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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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82/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 82

…お義父さんが、スーパージャパンを買収?…


 …矢口のお嬢様の会社を買収?…


 考えもせんかった…


 予想もせんかった…


 まさに、想定外…


 想定外の事態だった…


 だから、どう言っていいか、わからんかった…


 あまりにも、想定外の出来事に、どう返答していいか、わからんかった…


 私は、ただ、


 「…」


 と、黙ったままだった…


 すると、葉尊が、言いづらそうに、


 「…実は、これは、ボクも最近知ったばかりです…」


 と、言い訳した…


 「…最近知ったばかりだと?…」


 「…ハイ…」


 「…」


 「…当たり前ですが、ボクと父は、いっしょに同居もしていなければ、職場も別です…だから、基本、交流はありません…」


 葉尊の言う通りだ…


 葉尊の父、葉敬は、台湾の大企業、台北筆頭のオーナー経営者…


 基本、台湾にいる…


 片や、息子の葉尊は、私と、この日本で、同居している…


 だから、基本、交流はない…


 だから、今、葉尊が言ったように、父の葉敬が、あの矢口のお嬢様の会社を買収しようとしても、知らなかったと、しても、おかしくはない…


 だが、だ…


 どうして、スーパーなんだ?


 それが、謎だった…


 葉尊の父の葉敬は、台湾の台北筆頭のオーナー経営者…


 経営するのは、メーカーだ…


 だから、経営危機に陥った、日本の総合電機メーカー、クールを買収して、その社長に、息子の葉尊を送り込んだ…


 そして、私は、その葉尊の妻だ…


 だから、


 「…どうして、スーパーなんだ?…」


 私は、直球に、葉尊に聞いた…


 「…お義父さんが、経営する、台北筆頭は、オマエが、社長を務めるクールと同じで、メーカーだろう? …それが、どうして、スーパーを買収しようとするんだ?…」


 文字通り、謎だった…


 畑違い過ぎる…


 私は、経営者でも、なんでもない…


 素人だ…


 が、


 そんな素人の私にすら、そんなことが、できるのか、謎だった…


 これは、例えば、トヨタが、イトーヨーカドーを、買収すると、言っているようなものだ…


 誰もが、初めて、聞けば、目が点になる…


 「…エッ?…」


 と、絶句する…


 それから、そんなことができるのか、心配になる…


 自動車を作る会社が、スーパーを買収して、経営できるのか、心配になる…


 「…それは、ボクに聞いても…」


 葉尊が、言い淀んだ…


 その姿を見て、


 「…そうだな…」


 と、相槌を打つしか、なかった…


 いかに、父子といえども、父が、なにを考えているか? 息子でも、わかるはずがないからだ…


 だから、


 「…すまんかった…」


 と、葉尊に、詫びた…


 すると、


 「…でも、父が…葉敬が、スーパーを買収すると、聞いたときに、最初は、驚きましたが、わからないわけじゃないと、思い直しました…」


 と、付け足した…


 「…どういうことだ?…」


 「…父は、スーパーが、好きなんです…」


 「…スーパーが好き?…」


 「…ハイ…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…単純に、買い物が好きなんです…主婦じゃ、ありませんが、どこの店に、どんな商品が、置いてあるかとか…Aという店よりも、Bという店の方が安いとか…それが、父の趣味というか…」


 「…お義父さんの趣味?…」


 「…ハイ…父は、ゴルフはしませんし、経済人にありがちな、会社の経営が、趣味といえる男です…ですが、そんな中でも、スーパー巡りというと、聞こえは悪いですが…とにかく、好きなんです…色んなスーパーを、見て回るのが、好きなんです…」


 なんと?


 台湾の大企業の社長の趣味が、スーパー巡りとは?


 思いもせんかった…


 まさに、想定外…


 考えもつかんかった…


 「…だから…」


 と、葉尊は、続けた…


 「…ボクも最初に聞いたときは、腰を抜かさんばかりに驚きましたが、よく考えると、納得できる部分はありました…ただ…」


 「…ただ…なんだ?…」


 「…この話…本当か、どうかは、眉唾物です…」


 「…なんだと?…」


 これには、驚いた…


 最初から、自分の父親の葉敬が、あのお嬢様の会社である、スーパージャパンを買収するのでは? と言っていて、実は、この話、眉唾物とは?


 一体どういうことだ?


 さっぱり、話がわからん…


 さっぱり、話が見えん…


 「…どうして、眉唾物なんだ?…」


 「…考えて見て下さい…」


 「…なにを、考えるんだ?…」


 「…台北筆頭のオーナー社長が、日本のスーパーを買収する…畑違い過ぎます…」


 「…それは、そうだが…だが、葉尊…オマエは、お義父さんの趣味が、スーパー巡りだと、今、言ったばかりじゃないか?…」


 「…そこです…お姉さん?…」


 「…なにが、そこなんだ?…」


 「…父の趣味が、スーパー巡りだと知った人間が、わざと、この噂を流したか? あるいは…」


 「…あるいは、なんだ?…」


 「…父に、わざとスーパーの買収を持ちかけて、その気にさせようとしたか?…」


 「…なんだと?…」


 「…ボクも、この話を最初に聞いたときは、一笑に付したんですが、今、お姉さんに話を聞いて、そうでないことを、知りました…」


 「…」


 「…なにより、買収されると、知った矢口さんが、焦っていると、聞いて、驚愕しました…」


 「…」


 「…それで、これは、もしかしたら、本当かもしれないと、思い直しました…」


 葉尊が、真剣な表情で、語る…


 私は、それを見て、当たり前だが、葉尊の言葉を信じた…


 夫の言葉を信じた…


 「…で、どうする?…」


 私は、聞いた…


 「…どうするって、どういう意味ですか?…」


 「…お義父さんが、矢口のお嬢様の会社を買収する話さ…オマエは、どう対応するんだ?…」


 「…別に、なにも…」


 「…なんだと?…」


 「…考えて見て下さい…お姉さん…」


 「…なにを、考えるんだ?…」


 「…父が、矢口さんの会社を、買収するとしても、それは、ビジネスです…そして、父のビジネスに、ボクは、口を挟めません…」


 「…」


 「…ボクが、この若さで、クールの社長をしているのも、父のおかげです…29歳で、日本の大企業の社長に、普通は、できるはずがありません…なれるはずが、ありません…」


 「…」


 「…だから、ボクが、父になにか、意見を言うことはできません…」


 言われてみれば、その通り…


 まさに、その通りだった…


 「…お姉さんの気持ちはわかります…」


 「…私の気持ち?…」


 「…友人の矢口さんが、困ると、思っているんでしょ?…」


 「…別に、あのお嬢様は、私の友人では…」


 と、言いかけて、止めた…


 あのお嬢様は、友人というほど、親しくはない…


 しいて言えば、顔見知りというか…


 ただ、昔、知り会って、利用されただけだ(苦笑)…


 そして、それは、今回も同じ…


 同じだ…


 またも、利用された…


 が、


 別に、命を取られたわけでも、お金を取られたわけでも、なんでもない…


 ただ、利用されただけ…


 お嬢様と、私が、見た目が、そっくりだから、利用されただけだ…


 それと、利用されたにも、かかわらず、不思議と、私は、あのお嬢様に、恨みは、なかった…


 それは、なぜかと、言えば、あのお嬢様に、性格の悪さを感じないからだろうと、思った…


 誰もが、そうだが、性格の悪い人間は、嫌いだ…


 性格の悪い人間を好きなのは、同じように、性格の悪い連中ばかり…


 これは、学校や会社に限らず、集団を見れば、わかる…


 人が集まれば、わかる…


 同じような性格の人間が、固まるものだ…


 見るからに真面目な人間は、同じように、真面目な連中といっしょにいる…


 真逆に、ヤンキーは、ヤンキーとつるむ…


 その方が、楽しいからだ…


 気が合うからだ…


 だから、ある人間が、どういう人間か、知りたければ、その人間が、誰と仲がいいかを、見れば、簡単にわかる…


 そういうことだ…


 そんなことを、考えていると、


 「…お姉さんは、優しいんですね…」


 と、葉尊が、言った…


 「…優しい? …私が?…」


 「…そうです…矢口さんが、心配で、堪らないのでしょ?…」


 「…いや…そこまでは…」


 「…そこまではないと、お姉さんは、言いたいのでしょうが、ボクは、そうは、思いません…」


 「…どうして、そう思わないんだ?…」


 「…だって、考えて見てください…なにも、思わなければ、そもそも、矢口さんのことを、ボクに聞きませんよ…」


 「…」


 「…お姉さんは、根が善人なんです…」


 「…根が善人? …私が?…」


 「…そうです…だから、父も…葉敬も、ボクとお姉さんが、結婚することに、反対しなかった…」


 「…」


 「…父は、当然ながら、ひとを見る目があります…お姉さんが、善人でないならば、父は、お姉さんとの結婚を認めなかったと、思います…」


 私は、唖然とした…


 正直、どう答えていいか、わからなかった…


 私が、善人か、どうかは、わからない…


 少なくとも、自分では、性格が悪くは、ないと、思う…


 が、


 それを言えば、極端な話、死刑囚といえども、自分は、性格が悪くないと、言い張るんじゃないかと、思う…


 いや、


 言い張るのではなく、本気で、自分が、性格が、悪くないと、信じている可能性が、高い(爆笑)…


 そもそも、死刑囚は、おおげさ過ぎるが、身近な自分の周りの人間で、誰が、見ても、性格が悪い人間が、いたとする…


 その人間に、


 「…アンタ…性格が、悪いね…」


 とでも、言えば、大抵は、ムキになって、否定するだろう…


 稀に、


 「…そうさ…自分は、性格が、良くないから…」


 と、言っても、ふざけているか、冗談で、言っているかの、どっちかで、本当に、心の底から、自分が、性格が、悪いと、思っている人間は、まずはいないものだ…


 そんなことを、考えながら、


 「…たしかに、私は、性格が、悪いとは、思わんが、善人とまでは…」


 と、言った…


 つい、口にした…


 誰もが、そうだろう…


 誰もが、同じ、ことを、口にするだろう…


 この世に、聖人君子は、存在しない…


 善人かと、聞かれて、善人だと、心の底から、言える人間は、存在しない…


 大抵は、真っ白では、なく、多少は、汚れている(笑)…


 普通に、陰で、ひとの悪口を言い、ちょっとばかり、ウソをつく…


 誰もが、そういうものだ(笑)…


 誰もが、多少は、それがある…


 ハッキリ言えば、程度の問題だ…


 それが、ひどければ、


 「…アイツは、性格が悪い…」


 と、陰口を叩かれる…


 そういうことだ(笑)…


 「…お姉さんは、自分の良さが、わからないんです…」


 葉尊が、続けた…


 「…私の良さ?…」


 「…そうです…おそらく、父も、ボクとお姉さんが、結婚したときは、内心、不安だったと思います…」


 「…不安だった?…」


 「…ハイ…ボクとお姉さんが、うまくいくか、どうか、不安だったと、思います…」


 「…うまくいくか、どうかだと?…」


 「…ボクとお姉さんの結婚は、まさに、偶然…偶然の出会いからです…だから、いっしょにいる時間が、少なかった…その二人が、いっしょに暮して、うまくいくか、どうか、不安だったはずです…」


 「…」


 「…でも、それは、杞憂(きゆう)でした…」


 「…杞憂(きゆう)だと?…」


 「…実は、今だから告白しますが、お姉さんと、いっしょに暮したのは、父のゴーサインが、出たからです…」


 「…お義父さんのゴーサイン?…」


 「…ハイ…お姉さんと結婚は、したものの、最初は、別居婚…いっしょに、住みませんでした…ですが、お姉さんが、リンダやバニラと仲良くすることで、父は、お姉さんを、受け入れたんです…」


 「…私が、リンダやバニラと仲良くすることで、私を受け入れただと?…」


 「…リンダもバニラも、超一流の芸能人…当然、プライドも高い…だから、周囲は、彼女たちの扱いに、困るときもあります…」


 「…プライドが、高い? たしかに、そうかもしれんが、私には、普通だったゾ…」


 「…それは、お姉さんだからです…」


 「…私だから?…」


 「…そうです…もちろん、父やボクは、今のように有名になる前のリンダやバニラを知ってますから、二人とも、父やボクの前では、威張ることはありません…横柄な態度も、取りません…ですが、それ以外の人間には、違います…」


 「…どう違うんだ?…」


 「…やはり、ついわがままになってしまうんです…例えば、なにか、飲み物を飲みたいとします…すると、自分のいる場所から、歩いて、十メートルでも、二十メートルでも、近くに、自動販売機があって、そこに、自分が、歩いて、行って、買えば、いいだけなのに、周囲の人間に頼む…まるで、自分が、行けば、スターでないような気分になってしまうんでしょ?…」


 …そんな!…


 …そんなバカな!…


 私は、驚いた…


 まさか…


 まさか、リンダやバニラがそんなわがままとは…


 全然、知らんかった…


 が、


 そう言われれば、私にも、わかる…


 夫の葉尊の言うことが、わかる…


 リンダも、バニラも有名人…


 当たり前だが、プライドが高い…


 だから、扱いに困るのは、わかる…


 態度が、横柄になってしまうから、扱いに困るのは、わかるのだ…


 「…ですが、そんな二人も、お姉さんの前では、違います…まるで、昔からの知り合いのように接します…それも、短期間で…そんなことのできる人間は、滅多にいません…だから、それを見て、父は、ボクが、お姉さんと住むことを、許可したんです…」


 「…な、なんだと?…」


 唖然として、言葉が続かんかった…


 まさか、私が、夫の葉尊と住むことも、お義父さんの許可を得ていたとは…


 いや、


 お義父さんの許可が、必要なのは、わかる…


 考えてみれば、当たり前のことだ…


 が、


 それより、なにより、お義父さんが、私とリンダやバニラの関係を見て、同居をOKしたことが、驚いたのだ…


 私は、ただリンダやバニラと接しただけ…


 だが、その対応を見て、お義父さんが、私を認めたのが、驚いたのだ…


 「…お姉さんの才能です…誰にもできることじゃありません…」


 葉尊が、言った…


 「…そして、もしかしたら…その才能を生かすことが、できるならば、矢口さんを救うことができるかも…」


 葉尊が、仰天する言葉を、続けた…


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