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明日のXは君だ!

「お困りの様ですわね」

静寂に包まれていた男子寮、碧林寮の談話室に、場違いなほど優雅で、それでいて全てを包み込むような抱擁力を湛えた女性の声が響いた。それは鼓膜を震わせる物理的な振動というよりは、直接意識の深淵へと染み渡るような、神聖な響きを帯びていた。

「この声はミネルバはんやで」

驚きに目を見開いた宮内純ミヤウチジュンが、震える指先で窓際を指し示す。そこには、月光を反射して白銀に輝く一羽のふくろうが、威風堂々と佇んでいた。FC社の誇る超高度演算システム「大御霊の理(GSQ)」の中核を成す生体遺物レリクス——知恵の女神の名を冠する存在、ミネルバその人であった。

「話は聞きましたわ。微力ながら、皆様のお力添えをさせていただきます」

ふくろうが瞬きをするたび、知性の光が空間に霧散する。その神秘的な光景に、重苦しかった談話室の空気は一変した。

「女神様、降臨だ……!」

古藤三平コトウサンペイが、抑えきれない興奮を声に乗せて叫ぶ。絶望の淵に立たされていた彼らにとって、彼女の登場はまさに暗雲を切り裂く一筋の光明に他ならなかった。しかし、現実主義者である藤拓人フジタクトは、逸る心を抑えるように眼鏡のブリッジを押し上げ、冷静な、しかしどこか切実な眼差しをミネルバへと向けた。

「ミネルバさんですか……。単刀直入に伺いますが、具体的な策はあるのでしょうか? 我らの命運を託さねばならないこの男、剣菱将は……確率論が裸足で逃げ出し、数学的帰結すら歪めてしまうほど、徹底的に運に見放されているのです」

拓人の言葉には、友人への信頼と、それ以上に深い絶望が混ざり合っていた。これまでの戦いで、将がいかに「ありえない不運」を叩き出してきたか。その積み重ねが、拓人の声を重く、鋭くさせていた。

「おい、ありえない、は余計だろ!」

剣菱将ケンビシショウは、図星を指された気恥ずかしさと、自分自身の不甲斐なさへの苛立ちを隠すことなく反駁した。その拳は固く握りしめられ、悔しさに震えている。

「勝つ策は実際あるんだよな? 精神論や奇跡を待つような話じゃない、確実な勝機が……」

将の問いかけに、傍らで静観していた者が冷ややかな、だがどこか楽しげな声を添える。

「なければ作ればイイでしょ」

「自作タイプXか。あれは、あまりに規律を逸脱しているようで、個人的には好かないのだがな」

拓人が苦々しく顔を歪める。サジッタ社が稀にクエスターに対して行う、おふぃで使用可能な、独自設計の「タイプX」の創造。それは世界の法則に干渉する禁じ手に近く、目の玉が飛び出るほどの対価を要求される。継承者サクセサー救世主セイヴァーという肩書きがあれば、世界の危機を盾に「貸し」として処理できるかもしれないが、それでも代償の重さは計り知れない。

皆の視線が、解答を求めて白いふくろうへと集中する。沈黙が談話室を支配する中、ミネルバは器用に翼を広げ、優雅に、そして力強くそれを振った。

ーーいいえ、そのような既存の枠組みに頼る必要はありませんわ。

彼女の声に、決然とした意志が宿る。

ーーここにいる全員の想い、そのアルシャードに宿る「加護」を抽出し、形に……そう、カードにするのです。

ミネルバは、こともなげに、重大な提案をさらりと言ってのけた。それは、ただの装備の自作などではない。彼ら自身の存在そのものを賭け金として、運命という名の盤面を塗り替えるための、究極の「デッキ」の創造を意味していた。

彼女の瞳に宿る銀色の光が、若者たちの驚愕と困惑、そして微かな希望を静かに見つめていた。



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