陽炎の戦場
緊張感が、対立する二つの巨大組織の間に漂っていた。救世主として覚醒した剣菱将の圧倒的な助力。その破格の条件と引き換えに、彼ら四名のサクセサーのためにオリジナルのタイプXを新造する。重い取引が、FC社とサジッタ社の間で極秘裏に交わされたのである。
舞台となる七瀬市を巡る情勢は、表面的には静まり返っているように見えた。しかし、ガイアと、シャドウガイアの相剋は、出口の見えない停滞の泥沼に沈んでいた。均衡が生み出す独特の緊張感を孕みながらも、どこか弛緩しきった現在の情況。この閉塞感を打破したいという願いは、敵対するどちらの社においても共通した切実な望みであった。
事態は急速に動き出す。トップ同士の会談は、わずか半日という異例の速さで妥結に至った。だが、技術スタッフたちの動きはそれよりもさらに早かった。彼らは会談の行方を予見していたかのように、タイプXを作り出すための遺物の起動準備を既に完了させていたのである。
そう、オリジナルのタイプXとは、人の手のみによって組み上げられる工業製品ではない。それは古代の英知であるレリクスによって鋳造されるものなのだ。レリクスは候補者に過酷な試練を与え、その試練を乗り越えた勝者のみが、自らの魂の器たるタイプXを手にすることを許される。
提示された試練の内容は、極めて単純でありながら、最も残酷なものだった。それは、自らの写し、すなわち鏡合わせの自分自身との死闘である。
表向きは碧林寮で謹慎中という扱いにされている剣菱将と、その仲間たち。熱き闘志を秘めた宮内純、冷静沈着な魔術師の藤拓人、そして技巧派の古藤三平。彼ら四人がサジッタ社の超高層ビルの最上階に足を踏み入れた瞬間、世界は一変した。
そこはもはや人工的な建築物の中ではなかった。眼前に広がっていたのは、見渡す限りの乾いたサバンナである。あろうことか、本来あるはずのない蒼穹と大地が遠くで交わり、完璧な地平線を描き出していた。
吹き抜ける乾いた風が、草の匂いを運んでくる。その広大な景色の中、蒼穹の果てから五つの人影がこちらへと歩み寄ってくるのが見えた。ひとりは研究スタッフと思われる白衣の男。そして残りの四人は、紛れもなく剣菱将たちの姿をしていた。
「この空間は、別のレリクスを用いて構築した仮想現実だ。これが君たちに相応しい試練だと、ウチの演算システムが最終的な答えを弾き出した。……さあ、試練を始めよう!」
白衣の男の声が響き渡ると同時に、ニセ物たちは一斉に散開し、戦闘態勢へと移行した。




