片道切符の進化
「……聞かなかったことにしておくか。事実を知りすぎると、カードを引く手が震えちまうからな」
古藤三平が、いつもの飄々とした態度で場を和ませるように笑った。彼は迷うことなく、自身のアルシャード「ムイーミ」を差し出した。それは緑色の輝きを放つ四面体——パッと見は小さなピラミッドのような形状をしている。
三平がそれをワッフルメーカーの型の中に配置すると、オリハルコン製の重厚な鉄塊がゆっくりと閉じられた。本来、アルシャードは不壊不変のエネルギー体であるはずだが、レリクスに挟み込まれた瞬間、まるで物理的な圧力に負けたかのように、その強固な輝きが内部の結界へと収納されていく。
「ひとつ、重要な説明を忘れていました」
ガイドが指を立てる。
「加護を『タイプX』という特殊なカード形式に変換した場合、そのシャードに宿っていた本来の『加護』は、誰かが再び『ガイアの加護』を行使してシステムを上書きするまで、二度と使えなくなります。つまり、汎用性を捨てて固有の力を得る……片道切符の進化というわけです」
その言葉に、一同の間に緊張が走った。
「アルシャードならいざ知らず、冬巡いつきなら加護を使いこなせるでしょうが、僕たちは……」
純は葛藤の末、自分のアルシャード「ネージ」を懐に収めた。彼は今のままの、多様な可能性を持つ加護を保持する道を選んだのだ。結局、純だけはタイプXの製造を見送ることになった。
一方で、オリハルコンの鉄塊からは、じわじわと甘いような、あるいは焦げ付くような魔力の匂いが漂い始めていた。五分という時間は、運命を決めるにはあまりに短く、そして長く感じられた。
「さあ、焼き上がりましたよ」
ガイドの声とともに、レリクスが展開される。そこにあったのは、もはや鉱石でもエネルギー体でもない、鈍い光を放つ数枚のカードだった。




