機械じかけの明日
長い取り調べが一段落し、将は取調室の片隅で用意されたカツ丼を口に運んでいた。空腹は満たされても、心にこびりついた疲労は拭えない。そこへ、分厚い鉄扉が開く音が響いた。
「剣菱くんだね、初めまして」
穏やかながら、空間を支配するような存在感を放つ人物が現れた。ブラックロータス枢機卿。FC社の支柱であり、政治の実権をも握る最高幹部の一人だ。
「去年お会いしたばかりですが、枢機卿さまは忙しいのですから。忘れておられても仕方がありません」
将の言葉に皮肉はない。ただ、記憶の齟齬を事実として指摘しただけだった。しかし、枢機卿は組んだ両手にあごを載せ、わずかに目を細めた。
「私は君に会った事は本当にないのだよ。君の父ぎみの葬儀には立ち会ったのだがね」
その言葉に、将は箸を止めた。自分が見た去年の枢機卿は何だったのか。だが、枢機卿は将の困惑を待つことなく、本題を切り出した。
「君にお願いと依頼がひとつずつあるんだ」
「……じゃあ、お願いから聞きます」
「高校か大学を卒業したら、君に父ぎみの職責を継いで欲しい。FC社直属の武装聖人のひとりとしてね。ちなみに君の仲間である古藤くんは、同じ条件をふたつ返事で請け負ってくれたよ」
将は、先ほど自分を調べた男の異形を思い出した。
「……おれの左腕も、あのミイラにするのかい?」
ブラックロータスは、少しだけ苦笑に似た表情を見せた。
「ヒュー・マクティの左腕か。あれはディードリッヒ大司教が元々隻腕だったので、あの遺物を接続したのだよ。あれを継ぐ必要はないが、あの腕がもたらす力は絶大だ。加護を使わなければ、対象は虚言を吐けなくなる。真実を暴くための遺物なのだ」
饒舌に語る枢機卿に対し、将は再びカツ丼を一口咀嚼し、短い言葉を返した。
「考えさせてください」
父の歩んだ道。聖人という名の重圧。そして、真実を強制される左腕。地下施設での騒乱が終わっても、将を取り巻く運命の歯車は、より冷酷に回り始めていた。




