【1夜目】 瑠女雄と別好。不思議な出会い。
カポーン……。
そんな音が聞こえてきそうな中。
三度の飯より風呂好きな俺、瑠女雄。
今日もいつもと変わらず、自宅の風呂場でゆっくり湯船に浸かって、くつろいでいた。
──ガラッッ!
突如、風呂場と脱衣所を隔てる扉か開いた。
(な、なんだ?! 泥棒? 変質者!?)
すると、扉の間から、キャイキャイ言いながら、見知らぬ女性4人組が入ってくる。
見た目から判断すると、OL風の女性に、女子高生、女子中学生、女子小学生と思しき4人組。
全員が我が家の広い浴室の洗い場に、すっぽりとおさまる。
女子小学生らしき少女が、手に持っていたマンボウのおもちゃを浴槽に浮かべた。
ササッと汗を流して4人で湯船につかる。
この家の浴槽は広く、5人同時に入ってもまだまだ余裕だ。
「今日は営業の外回り、暑くてたいへんだったわー!
みんなはどうだった?
情、別好、絵美」
腰まである長い黒髪と、豊満な胸が特徴の女性が、皆に訊ねる。
「聞いてよ、芽玖姉!
こんな暑い日に、華の高2女子である情たちに、校内マラソンさせるのよ!
熱中症になったらどうするのよっ」
情と名乗る女子が、平らな胸に手を当てて嘆く。ショートカットの黒髪から水が滴る。
「絵美のクラスはプールだったんだけど、もう小6なのに、着替えが男子と一緒なのよ!
女子は当然タオルで隠してるけど、男子がふざけて裸で騒いでて、ホントにサイテーっ!」
絵美という小6女子は、年齢に似合わぬ巨乳を張り、肩先くらいまである黒髪を揺らして怒りを露わにしている。
残るは別好という銀髪の少女。
ショートカットの綺麗な銀髪を俯かせたままの彼女は、
「……………」
と、マンボウのおもちゃを胸に抱えて、静かに黙っていた。
「──別好の中学は、去年ちょうど入学した時に大改修して、全教室エアコン完備になったのよね。
あたしが通ってた時にやってほしかったわ」
情が、別好の抱えるマンボウのおもちゃを手に取り、そのまま胸に抱く。
「ねえ、マンボウくん、抱くとひんやりして気持ちいいのよ。暑いマラソンを終えたあとは、これに限るわ」
どうやら、マンボウのおもちゃは、マンボウくんという名前らしい。
芽玖が情からマンボウくんを受け取り、胸に抱く。
「あら、ほんと」
「芽玖姉、あたしにもー!」
絵美が、芽玖から受け取ると、同じく胸に抱きしめた。
「ヒヤヒヤだー」
男の俺がいるのに、彼女たちは俺の存在に気付いていないかのように、おしゃべりに興じている。
──そんな様子を眺めていると、別好がこちらを見ているのに気付いた。
「………………」
だが、話し掛けてくることはなかった。
「じゃあ、そろそろ出よっか」
マンボウくんを片手に芽玖が立ち上がる。
「宿題しなきゃー」
「水着洗わないと」
口々に言い、芽玖、情、絵美が浴室から出ていく。
別好だけが俺と2人、湯船に取り残された。
(どうしたんだろう……)
別好のほうを見る。
すると──不意に別好が俺のほうへ近付いてきた。
思わず身構える俺。
(な、なんだ……?)
別好の体がふらつく。
……湯あたりか?
ぽすり、と別好が俺にしなだれかかった。
「……………」
静かに俺の体へ身を委ねてくる別好。
しばらく黙ってそのままにしていたが、これでは埒が明かない。
「……なあ、えーっと、別好べすさん……、だったか? そろそろ離れてくれないか……??」
俺が言うと、別好がそろそろと離れていく。
「……ありがとう。俺は、瑠女雄だ。
なんで俺んちの風呂に、突然君たちが入ってきたんだ……?」
「……不動産会社のミスで、誰も住んでないと思って、貸しに出されたみたい……?」
別好は少し考えながら答えた。
(そんな漫画みたいなこと、本当にあんのかよ——)
「──それにしても、みんな、俺が入ってるのに、誰も気にしてないみたいだったぞ……?
下手したら、俺が逆に通報されてたぞ」
「みんな、大らかな性格だから」
(そういう問題じゃない気がするが……。
──というか、
情とか絵美とか、キレてなかったか?)
別好は視線を斜めに向け、青みがかった銀髪を撫でる。
「……瑠女雄」
別好が俺の名を呼ぶ。
「なんだ……?」
「お願いがある」
「え、お願い……? なんだ?
できることなら聞くぞ」
俺は訝しみつつも答える。
「──みんながお風呂から出たあと、あたしと相風呂してほしい」
「一緒に風呂に入ればいいのか……?」
「駄目……?」
──悲しそうな表情を浮かべる。
「……そんなことはない。
別好が嫌じゃないなら、お安い御用だよ」
「──ありがとう」
うっすら微笑んだように見えた彼女の顔。
俺はそんな別好の願いを、快く引き受けるのだった。




