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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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35歳のシンデレラ アラブの女神編 49

「…正直、わけが、わからんかったゾ…」


 家に帰った私は、その日の午後、バニラに電話で、報告した…


 「…オマエに頼まれて、マリアをイジメているという子供を見に行ったら、ファラドが、出てくるとは、思わんかったゾ…ファラドは、まだ来日していないはずさ…それが…」


 「…」


 「…まさに、まさかさ…私は、焦って、どうしていいか、わからんかったゾ…」


 私は、バニラに告げた…


 告げたのだ…


 が、


 バニラの反応はなかった…


 なかったのだ…


 「…あの…お姉さん…」


 「…なんだ?…」


 「…マリアをイジメているという子供は…」


 「…オスマンか?…」


 「…オスマン?…」


 「…なんだか、わからんが、殿下とか、呼ばれて、ファラドにかしずかれていたゾ…」


 「…殿下?…」


 「…子供ながらに、イケメンのガキだ…まるで、ファラドを自分の臣下のように、扱っていたゾ…」


 「…臣下?…」


 「…部下のことだ…そのオスマンが、上から目線で、アレコレ言うものだから、マリアが怒ってな…」


 「…マリアが?…」


 「…そうさ…オスマンは、いつも誰にでも、上から目線だから、嫌われるんだと、マリアが、指摘してな…そのオスマンと言い争いになったのさ…」


 「…言い争いに?…」


 「…が、アレは、イジメというより、ケンカという感じだったゾ…」


 「…ケンカ?…」


 「…そうさ…お互いが、お互いを気に入らないというやつだ…誰にも、そんなやつが、一人や二人いるものさ…」


 言いながら、それは、まさに、バニラに当てはまると思った…


 私にとっては、バニラ…


 まさに、オマエだ…


 しかし、そのオマエに対して、こんなことを言うとは…


 まさに、世の中、どうなるか、わからん…


 そんな典型のような気がした(笑)…


 「…まあ…バニラ…そんなに、心配するな…私の見る限り、マリアは、オスマンに負けてはいないさ…」


 「…負けてない?…」


 「…そうさ…口は互角…それに、マリアは母親のオマエ同様、カラダが大きいから、とっくみあいになっても、きっと、オスマンには、負けないゾ…」


 「…お姉さん…そんな…」


 私は、バニラの言葉を聞きながら、もう一つの可能性に気付いた…


 「…ひょっとしてだゾ…バニラ…」


 「…なにが、ひょっとしてなんですか?…」


 「…あのオスマンは、マリアが好きなんじゃないか?…」


 「…マリアが好き? …お姉さん、どうして、そういう話に…」


 「…マリアは、オマエ同様、子供ながら、美人だ…オスマンは男…子供でも、男だ…だから、美人に目がないのかもしれん…」


 「…」


 「…だから、わざと、マリアにちょっかいを出している可能性もある…」


 「…だったら、いいんですが…」


 バニラが、ちょっとばかり、ホッとしたような様子だった…


 それは、電話の向こう側にいるにも、かかわらず、わかった…


 「…いずれにしろ、大丈夫とは、言えんが、あのファラドと縁ができた…」


 「…縁ですか?…」


 「…そうさ…今日、ファラドが、私を35歳のシンデレラと呼んだ…つまり、あらかじめ、私のことを調べ尽くしていると、言いたかったのさ…それに、気付いた私は、ファラドに目的を聞いた…」


 「…それで、ファラドは、どう答えたんですか?…」


 「…お姉さんが、目的ではありませんと、言ったさ…」


 「…お姉さんが、目的じゃない?…」


 「…そうさ…そうは、言いながらも、こちらのことは、調べ尽くしている…だから、ファラドと、また会う機会はあるさ…」


 私は、言った…


 「…わかりました…お姉さん…今回は、ありがとうございました…また、なにか、ありましたら、よろしくお願いします…」


 「…わかってるさ…マリアのためさ…一肌も二肌も脱ぐさ…」


 「…ありがとうございます…」


 バニラが、私に礼を言って、電話を切った…


 私は、これで、とりあえず、肩の荷が下りた気がした…


 バニラに頼まれて、娘のマリアを、イジメている子供が、どんな子供か、確かめることが、できたからだ…


 だから、ホッとした…


 同時に、マリアも大変だなと、思った…


 自分自身が、現役のモデルであるにも、かかわらず、3歳の娘がいる…


 だから、本当は、四六時中、マリアの近くにいたいに違いない…


 が、


 それができない…


 だから、余計に、愛情深くなる…


 マリアを可愛がる…


 そういうことだろう…


 が、


 それを思うと、一つだけ、バニラにアドバイスしたいことがあった…


 難しいことではない…


 マリアに、必要以上に、小遣いを渡すなと、言いたかったのだ…


 マリアは、まだ3歳だから、いいが、当たり前だが、大きくなる…


 歳を取る…


 すると、中学生ぐらいになると、マリアがお金を持っていると、その金を目当てに、寄って来る、ヤカラができる可能性がある…


 いわゆる、イジメでもないが、要するに、マリアの持つ、金を目当てに取り巻きができるのだ…


 お金がない連中が、マリアを持ち上げて、金を、巻き上げようとしたら、困る…


 マリアに、その気がなくても、ちやほやされれば、ついお金を、ばらまく可能性があるからだ…


 私は、それを恐れるのだ…


 また、なにより、母親のバニラ自身が、マリアに負い目がある…


 負い目とは、マリアと四六時中、いっしょにいて、あげられないからだ…


 世界の、トップモデルのバニラは、世界中を飛び回る…


 だから、娘のマリアを連れてゆくわけには、いかない…


 マリアは、学校に、通わなければ、ならないからだ…


 また、バニラ自身、まだ21歳の若さだから、子供がいると、バレると困る…


 だから、連れてゆけない…


 その負い目から、マリアに甘くなり、大金を渡すようでは、困る…


 マリアの性格を見る限りは、将来的にも、他人にいいように利用されるようには、見えないが、こればかりは、わからない…


 やはりというか、お金持ちは、どうしても、周囲の人間に、利用される危険がある…


 これは、大人になっても、変わらない…


 大人になっても、お金があれば、知人から、変な儲け話を持ち込まれたり、借金を申し込まれたりするのが、後を絶たない…


 常に、相手を利用しようとするヤカラは、どんな時代にも存在するものだ…


 だから、それをさせないためにも、バニラに注意せねば…


 私は、思った…


 バニラ自身は、アメリカのスラム出身で、ハッキリ言って、貧乏人…


 お金に縁のある生活を送ってこなかった…


 だから、お金の大切さが身に染みているはずで、その力もわかっているはずだが、これが、親になると、わからなくなる…


 いわゆる、バカ親になりかねない…


 今、私が、思っていることは、たとえ私が、アドバイスしなくても、十分にわかっているはずだが、それができないというか…


 つい、お金を与えてしまいがちだ…


 お金を与えることが、バニラにとって、マリアへの愛情表現になってしまうのだ…


 そんなことは、おかしいと、わかっていても、マリアに要求されれば、断れないに違いない…


 私は、それを思った…


 私は、まだ子供を産んでいないが、そんな親を見たり、聞いたり、したことは、随分ある…


 代表的なのは、かの豊臣秀吉だろう…


 自分自身は、農民出身で、各地を放浪して、苦労したにも、かかわらず、息子の秀頼は、一切、大阪城の外から一歩も出さないように、厳命したそうだ…


 大阪城の中にいれば、どこよりも、安全だからだ…


 自分自身が、若い時から、各地を放浪して、苦労した経験が、自分自身を、成長させたと、知っているはずにも、かかわらず、息子の秀頼には、一歩も大阪城の外へ、行くことを許さないとは…


 一見、矛盾するが、秀吉は、各地を放浪する危険もまた、誰よりも、承知していたのだろう…


 だから、息子の秀頼には、そのような危険な目には、遭わせたくなかったのだろう…


 いわば、息子の成長を取るか、危険を取るかの選択だ…


 そして、秀吉は、秀頼を溺愛するあまり、成長ではなく、安全を選んだということだ…


 私は、思った…


 そして、当然のことながら、その夜、仕事から帰って来た葉尊と、その話になった…


 「…お姉さん…今朝は、結局、どうなったんですか?…」


 葉尊といっしょに、夕食を取っているときに、葉尊が聞いた…


 「…ファラドと会ったさ…」


 私は、いきなり言った…


 葉尊も、当然のことながら、驚いた様子だった…


 「…ファラドと会った? …お姉さんが?…」


 「…そうさ…」


 「…でも、まだ、ファラドは、来日していないはずじゃ…本物ですか?…」


 「…本物さ…オスマンという子供に仕えている様子だった…」


 「…オスマン?…」


 「…マリアをイジメていると、いった子供さ…」


 「…」


 「…私は、そのオスマンが、どんな子供か、見るために、バニラに頼まれて、見に行ったのさ…」


 「…それで、どんな子供だったんですか?…」


 「…子供ながら、イケメンで、しっかりした子供さ…」


 「…しっかりした子供?…」


 「…そうさ…ファラドが、私に無礼な言葉を浴びせたんで、ファラドを叱ったのさ…」


 「…お姉さんに対して、無礼な言葉? …一体、どんなことを、言われたんですか?…」


 「…私を一目見て、面白いと言ったのさ…初対面でだゾ…普通、そんなことを、言うヤツがいるか? …失礼な男だ…」


 「…それで、そのオスマンは、ファラドを叱ったというわけですか?…」


 「…その通りさ…」


 私が、言うと、葉尊が、考え込んだ様子だった…


 「…どうした? …葉尊?…」


 「…いえ、噂は、本当だったんだなと、思って…」


 「…噂? …どんな噂だ?…」


 「…ファラドには、影武者がいるという噂です…」


 「…影武者だと?…」


 「…ハイ…」


 「…どうしてだ? …どうして、そんなヤツが、必要なんだ?…」


 「…サウジは、今、危険です…」


 「…危険?…どう危険なんだ?…」


 「…政局が安定していないのです…だから、影武者が、必要になる…自分の偽物が、必要になる…下手をすれば、命を落とすかもしれないからです…」


 「…」


 「…サウジは、日本や台湾のような先進国とは、違います…下手をすれば、暗殺されます…だから、ファラドには、影武者が、いるのです…」


 「…」


 「…しかも、それが、何人か、わからない…だから、ひょっとして、お姉さんが、会った人物も、偽者の可能性もある…」


 「…偽者の可能性だと?…」


 「…ですが、オスマン殿下の近くにいるなら、おそらく本物でしょう…」


 「…どうして、本物だとわかる…」


 「…オスマンは、サウジの国王の直系の孫です…だから、護衛もしっかりと、充実しています…その近くにいるということは、とりもなおさず、一番安全なところにいるということだからです…」


 「…」


 「…だから、これで、ファラドが、本物だとわかった…」


 葉尊が意味深に言った…


 実に意味深に言った…


 私は、葉尊が、なぜ、そんなにも、意味深に言ったのか、わからなかった…


 もしや…


 もしや、


 ファラドが、以前、言った、クールを買収する話…


 もしや、あれが、ウソだったのか?


 思ったのだ…


 ウソというか、隠れ蓑というか…


 口実というか…


 とにかく、とっかかりというか、もしや、ファラドが日本に来る口実に過ぎないのでは? と、思ったのだ…


 だから、葉尊に、


 「…葉尊…だったら、ファラドが、以前、クールを狙っているという話は、どうなった? …アレは、ウソだったのか?…」


 と、聞いた…


 「…それは、わかりません…」


 葉尊が、答えた…


 「…わからない? …どうしてだ?…」


 「…クールを買収するメリットは確かにありますし、それを疑うべきか、どうかもわかりません…ただ…」


 「…ただ、なんだ?…」


 「…クールを、買収するという噂を流せば、来日する、目的を得ることができます…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…おそらく、サウジは、オスマン王子を、本国から、より安全な日本に移して、守っていたいのでしょう…日本は、サウジよりも安全です…そして、そのオスマン王子の近くにファラドが身を寄せる…すると、どうですか? ファラドは、もっとも、安全な場所に自分の身を置くことが、できるのです…」


 私は、葉尊の言葉を聞きながら、ファラドが、あのとき、


 「…オスマン殿下の庇護を受けて…」


 と、言ったことを、思い出した…


 そして、それは、こういう意味なのかと、遅まきながら、悟った…


 つまり、ファラドは、自分の身を守るために、オスマンの近くに、身を潜めたわけだ…


 私は、思った…


 しかしながら、ファラドは、そんなことを、しなければ、ならないほど、身が危険なのだろうか?


 私は、考えた…


 「…ファラドは、そんなに身が危険なのか? …」


 ずばり、葉尊に聞いた…


 「…危険でしょう…なにしろ、どんな理由をこじつけようと、自分の国から逃げ出すのですから…」


 「…そうだな…」


 「…サウジは今、改革の真っ最中です…」


 「…改革の真っ最中だと? …どういう意味だ?…」


 「…これは、以前も話したように、アラブ諸国は、いずれ、遅かれ早かれ、石油が枯渇します…ですから、石油が枯渇する前に、手を打たなければ、なりません…」


 「…手? …どんな手だ?…」


 「…具体的には、石油に代わる産業を育成して、それで、国民が、食わなければ、なりません…だから、クールの買収の話も出たのです…」


 「…」

 

 「…すると、当然、争いになります…」


 「…どうして、争いになるんだ?…」


 「…社会を改革するということは、従来の社会の仕組みを変えるということです…だから、たとえば、日本の徳川幕府を例にとれば、わかりますが、武士がなくなります…」


 「…武士がなくなる?…」


 「…そうです…だったら、それまで、武士だった人間は、どうやって、生活していけば、いいのかと、なります…」


 「…」


 「…社会を変革するということは、わかりやすくいうと、そういうことです…そして、今、社会で、いい位置についているもの…いわゆる、既得権を得ている者は、当然、抵抗します…」


 「…抵抗?…」


 「…つまり、社会を変えるなということです…もちろん、彼らだって、社会を変えなければ、ならないことは、わかっています…なぜなら、いずれ、石油はなくなるからです…だから、それに代わる産業を、育てなければ、ならないことは、わかっている…ただ、ファラドが、やろうとしていることは、性急過ぎるから、もっとゆっくりやろうというのです…」


 「…」


 「…もっといえば、今のサウジにあって、いい思いをしている者は、改革が必要だということは、わかっていても、自分が、その改革で、不利益を被っては、困ると、考えます…これは、誰もが、いっしょです…」


 「…ということは、ファラドは、改革派なのか?…」


 「…その通りです…」


 「…だから、守旧派から、命を狙われている…」


 「…」


 「…その通りです…」


 「…だから、ファラドは、オスマンの傍に、身を潜めて、自分の身を守っているわけだ…」


 「…ハイ…」


 話は、なんとなく、わかった…


 が、


 それでも、疑問が残った…


 疑問とは、たとえば、今日のことだ…


 ファラドを守るオスマンが、バニラの娘のマリアをイジメていると、聞いたから、私は、今日の朝、オスマンを見に行った…


 これは、単なる偶然だろうか?


 普通に考えれば、偶然でもなんでもないだろう…


 わざと、私をおびき出したに決まっている…


 この矢田トモコをおびき出したに決まっている…


 そして、あのファラドの言うように、狙いは、私ではない…


 この矢田トモコではない…


 この矢田の背後にいる人間が、狙いに、決まっている…


 狙い=ターゲットに決まっている…


 そして、その狙いは、普通に考えれば、私の夫の葉尊であり、その実父の葉敬だろう…


 台湾の大企業、台北筆頭CEОの葉敬だろう…


 もしかしたら、リンダもバニラも狙われているかもしれんが、それは、言葉は悪いが、刺身のつまぐらいの扱いだろう…


 あくまで、狙いは、台北筆頭であり、クールに違いない…


 私は、思った…


 狙いは、この矢田トモコではない…


 あらためて、思った…


 が、


 なぜか、狙いは、この矢田トモコではないと、いいながら、最初に接触してきたのは、この矢田にだった…


 狙いは、この矢田ではないといいながら、接触してきたのは、この矢田にだった…


 これは、一体、どういうことだ?


 わけが、わからんかった…


 頭に来るべきか、悩むべきか、よくわからんかった…


 よくわからんが、とにかく、この騒動の先頭というか、最前線に、この矢田がいることだけは、わかった(笑)…


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