女に手を出そうという男はいない…
いわば、彼女は、私の半面教師だった…
彼女を評して、
「…あの女は、なんでも、自分が、一番じゃなければ、気が済まない…」
と、言った同僚がいたが、けだし、名言…
正鵠を射ていた(爆笑)…
そんな女を見てきただろうか?
とても、私を見て、自分が、優れていると、思ったことは、一度もなかった…
ルックスも平凡…
頭も平凡…
実家も平凡…
すべてが、平凡の極み…
それが、私だった…
矢田トモコだった…
だから、そんな私が、冗談でも、優れているなんて、言えない…
それでは、あの女と、いっしょだ…
陰で、みんなに笑われてる、あの女といっしょだ…
そう、思ったからだ…
だから、
「…リンダ…私をバカにするな…オスマン殿下が、私を優れているなんて、言うわけないだろ?…」
と、言ってやった…
すると、
「…優れている? …いつ、お姉さんが、優れているなんて、言ったの?…」
と、リンダが、目を丸くした…
「…だって、オマエは、今、オスマン殿下が、私を信頼したと…」
「…そうよ…信頼したと、言ったの…誰も、お姉さんを優れてるなんて、一言も、言っていない…」
「…なんだと?…」
私は、頭に来た…
だったら、優れていると、信頼しているとの違いは、なんだ?
私は、思った…
「…じゃ、その違いは、なんだ?…」
「…違い?…」
「…優れていると、信頼しているとの違いさ…」
「…それは、私とお姉さんのルックスの違いのようなもの…」
「…どういう意味だ?…」
「…ルックスは、当然、私の方が上…童顔で、巨乳で、六頭身のお姉さんよりも、上…」
「…」
「…でも、お姉さんの方が、誰からも愛される…それと同じ…」
「…」
「…いくら、優れていても、誰からも、愛されないんじゃ、ダメ…」
リンダ=ヤンが、笑った…
その笑いは、寂しそうだった…
「…私は、お姉さんに、なりたかった…」
「…私になりたかっただと?…」
「…お姉さんのように、みんなに、愛されたかった…」
「…」
「…ううん…それは、私だけじゃない…バニラも、葉尊も、葉問も、葉敬も、皆、同じ…誰からも、愛される…そんな人間になりたかった…」
リンダ=ヤンが、告げる…
私は、そんなリンダ=ヤンの姿を間近に見ながら、
「…この女も、とうとう頭がおかしくなったか…」
と、気付いた…
元々、頭がおかしいとは、思わんが、変な女だった…
ハリウッドのセックス・シンボルと呼ばれるほどの色気の持ち主で、絶世の美女だが、普段は、男の格好をしている…
男の格好=ヤンの格好をしている…
そして、それは、いつも、女の格好をしていると、リンダ・ヘイワースだと、バレて、大変なことになるから、と、最初は、言っていた…
私は、それを信じた…
が、
次には、本当は、性同一性障害で、男に興味がないから、と、告白した…
つまりは、リンダ・ヘイワースは、あくまで、商売…
商売=ビジネスに過ぎない…
ホントは、心が、男だと、言っていた…
が、
にもかかわらず、葉問を好きだった…
例外的に、葉問だけは、好きだった…
つまりは、言っていることが、コロコロ変わる…
これでは、信用できん…
そして、極めつけは、今の言葉…
この矢田トモコに、みんなが、憧れていると、言った言葉だ…
もちろん、そんな言葉は、ウソだ…
だが、
そんなウソを、たやすく私に、信じ込ませようとする、このリンダに、私は、唖然としたのだ…
まるで、3歳の子供を騙せるかのように、私を騙そうとする…
それが、簡単にできると思うことが、すでに、頭のおかしな証拠だった…
きっと、ハリウッドのセックス・シンボルだ、なんだと、周囲から、持ち上げられている間に、頭がおかしくなったのだろう…
私は、気付いた…
ハリウッドのセックス・シンボル=スターになると、周囲の人間が、チヤホヤし出す…
すると、どうだ?
普通なら、
「…こんなこと、言って、おかしい?…」
とか、
{…ちょっと、変!…}
と、思うことも、周囲の人間は、なにも言わない…
相手がスターだから、遠慮するのだ…
その結果、調子に乗る…
天狗になる…
なぜなら、誰も注意をしないからだ…
だから、わけのわからないことを言うことになる…
私は、そう思った…
「…リンダ…」
「…なに、お姉さん…」
「…オマエも一度、外の世界を見た方が、いいゾ…」
「…なに、お姉さん…いきなり…」
「…どこか、外国でも、行って、誰もオマエを知らないところで、暮らしてみろ…人生が、変わるゾ…」
「…なに、お姉さん…なにが、言いたいの?…」
「…視野を広げろと、言いたいのさ…」
私は、断言した…
まさか、
「…オマエは、頭がおかしいから、精神科にいって、みてもらえ…」
とは、さすがに、言えんからだ…
いかに、私とリンダの間でも、言っていいことと、悪いことがある…
さすがに、言えんことが、あるからだ…
私の言葉に、リンダが、考え込んだ…
そして、
「…実は…」
と、切り出した…
が、
その後が、続かんかった…
だから、私は、
「…実は、なんだ?…」
と、聞いてやった…
「…実は、オスマン殿下に、一度、サウジアラビアに来てみないか? と、誘われたの…」
「…オスマン殿下に?…」
私は、驚いた…
まさか、
まさか、
オスマン殿下が、リンダを口説くとは、思わんかったのだ…
私が、唖然として、リンダを見ていると、
「…誤解しないで…お姉さん…」
と、リンダが、言った…
「…誤解? …なにを、誤解するんだ?…」
と、私は、なにも気付かないフリをして、言った…
つまりは、大人の対応をしたのだ…
「…別に、オスマン殿下が、私を口説こうとしているわけじゃない…」
「…だったら、どうしてだ?…」
「…世界を見ろ…視野を広げろ…と、私に言ったの?…」
「…それと、オマエを口説くのと、どう違うんだ?…」
「…あのオスマン殿下は、お姉さんと同じ…」
「…私と同じ?…」
「…常に先を、見ている…」
「…先を、見ているだと?…」
「…ひとは、死ぬまで、生きなくてはならない…いつまでも、ハリウッドのセックス・シンボルは、続けられない…だから、その先…ハリウッドのセックス・シンボルが、続けられなくなった先を考えなければならない…そのためには、少しでも、視野を広げた方がいい…少しでも、色々な経験をした方がいいと、アドバイスしてくれたの…」
リンダが、しんみりと、言った…
ホントは、
「…だから、オマエは、ダメなんだ!…」
と、言ってやりたかった…
「…それが、口説かれているということなんだ?…」
と、言ってやりたかった…
が、
言わんかった…
なぜなら、言った相手が、オスマン殿下だからだ…
権力者のオスマン殿下だからだ…
オスマン殿下に逆らうことは、できん…
この矢田とて、まだ命は、惜しいからだ…
だから、
「…そうか…」
と、だけ、言った…
「…私と殿下は、同じか…」
と、だけ、言った…
いつのまにか、腕を組んで言っていた…
私も威厳を、持とうとしたのだ…
「…なるほどな…」
と、今度は、鼻の穴を広げて言った…
…私とオスマン殿下が、同じ…
…この矢田トモコと、アラブの至宝が、同じことを、言った…
…偶然、同じことを言った…
あくまで、偶然、同じことを、言っただけだが、嬉しかった…
鼻の穴が、大きく広がるほど、嬉しかったのだ…
天才は天才を知る…
まさに、その言葉通りだった…
その言葉通りだったのだ…




