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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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32/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 32

私は、矢口のお嬢様との電話を終えると、すぐに、リンダに電話した…


 即断即決…


 それが、私だ…


 モタモタとしていることは、性に合わない…


 だから、なにも、考えることなく、リンダに、電話した…


 まあ、リンダのことだ…


 私からの頼みを断ることなど、ないだろう…


 私は、単純に考えた…


 これで、あの矢口のお嬢様に、恩を売れる…


 私は、そう考えながら、電話が、繋がるのを、待った…


 まもなく、電話が繋がった…


 「…リンダか? …私だ…矢田だ…矢田トモコだ…」


 勢い込んで、言った…


 が、


 返って来たのは、


 「…この電話は、ただいま、電波が届かない場所にあるか、電源を切られています…」


 という、メッセージだった…


 私は、呆然とした…


 肩透かしを食った気分だった…


 こんなにも、私が、勢い込んで、リンダに頼もうとしているのにもかかわらず、肝心のリンダが、電話に出んとは?


 思わず、私は天を仰いだ…


 天=天井を仰いだ…


 天は我を見放したか?


 昔、見た八甲田山の映画の有名なセリフを口走った…


 が、


 こんなことに、負ける矢田トモコではない…


 こんなことで、挫ける矢田トモコではない…


 リンダが、ダメなら、もう一人いる…


 私は、すぐさま、そのもう一人に電話をかけた…


 電話は、すぐに繋がった…


 「…ハロー?…」


 生意気にも、英語で、返って来た…


 次に、


 「…どなた?…」


 と、聞いてきた…


 だから、


 「…私だ…矢田だ…矢田トモコだ…」


 と、名乗った…


 すると、なぜか、


 「…なに、お姉さん…こんな時間に?…」


 と、不機嫌そうな声が聞こえてきた…


 「…バカ…バニラ…用事がなければ、オマエなんかに、電話をかけるか?…」


 と、言った…


 すると、バニラが、激怒した…


 「…ちょっと、お姉さん…夜の十時に、いきなり、電話をかけてきて、その言い草はなに?…私にケンカを売っているの?…」


 もっともな言い分だった…


 今は、夜の十時だった…


 考えてみれば、あの矢口のお嬢様は、どうして、こんな真夜中に、電話をかけてきたのだろ?


 今さらながら、思った…


 「…いや…」


 思わず、私も、バニラの剣幕に尻込みしたというか…


 ふと、気付くと、いつのまにか、


 「…す、すまんかった…」


 と、バニラに謝っていた…


 そして、心の中で、あのお嬢様を呪った…


 矢口のお嬢様を呪ったのだ…


 「…一体、なんのよう?…」


 バニラが聞いた…


 だから、私は、ここぞとばかりに、


 「…リンダのことさ…」


 と、言った…


 「…リンダ…ちょっと、お姉さん…どうして、リンダのことを、私に聞くの? …私は、バニラよ…」


 「…そんなことは、わかっているさ…でも、今、電話したら、リンダが、電話に出んのさ…」


 「…ちょっと、だから、私に電話をしたわけ?…」


 「…そうさ…」


 私は、答えた…


 すると、なぜか、


 「…」


 と、沈黙があった…


 全然、声が聞こえて来んかった…


 だから、


 「…どうした? バニラ? …聞こえてるか?…」


 と、私は、聞いてやった…


 すると、


 「…この…バカ…おチビ! なんで、そんなことを、私に聞いてくるの? …私は、リンダのマネージャーでも、なんでもないのよ…」


 と、電話の向こう側から、怒鳴ってきた…


 思わず、私の耳の鼓膜が破れるかと、思うほどの大声だった…


 言われてみれば、当たり前のことだった…


 当たり前のバニラの怒りだった…


 私は、バニラの機嫌を取るべく、


 「…いや、オマエなら、リンダと仲がいいから、なにか、知ってると思ってな…」


 と、下手に出た…


 小声で、下手に出たのだ…


 が、


 バニラの怒りは収まらなかった…


 「…私は、リンダのマネージャーじゃない!…」


 と、激怒した…


 すでに、取り付く島もなかった…


 「…とにかく、こんな時間にかけて来ないで…隣で、娘のマリアも寝ているの?…」


 「…マリアが?…」


 私は、思わず、絶句した…


 あのマリアが、バニラの横で、寝ていたとは?


 す…すまんかった…


 と、思った…


 まだ、3歳のバニラが寝ているのに、夜中に電話をかけて、すまんかったと、思った…


 私は、


 「…すまんかった…」


 と、言って、電話を切ろうとしたところ、


 「…あ、矢田ちゃん…」


 と、突如、電話の向こうから、マリアの声がした…


 「…そうさ…私さ…」


 と、私は、答えた…


 すると、


 「…あっ…矢田ちゃんだ…矢田ちゃんだ…」


 と、嬉しそうなマリアの声が聞こえてきた…


 「…ママ、矢田ちゃんだ…」


 と、バニラに言う声が聞こえてきた…


 「…そうね…」


 バニラの声が、それまでとは、打って変わって、穏やかになった…


 優しくなった…


 これは、ラッキー…


 実に、ラッキーだった…


 私は、思った…


 マリアは、私が好き…


 これで、バニラの態度が変わるからだ…


 「…矢田ちゃん…遊ぼ…遊ぼ…」


 電話の向こう側から、マリアが言ってきた…


 が、


 いくらなんでも、電話の向こう側のマリアと遊ぶのは、無理だった…


 できんかった…


 …一体、どうすれば?…


 悩んでいると、


 「…お姉さん…」


 というバニラの声が聞こえてきた…


 「…なんだ?…」

 

 「…さっきのリンダの件ですが…」


 と、切り出した…


 「…なにか、知っているのか?…」


 「…ハイ…リンダは、ただ、スマホの電源を切っているだけだと、思います…」


 「…なんだと?…一体、どうして、そんな真似を?…」


 「…プロだからです…」


 「…プロ?…」


 「…リンダも29歳…肌の衰えを防ぐため、いつも、しっかりと、睡眠を取ります…そのために、スマホの電源を切っているのだと、思います…」


 「…そうか…」


 私は、言った…


 そう言われれば、わからんでもない…


 リンダも、29歳…


 失礼ながら、もう、若くはない…


 だから、プロとして、しっかりと、睡眠をとって、肌のコンディションを整えてるのだろう…


 そう言われれば、わかる…


 そう説明されれば、わかるのだ…


 「…プロだな…」


 私は、感嘆して、言った…


 「…ハイ…」


 バニラが、さっきまで、激怒していたときとは、一転して、殊勝に、答えた…


 私は、それまでのバニラの態度と、あまりにも、違い過ぎるので、驚いた…


 それもこれも、マリアがいるからだ…


 マリアが、私を好きだからだ…


 だから、マリアのためにも、私と、仲たがいすることは、できない…


 バニラにとって、マリアは、あまりにも、大きな存在だと今さらながら、気付いた…


 マリアという娘の大きさに、気付いた…


 「…矢田ちゃん…遊ぼ…」


 またしても、電話の向こうから、マリアの声が聞こえてきた…


 私は、どうすれば、いいか、わからんかった…


 すると、電話の向こう側で、


 「…矢田ちゃんは、もう遅いから、今夜は寝るそうよ…マリアも寝なさい…」


 と、優しく言う声が聞こえた…


 「…うん…矢田ちゃんが寝るなら、マリアも寝る…矢田ちゃん…おやすみ…」


 「…おやすみ…マリア…」


 私は、返した…


 どうしても、子供相手だと、この矢田トモコも優しくなる…


 無防備になる…


 愛想が良くなる…


 そういうことだ(笑)…


 「…お姉さん…それでは、これで失礼します…」


 バニラが、礼儀正しく、言った…


 だから、私も、礼儀正しく、


 「…バニラ…こんな時間に、突然、電話をかけて、すまんかった…」


 と、詫びた…


 ホントは、こんな時間にかけて、礼儀もなにもあったもんじゃ、なかったが、それは、言わんかった…


 言えば、私に不利になる…


 この矢田トモコに不利になるからだ(笑)…


 「…それでは、失礼します…」


 バニラが丁重に言って、電話が切れた…


 そして、その夜は、それで、終わった…


 

 翌朝になって、私は、早速、リンダに電話をかけた…


 実は、私は、せっかち…


 せっかちな性分だった…


 だから、翌朝、夫の葉尊を会社に送り出すと、すぐに、リンダに電話をかけた…


 一刻も早く、リンダに連絡したかったのだ…


 すぐに、リンダは、電話に出た…


 「…ハイ…」


 「…リンダか?…」


 「…ハイ…そうです…」


 「…私だ…矢田だ…矢田トモコだ…」


 私は勢い込んで言った…


 一刻も早く、リンダに言わないと、まるで、リンダが、どこかに逃げ出すような気がしたのだ…


 「…お…お姉さん?…」


 リンダが、驚いた…


 「…どうしたの? こんな朝早くから…」


 「…どうしたも、こうしたも、ないさ…実は、リンダ…オマエに、頼みがあってな…」


 「…頼み? …どんな?…」


 「…仕事の話さ…ビジネスの話さ…」


 「…ビジネスの話…どうして、お姉さんとビジネスの話を?…」


 リンダが、当たり前のことを、言った…


 だから、


 「…実は、昨夜、矢口のお嬢様から、電話があったのさ…」


 「…矢口のお嬢様? …それ、誰?…」


 「…誰と言われても…日本の激安スーパー、スーパージャパンの社長令嬢さ…」


 「…スーパージャパン? 知らないわ…」


 「…し、知らない?…」


 私は、思わず、絶句した…


 まさか…


 まさか、このリンダが、あのスーパージャパンを知らないとは?


 日本で、有名なスーパージャパンを知らないとは、思わんかった…


 だから、思わず、


 「…あのスーパージャパンだゾ…」


 と、繰り返した…


 が、


 リンダは、


 「…あの、も、この、もないわ…知らないものは、知らない…」


 と、キッパリ、断言した…


 私は、唖然とした…


 そして、同時に、考えた…


 自分自身の間違いに、気付いたのだ…


 あの、矢口のお嬢様が、言うように、自分自身、調子に乗っていたことに、気付いたのだ…


 なぜなら、当たり前だが、このリンダは、ハリウッドのセックス・シンボル…


 日本の事情に疎い…


 それが、たまたま、今、日本にいるだけ…


 ハッキリ言えば、リンダの背後にいるというか…


 リンダが、私の夫、葉尊の実父、葉敬に世話になっているから、その縁で、葉尊のいる、日本にいるだけだ…


 だから、日本の事情に詳しいわけはない…


 なにより、リンダは…リンダ・ヘイワースは、ハリウッドのセックス・シンボルと呼ばれるほどの社会の成功者…


 その成功者が、日本の激安スーパーを知らなくても、おかしくともなんともない…


 当たり前のことだ…


 つまりは、この矢田が悪いのだ…


 夫の葉尊と知り合って以来、縁あって、このリンダやバニラと親しくなった…


 が、


 本当は、このリンダとバニラは、私とは、別世界の人間だった…


 異世界の人間だった…


 リンダとバニラは、世界中に知られた有名人…


 稀に見る成功をした、お金持ちだ…


 ハッキリ言えば、この矢田トモコと、リンダとバニラとでは、通う店も違うし、食べる物も違う…


 おおげさに言えば、この矢田トモコと、皇族をいっしょに、論じるようなもの…


 いかに、仲が良くても、生まれも育ちも違うから、話が通じない部分も、いっぱいあるのだ…


 それを、これまで、すっかり忘れていた(涙)…


 おそらくは、リンダもバニラも、とうに、その事実に気付いていただろうが、私に遠慮して、言わなかったに違いない…


 私に気を使って、言わなかったに違いない…


 私は、その事実に気付いた…


 気付いたのだ…


 「…どうしたの? …お姉さん?…」


 私が、電話口で、黙っているのを、不審に思った、リンダが、聞いてきた…


 私は、いつものように、


 「…なんでもない…なんでもないさ…」


 と、言おうとしたが、やはりというか…


 そんな気力もなかった…


 今さらながら、自分の置かれた状況に気付いた…


 生まれの違いに気付いたのだ…


 だから、つい、


 「…すまんかった…」


 と、詫びた…


 気のせいか、精も根も尽き果てた気分だった…


 世界が、一気に灰色になった気分だった…


 まだ、朝の八時なのに、今日は、すでに、終わったような気分だった…


 「…どうして、お姉さんが、詫びるの?…」


 電話の向こうで、リンダが不思議そうに聞いた…


 だから、私は、一瞬、ホントのことを、言おうかどうか、迷ったが、


 「…リンダ…いや、リンダだけじゃない、バニラもだが、私とオマエたちとの置かれた環境の違いに気付いたのさ…」


 と、力なく言った…


 「…環境の違い? …なに、それ?…」


 「…オマエたちは、成功者だ…私のような庶民とは、違う…それを、これまで、忘れて

いたのさ…」


 「…どうして、お姉さん…いきなり、そんなことを…」


 「…オマエが今、スーパージャパンを知らなかったからさ…」


 「…スーパージャパンを知らなかったから?…」


 「…私なんか、子供の頃から、馴染みの店さ…私は、庶民さ…オマエたちとは、違う…それを思い知ったのさ…」


 私は、力なく、言った…


 「…今まで、私に付き合ってくれて、礼を言うゾ…」


 私が、言うと、


 「…ちょっと、お姉さん…どうしたの? …どうして、そんなに落ち込むの?…」


 と、私を心配した…


 「…まさか…お姉さん?…」


 「…まさか…なんだ?…」


 「…お姉さん…死ぬつもりじゃ…」


 「…な、なんだと、死ぬ? …どうして、私が、死ななきゃ、ならんのだ!…」


 いきなり、私の闘志に火が点いた…


 いや、


 闘志というのは、正確な表現では、ないかもしれん…


 ただ、


 「…死ぬ…」


 と、言われたのが、気に入らんかったのだ…


 「…なんで、私が死ななきゃ、ならんのだ!…」


 私は、怒った…


 すると、電話の向こう側から、


 「…良かった…安心した…」


 という、リンダの声が漏れてきた…


 「…安心しただと?…」


 私が、怒ると、


 「…それこそ、いつものお姉さん…」


 と、リンダが、嬉しがった…


 私が怒ると、なぜか、リンダが、喜んだ…

 

 私は、リンダが、どうして、喜ぶのか、さっぱりわからんかったが、少なくとも、リンダが、機嫌を損ねていないことだけは、わかった…


 だから、もしかしたら、あの矢口のお嬢様と約束した、CMの件も、うまくいくかもしれないと、考えた…


打算した(笑)…


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