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帰還
剣菱将と、宮内純が、再突入した霧の中は、先ほどよりも密度を増し、重粘な闇へと変貌していた。カワサキのヘッドライトが照らすのは、物理法則を無視して蠢く「奈落」の断片のみ。将は視覚を捨て、シャードのの共鳴だけを頼りにスロットルを回し続けた。
「将、右や! 何か来る!」
純の叫びと同時に、霧の中から巨大な異形の影が飛び出してきた。将は車体を極限まで倒し、公園の赤土を削りながらこれを回避する。速度を落とせば、即座に霧に呑まれ、バイクごと攻撃される。システムの「作戦続行」という冷徹な命令は、素直に取れば、この絶望的な突進こそが唯一の生存ルートであることを示していた。
「加護は切らない、ふたりで風になるぞ!」
そのまま、転進。
死線という結界の中を駆け抜けること数分。突如、視界が弾けるように開けた。
そこは公園の掃討ずみの外縁部であった。
「帰ってきた……」




