ドラゴンエイジ
竜狩りショウの放った一閃により、絶対的な威容を誇っていた竜帝ホワイトフレアは、その巨躯を維持できず爆発四散した。白銀の破片が戦場の空を埋め尽くし、光の粉塵となって霧散していく。しかし、剣菱将はその勝利に酔いしれることなく、次なる一手へと意識を加速させた。将は視界の端で戦況を見守る宮内純を捉え、クエスター同士の意思疎通手段であるシャード通信を介して合図を送った。
将が口にしたのは、この世界の根源たる力を呼び覚ます祝詞であった。「神威あれ、大地母神の愛よ。加護をあるべき姿に」。その言葉が空間に溶け込むと同時に、散らばっていた魔力の残滓が磁石に吸い寄せられるように収束を始める。一度は失われたカードたちが、本来の霊的実体を伴ってあるべき姿へと回帰していく。そう、ホワイトフレアも、だ。
だが、その再構築の輝きを、冬巡いつきの執念が塗り替えた。いつきは血を吐くような叫びとともに、禁忌に近い加護を乞い願った。「神威あれ、闇の母の嫉妬よーーこの場にある全てのカードを我が軍門に下らせよ」。いつきの負の感情に応えるように、大気中のマナが黒く澱み、再構築中だったホワイトフレアの霊子構造を侵食していく。白銀の鱗は漆黒へと染まり、清浄な風は腐食の息吹へと変わった。
いつきの願いに従って、全てのカードが共鳴し、戦場は絶望の色に染まっていく。ホワイトフレアーーいや、ブラックフレアとして、体長十メートルの黒いドラゴンが降臨した。その圧倒的な威圧感は周囲の空気を歪ませ、さらに数多の小型のドラゴン二十匹も姿を現し、飢えた獣のように奇声を上げる。
この異常事態に対し、周囲にいた全ての魔術師が即座に動いた。彼らは熟練の手際で強力な結界を幾重にも張り巡らせた。それは、この人知を超えた激突を一般人の目から隠し、同時に世界そのものを崩壊から守るための防壁であった。内側で荒れ狂う魔力の奔流は、結界によって辛うじて封じ込められた。
将の仲間である藤拓人が、前線へと歩み出る。「今、デカイのを行くぞ」。拓人はそう宣言すると、周囲に漂うマナを強引に引き寄せる大規模な魔術の詠唱を開始した。古代の秘術を基盤とする彼の術式は、完成までに膨大な手間がかかるという欠点がある。しかし、その先に待ち受けるのは、あらゆる防壁を粉砕する絶大な破壊力であった。拓人の周囲でマナが昂り、大気が激しく震動し始める。
拓人が詠唱に集中できるよう、古藤三平が援護に回った。「大丈夫、手は打つぜ」。三平は自身の加護を切り、戦局を有利に進めるための策を講じた。「神威あれーー美神の瞳よ」。この加護により、自身の行動速度を極限まで引き上げる。一手早く動かし、敵の隙を突くのが三平の狙いであった。
しかし、いつきも容易には隙を見せない。三平が動こうとすれば、いつきは「神威あれーー魔術神の智よ」と唱え、その加護を無効化しようと試みる。だが拓人も負けじと同じ「魔術神の智」の加護をぶつけ、概念的な優位性を維持し続けた。
ついに拓人の詠唱が臨界点に達する。「風よ光よーーストームブレイド・プラス・鬼火。顕現せよ我が最大出力、オプチカル・タイフーン! 神威あれ、死神の鎌よ、全ての敵を滅せ」。拓人の叫びとともに、戦場に巨大な光の螺旋が七本立ち上がった。それは荒れ狂う嵐のごとき破壊の渦となり、いつきと全てのドラゴンを飲み込んでいく。
だが、ドラゴンたちはただの召喚物ではなかった。彼らは互いの体を盾にして庇い合い、光の刃にさらされながらも強靭な生命力を示した。七本の螺旋が通り過ぎた後、半数のドラゴンは光の中に消えたが、残りの半数は無傷で戦場に留まっていた。そして、ブラックフレアが主であるいつきをかばうように立ちはだかった。
拓人の必殺の魔術を受け止めながらも、いつきは冷酷に加護を返した。タケミカズチの加護によるダメージの反射。防ぎきれぬ衝撃が拓人を襲い、たまらず彼はブレイク状態へと追い込まれる。




