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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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110/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 110

「…私の監視だと? …どうしてだ?…どうして、リンダが、私を監視する必要がある?…」


 「…答えは、矢口さんです…」


 「…矢口のお嬢様?…」


 「…お姉さんは、矢口のお嬢様に、頼まれて、AKBの恋するフォーチュンクッキーを、踊りました…ですが、断る可能性も、ゼロでは、ありません…だから、そのときは、お姉さんを、説得すべく、お姉さんの近くに、いたんです…」


 「…」


 「…そして、そのすべてを了承した印と、して、ピンクのベンツに乗りました…」


 「…ピンクのベンツだと?…」


 「…ハイ…」


 …そうか…


 …やはり、そうだったのか?…


 あのピンクのベンツ…


 あのセレブの保育園に、行くときに、ピンクのベンツに乗って、行った…


 アレは、なにかの合図では?


 と、私も、漠然と、思った…


 が、


 なんの合図かは、わからなかった…


 だから、確信が、持てんかった…


 だが、普通に考えて、いかに、セレブの保育園に行くために、他の人間よりも、目立つためとは、いえ、ピンクのベンツに乗る人間は、いない(笑)…


 なにしろ、パレードかなにかで、普通は、お目にかかる色…


 普段、気軽に、乗る人間は、いない…


 普通は、いない…


 だから、それに、乗っていれば、おおげさに、言えば、人間性が、疑われる(爆笑)…


 一体、どんな人間が、乗っているのかと、つい、運転しているドライバーの顔を見たくなる…


 そんな色のクルマだ…


 だから、あのとき、私も、なにか、意味があると、思った…


 が、


 どんな意味があるかは、わからんかった…


 が、


 今の葉問の言葉で、納得した…


 たしかに、私は、あのとき、矢口のお嬢様の指示通りに、動いた…


 壇上に、上がって、AKBの恋するフォーチュンクッキーを、踊った…


 が、


 当然、私が、矢口のお嬢様の提案を拒否する、可能性も、ある…


 だから、もし、拒否すれば、うまく、リンダ=ヤンが、私を説得して、私の背中を押して、壇上に、上がらせて、AKBの恋するフォーチュンクッキーを、踊らせようと、したに違いなかった…


 そのために、リンダは、ヤンの格好をして、私の、近くにいたわけだ…


 と、同時に、気付いた…


 あのとき、リンダが、オスマン殿下の前に、ヤンとして、現れた意味を、だ…


 おそらく、リンダもまた、オスマン殿下を、身近に、見て見たかったに違いない…


 そう考えて、あの場所に、ヤンとして、現れたのではないか?


 ヤン=男装して、現れたのでは、なかったのか?


 おそらく、リンダもまた、オスマン殿下の正体をすでに、知っていたに違いない…


 オスマン殿下が、リンダ・ヘイワースの熱狂的なファンだと、知っていたに違いないからだ…


 そして、おそらく、この葉問は、そんなリンダが、心配だったに違いない…


 この葉問が、リンダをどれほど、好きなのかは、わからない…


 リンダが、この葉問を、心の底から、好きなのは、わかる…


 が、


 この葉問が、リンダを、どれほど、好きなのかは、わからない…


 サッパリ、わからん…


 が、


 嫌いでないことは、わかる…


 これは、なにも、葉問に限らない…


 誰もが、そうだが、自分を好きだと、言ってくれる人間を、嫌いな人間は、いないからだ…


 男女を問わず、異性を問わず、自分を、好きだと、言ってくれる人間を、嫌いな人間は、ほとんど、存在しない…


 それは、例えば、男女の間で、


 …ボクと、付き合って下さい…


 とか、


 …アタシと、結婚して下さい…


 とか、言われれば、困るが、そうでなければ、男女を問わず、自分を好きな人間を、嫌いな人間は、ほとんど、存在しない…


 そういうことだ…


 そして、この葉問もまた、それと同じで、リンダを、嫌いでは、ないと、いうことだ…


 それゆえ、リンダが、心配で、あの場に現れたのだろう…


 例え、あの場に現れることが、葉敬の要請で、渋々、受け入れた結果としても、だ…


 リンダ・ヘイワースの熱狂的なファンとして、知られるオスマン殿下が、もしかしたら、リンダに手を出すのではないか?


 と、心配したに違いないからだ…


 そして、そこまで、考えると、


 「…葉問…オマエも、案外、いいヤツだな…」


 と、言ってやった…


 いわば、褒めてやったのだ…


 突然、そんなことを、言われた、葉問は、当惑した…


 「…エッ? …なんですか? …いきなり?…」


 「…隠すな!…」


 「…隠す? …なにを、です…」


 「…オマエは、あのとき、リンダが、心配だったんだろ?…」


 「…リンダが、心配? …一体、なにを、言ってるんですか?…」


 「…オマエとファラドとの闘いさ…あのとき、オマエが、現れたのは、リンダのためだろ?…」


 「…リンダのため?…」


 「…そうさ…リンダが、オスマン殿下に、なにか、されたら、困ると、思って、リンダを、守るために、あの場にやって来たんだろ?…」


 「…それは、お姉さんの妄想です…」


 「…私の妄想?…」


 「…あのとき、現れたのは、葉敬の指示です…」


 「…お義父さんの指示?…」


 「…葉敬は、ファラドとオスマン殿下の争いの情報を、どこかで、掴み、オスマン殿下を守るために、この葉問を、遣わしたんです…」


 「…」


 「…要するに、オスマン殿下に、恩を売ろうとしていたんです…」


 「…殿下に、恩を?…」


 「…ファラドでは、オスマン殿下に、太刀打ち出来ません…現に…」


 「…現に、なんだ?…」


 「…今回、サウジの国王陛下が、倒れたと、報道され、それを、契機に、サウジの権力構造が、変わるんじゃないかと、世間では、右往左往していますが、アレは、おそらく、フェイクです…」


 「…フェイクだと?…」


 「…アレはファラドに繋がる人間を、あぶり出そうとする、戦略です…」


 「…戦略?…」


 「…サウジ国内のみならず、アラブ世界でも、ファラドに同調するものが、少なからず、います…その人間たちは、皆、現国王になにか、あれば、クーデターを起こして、次の国王に、ファラドを担ごうとしている…」


 「…」


 「…それを、知った国王と、その側近たちは、一計を案じて、ファラドを、オスマン殿下の元に預けたのが、真相です…」


 「…オスマン殿下の元に、預けた…」


 「…つまりは、ファラドを手元に、置いて、見張ったのです…」


 「…見張った?…」


 「…ですが、それに、気付かず、ファラドは、オスマン殿下の追い落としに、ひと役買った…」


 「…ひと役買っただと? と言うことは、ファラドが、主役ではないのか?…」


 「…違います…」


 「…じゃ、主役は、誰だ?…」


 「…現国王の弟です…ですが、弟といっても、腹違い…二十歳は、年下だそうです…」


 「…」


 「…つまり、あのセレブの保育園で、起こったことは、サウジ国内の争いを、あの体育館で、再現しただけです…」


 「…では、ファラドは…ファラドは、どうなった?…」


 「…さあ、知りません…すでに、生きているか、どうかも、わかりません…」


 「…生きているか、どうかも、だと?…」


 「…お姉さん…」


 「…なんだ?…」


 「…勝負というのは、命懸けです…ファラドに、その覚悟があったか、どうかは、わかりませんが、負ければ、最悪、死が待っているんです…」


 「…」


 「…そして、お姉さん…」


 「…なんだ?…」


 「…葉尊が、どうして、お姉さんに、そんな話をしないのか、今一度、よく考えて下さい…」


 「…よく考えてだと?…」


 「…お姉さんは、おおげさに、いえば、太陽です…いつも、明るく、周囲の人間を、元気づけます…」


 「…私は、太陽?…」


 「…だから、そんなお姉さんには、世間のゴタゴタを見せたくない…見れば、太陽が、曇ります…その結果、周囲の人間に、今まで通り、元気を与えることが、できなくなる…」


 「…」


 「…だから、困る…」


 「…困る?…」


 「…お姉さんに、汚いものを、見せないのは、葉敬の意図であり、葉尊の意図でもあります…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…太陽は、曇っては、困るのです…陰っては、困るんです…そのためには、世間の汚いゴタゴタを見せない…おそらく、葉尊と葉敬は、そう考えたに違いありません…」


 「…」


 「…ひとには、与えられた役割が、あります…いや、一部の人間には、明確に、役割が、与えられてます…使命が、与えられてます…」


 「…使命?…」


 「…使命…いわば、ミッションです…」


 「…ミッションだと? …なんだ、それは?…」


 「…例えば、教職に就く教師…彼らの使命は、ものを、教えることです…学校や、塾で、生徒に、勉強を教える…それが、使命です…」


 「…」


 「…ですが、教師が、全員、使命を持って生まれたかと、いうと、そんなことは、ないでしょう…教師の中の一部の人間が、そんな使命を持って、生まれたと、いうのが、真相でしょう…」


 「…」


 「…そして、お姉さん…」


 「…私?…」


 「…お姉さんの役割は、おおげさに、言えば、太陽です…周囲の人間を、明るく、元気に、します…」


 「…明るく、元気だと?…」


 「…誰もが、落ち込んだり、気分が、滅入ったり、するときが、あります…でも、お姉さんを見れば、皆、元気が、出ます…」


 「…私を見れば、元気になるだと? バカか、オマエは?…」


 「…いえ、ボクは、バカじゃ、ありません…すでに、何度も言ったように、リンダやバニラが、仕事がオフのときに、お姉さんといっしょに過ごすのが、その証拠です…」


 たしかに、その言葉は、何度も言われた…


 リンダやバニラは、共に、世界的な有名人…


 ハリウッドのセックス・シンボルと、著名なモデルだ…


 その世界的に有名な二人が、仕事が、オフのときは、この私と過ごす…


 この矢田トモコと、いっしょに、過ごす…


 ハッキリ言って、最初は、私も、驚いた…


 なにしろ、世界的に、著名な女優と、モデルだ…


 私も、警戒したというか、身構えた…


 そもそも、いっしょにいて、どんな話をして、いいのかも、わからんかった…


 だが、


 それは、最初だけ…


 最初だけだった…


 二人とも、中身は、平凡というか…


 別に、変に気疲れしない人間だった…


 だから、最初は、遠慮していた、私だったが、今は、まったく、遠慮しなくなった…


 とりわけ、バニラには、遠慮も、なにも、なかった…


 なぜなら、知れば、知るほど、バニラが、バカであることが、わかったからだ…


 バカ、バニラであることが、わかったからだ…


 バニラは、マリアの母親だし、私の夫、葉尊の実父、葉敬の愛人でも、あるから、少しは、遠慮しようと、思ったが、できんかった…


 なぜなら、バニラは、バカだからだ…


 バカだから、この私に、いつも、歯向かう…


 バカ、バニラ…


 考えれば、考えるほど、頭に来る…


 だから、普段は、極力、バニラのことは、考えんかった…


 考えれば、考えるほど、頭に来るからだ…


 精神衛生上、悪いからだ…


 だから、考えんように、しているのだった…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…お姉さん…今、凄い顔を、してますよ…」


 と、葉問が、言った…


 だから、私は、思わず、


 「…葉問…オマエが、悪いのさ…」


 と、言った…


 「…ボクが、悪い? …どうして、ボクが、悪いんですか?…」


 「…オマエが、今、バニラの名前を出したからさ…」


 「…バニラの名前…ですか?…」


 「…そうさ…あの女の名前を聞くだけで、気分が、悪くなるのさ…」


 「…どうして、気分が、悪くなるんですか?…」


 「…あの女が、私をバカにするからさ…」


 「…お姉さんを、バカに?…」


 「…そうさ…自分は、有名人で、もの凄い美人さ…おまえに、スタイル抜群…私など、全然、歯が立たないさ…だが、それをいいことに、私を下に見て、バカにするのさ…」


 私が、激白すると、葉問は、考え込んだ…


 ジッと、私の目を見て、考え込んだ…


 それから、しばらくして、


 「…きっと、バニラは、お姉さんが、羨ましいんですよ…」


 と、口を開いた…


 「…羨ましい? …どうして、私が、羨ましいんだ?…」


 「…お姉さんが、誰かも、愛されるからです…」

 

 「…誰からも、愛される?…」


 「…バニラは、たしかに、物凄い美人です…でも、その美貌を、他人から、妬まれて、生きてきました…」


 「…他人から、妬まれて? …あのバニラが?…」


 「…そうです…」


 うーむ…


 たしかに、そう言われれば、わかる…


 バニラは、バカだが、美人だからだ…


 バカ、バニラだが、外見は、美人…


 おおげさではなく、美人だ…


 だが、美人だけが、取り柄の女だ…


 他に、取り柄は、なにもない女だ…


 だから、きっと、他人から、その中身のなさを、見破られたに違いなかった…


 私は、そう思った…


 私は、そう信じた…


 「…でも、お姉さんは、違います…」


 「…私が、違う? …どう違うんだ?…」


 「…お姉さんは、バニラに嫉妬しない…いえ、バニラだけでなく、リンダにも、他の優れた人間を、見ても、嫉妬しない…」


 「…当たり前さ…私が、嫉妬して、どうする? …そもそも、生まれ持った能力が、違うんだ…嫉妬しても、仕方がないだろ?…」


 「…それは、お姉さんだからです…」


 「…私だから?…」


 「…学歴でも、ルックスでも、家柄でも、まったく歯が立たない人間が、自分よりも優れた人間に、嫉妬して、その人間に、嫌がらせをする例は、枚挙にいとまがありません…バニラは、そのことを、身に染みて、知っています…」


 「…」


 「…お姉さん、考えて見て、下さい…」


 「…なにを、考えるんだ?…」


 「…バニラの娘のマリアです…」


 「…マリアだと?…」


 「…もし、本当に、バニラが、お姉さんを嫌いなら、娘のマリアを、お姉さんと、いっしょにさせません…誰も、自分が、嫌いな人間の元に、自分が、大事な娘を、預けるバカは、いません…とりわけ、バニラは、マリアを可愛がっているから、なおさらです…」


 「…」


 「…バニラにとって、お姉さんは、心の底から、信頼できる数少ない人間の一人です…」


 葉問が、真顔で言う…


 が、


 私は、それを信じんかった…


 これっぽっちも、信じんかった…


 なぜなら、あのバニラの私に対する態度を見る限り、とても、私を信頼している態度ではなかったからだ…


 だから、


 「…オマエは、ウソつきだな…」


 と、言ってやった…


 「…ウソつき?…」


 「…そうさ…あのバカ、バニラが、私を信頼しているはずがないさ…」


 「…」


 「…オマエ…もしかして、バニラになにか、してもらったのか?…」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…オマエは、葉敬…お義父さんと、仲が悪い…だから、バニラと関係することで、お義父さんに、復讐した気分にでも、なったか?…お義父さんの女を寝取った気分にでも、なったか?…」


 私の言葉に、


 「…話になりませんね…」


 と、葉問は、ため息をついた…


 私と、葉問の会話は、どこまでも、平行線…


 平行線のままだった…


 決して、交わることは、なかった…


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