鏡は横にひび割れて
戦いの火蓋は切って落とされた。殺気を隠そうともせず、ニセ将はまがい物の破魔の公女を流れるような動作で展開する。しかし、本物の剣菱将の反応はそれを上回っていた。彼はニセ物よりもわずかに早く、その手にある巨剣の切っ先を敵へと擬していたのである。
傍らでは、古藤三平とニセ三平が対峙していた。互いに熟練の手つきで錬金弾を錬金小太刀へと装填し合う。その金属音までもが同期しているかのように響く。一方、宮内純とニセ純はお互いに豪奢なドレスに身を包み、大気を震わせるほどの闘気を高め合っていた。
後方では、藤拓人とニセ拓人が両手を大きく広げ、複雑な詠唱とともに魔力を制御し合う。周囲の空間が、彼らから放出される膨大な魔力によって歪み始めていた。
剣菱将が素早く指先で九字を切る。オリジナルである彼の方が、一瞬早く神の加護を願った。
「神威あれ、不動明王の炎よ!」
彼の持つ破魔の公女の切っ先から、猛烈な勢いで三つの炎が飛び出した。それはニセ拓人を除く三人の敵を正確に包み込む。かつて救世主として目覚める以前の彼が放っていたものとは、比較にならないほどの熱量と破壊力を秘めた劫火であった。
「純、三平、まずは向こうの回復役を潰せ! トールだ!」
剣菱将の鋭い指示が飛ぶ。
「神威あれ――」
それに対し、ニセ拓人が大神オーディンの力を借りて、迫りくるアカラナータの炎を打ち消そうと試みる。回復役から先に仕留める、それは戦いにおける鉄則であり、定石である。そしてその定石は、自分自身のコピーである彼らにとっても、当然ながら熟知している戦略であった。
黄金の炎がニセ三平を呑み込もうとした瞬間、ニセ純の持つシャードが眩い光を放った。それは彼女が呼び出した加護、イドゥンの力である。あらゆる負傷を瞬時に打ち消す生命のリンゴが、ニセ三平のダメージを無効化していく。
激しい攻防の直後、今度はニセ将による反撃のアカラナータが放たれた。オリジナルの攻撃とは異なり、その炎は三つに分散することはなかった。しかし、それはオリジナル四人全員を一度に巻き込む広範囲の一撃として迫る。
藤拓人は瞬時に判断を下し、トール二発とヘル一発の加護を重ねて防壁を築いた。炎の衝撃が彼らを襲うが、誰一人としてブレイクに陥ることはなく、膝を屈するものもいなかった。
この一瞬の隙を突き、宮内純とニセ拓人の間で、オーディンとアテナの加護が激しく撃ち合わされる。二つの強大な神威は空中で正面から衝突し、激しい衝撃波を撒き散らしながら相殺された。




