ヘラクレスじゃないんだよ
紫色の吐息が吐き出された。吐息を吐き出す口は十二本。肥大化した大蛇だ。首の数は元は十六本であった。魔力の偏りと悠久の時間が、一匹の蛇を奈落のクリーチャーへと変じさせたのだ。
吐息は邪毒。内側から四人を蝕む。
中央公園の結界の中、「年末年始大埋葬」と名打たれた大清掃業務。剣菱将とその仲間たちは、ひとつの戦闘単位に組み込まれていた。
ビギナーのクエスターで戦線を構築して全体を削り、高位のクエスターや、井上廉のようなサクセサーで難敵を中央突破する。これがメタ・レリクス・コンピュータ『GSQ』が導き出した、FC社の戦闘ドクトリンだ。
言いたいことは分かるが、清掃中に行方不明となったビギナーたちを捜索しに出かけた先、巨大クリーチャー、仮称『奈落ヒドラ』を前に、藤拓人は厳しい表情で言った。
「すまない。火属性の魔法がない」
半神半人の英雄ヘラクレスは、十二の試練におけるヒドラ退治で、ヒドラの頭を叩き潰し、再生する前に松明で傷を焼いたという。その神話を踏襲した作戦は無理、という作戦続行不可能の宣言だ。
古藤三平は笑って言った。
「おれも無いけど、心配すんな」
宮内純は慌てる。
「じゃあ、加護頼りか」
翻訳すれば、「ぼくも持っていない」ということだ。そして、「神の力ならどうにか出来たらいいな」という切実な願望でもある。
そして四人は善戦した。彼らの戦闘は瞬間火力優先である。
将は巨剣『破魔の女公』で、チカラ任せに対処する。純は懐に飛び込み、ルーンナックルで暴力的に将を助ける。一方、拓人はエアブレイドとエアブレイドの合成魔法で、まとめて首を削った。三平も錬金小太刀を全開にし、消耗品の錬金弾を採算度外視で乱発した。
彼らはシャードの力を借り、毒を振りほどき、二本の脚で立ち続けた。
純は初めての全開戦闘に、肩を大きく上下させ、荒い息を吐く。
だが、奈落ヒドラは倒れない。正確には最後の頭が、もたげられているのだ。
「拓人、ヘラクレスは首を全部斬ったのか?」
三平が問う。
「最後の首は不死身だったので、岩の下に埋めた」
「手頃な岩は、ないな」と、将がボヤいた。
「死ぬまで殴れば、みんな死ぬよね?」
純の問いに、将は首を横に振る。
「退くぞ。消耗しても意味が無い。火属性が必要というのは大事な情報だ。――神威あれ、大地母神の愛よ、ヘルモード神の脚を我らに」
一瞬意識が暗転するが、無事に一同は中央公園前の対策室テントの前に戻った。
「火属性の使えるメンツを集めてくれ」
拓人は緊張の糸が切れ、その場に倒れ伏した。
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