12「芳樹と彰一」
彰一「この扉は??」
芳樹「ピンク色なんてどこ◯◯ドアじゃあるまいし……」
2人は探検隊と称して、ある島にやってきていた。
彰一「とにかく開けてみるか」
芳樹「なんか怖いなあ。でも、ワクワクもするなあ」
いきなり遭遇した今まで見たことないピンクの扉。
どこに繋がっているのだろうか。
2人の好奇心は頂点に達していた。
バン!!!!
「えっ??わああああああああ……」
2人は扉の中へと掃除機に吸い込まれるようにして消えた。
異空間のトンネルのようなものを進んでいった2人。
10秒くらいで出口が見えた。
異空間は宇宙みたいだった。
ただ、宇宙のように漆黒の空間ではなかった。
紫の空間に星のような円形の光がたくさん見えて美しかったが、あまりに現実離れした出来事に驚きが先に来て、景色を楽しんでいる余裕はなかった。
彰一「死ぬかと思ったーーーー。何が起きたんだ……扉が急に開いたぞ??」
芳樹「あり得ないよ。扉に吸い込まれるとか。多分、これ
は夢だよ。俺たちは夢を見ているんだ。」
彰一「でも、意識も痛覚もはっきりしている。夢とはとても
思えない」
芳樹「もしかしたら出会ってはいけない扉だったのかな??」
彰一「こんな経験は人生でもそうそうないだろうぜ。せっかく探検隊としてはこの未知なる冒険のチャンスを無駄にしたくない!! 僕は先に進むぜ」
芳樹「あまり動き回ると帰れなくなってしまうかもよ。そ
れだけがすごい不安。でも、見た感じここには建物がたくさ
んあるし、人もたくさん歩いているし、多分、大丈夫だよ。あのベンチで座っている老人にここがどこなのか聞いてみよう」
2人はベンチに座る老人に話しかけてみた。
芳樹「すいませーん!! ちょっとお聞きしたいことが」
老人「どうしたのじゃ??」
彰一「よかった。日本語通じるね。てっきり外国みた
いな街並みだから英語とかじゃないと通じないとか考えちゃ
ったよ」
芳樹「今、俺たちがいるこの場所はどこなんですか??」
老人「ここは火星じゃよ」
彰一「はあ??」
老人「ちょっと手首を見せてくれ。うーん。生命データによると君たちは地球から来たんだな。それも日本から」
芳樹「生命データってなんですか?? 手首見ただけで何が分かるんですか??」
老人「このサングラスは生命データを見ることができるんだ。君らには見えなくても、私には全て見えているぞ」
芳樹「火星にこんな人や建物が存在してるはずないよ」
老人「火星の霊界だ。霊界とはつまり、幽霊たちの世界だ」
彰一「てことは、あなたは幽霊なの??」
老人「わかっている。君たちはある扉から来たんだろ??ピンク色の……」
彰一「なんで知ってるの?? 探検していたらその扉を見つけて、ワクワクして開けてしまったんだ。そしたら、その扉の中に無理やり吸い込まれたんだ」
芳樹「俺たち帰れるの?? 帰り道が分からなくて出口が見当たらないんだ」
老人「あの扉は私が作ったんだ。安心したまえ。私はあの扉の開発者。私がこの火星に連れてきたい人にだけ、その扉が現れるんだ」
彰一「どういうことだよ。それじゃあ、あなたが僕たちをこ
こに連れてきたの?? ピンクの扉を僕達の前に出現させて……」
老人「君たちはショパン国際ピアノコンクールに出場す
るらしいじゃないか。嬉しいね。私の名を冠したコンクール
が我が故郷の地球でこんなに有名になっているなんてね」
芳樹「まさか……あなたはショパンですか??」
彰一「そんなわけないだろう。急に何を言い出すんだよ?? ショパンがこんな火星にいるわけない。いたとしてもこんなおじさんみたいな風貌しているわけがない」
芳樹「でも、さっきおじさんがショパンコンクールを『私の名前を冠したコンクール』って……」
老人「2人がどうしてもショパンに会いたがっているってことで、その願いを叶えてやろうと思ってな。この火星に招待したんだよ」
芳樹「そんなことより答えてください。あなたがあのフレデ
リック・フランソワ・ショパンですか??」
おじさんは突如、ショパンの姿に変身した。
ショパン「こんにちは。芳樹君。私は正真正銘、本物のショ
パンですよ」
芳樹「ああああああ!! ショパン?? あなたが??」
ショパンは芳樹と力強く握手した。
芳樹「本物のショパンに会えるなんて信じられない!! お前も喜んだらどうだ?? 嬉しいだろ??」
彰一「騙されやすいにも程が……僕は騙されないぞ。あなたがショパンだってどうしても信じられない。証拠だってないし。そりゃ、僕だってショパンには会いたいし。でも、どうしても信じられない」
ショパン「実は私の一番の目的は彰一君に会うためだった
んですよ。芳樹君というより、あなたにね」
彰一「なんで僕に会いたかったの??」
ショパン「彰一君はいずれ世界一のピアニストになります。
ショパンコンクールで優勝してね」
彰一「意味が分からないな。未来のことは誰にも分からないはずだよ。それに僕はショパンコンクールで優勝できるはずない。全然才能ないし」
ショパン「彰一君はある日、突然、ピアノがとても上達します。今は信じられなくても、人は突然、コツを掴み、大きく成長することがあるのです。芳樹君とは比べ物にならないくらいの世界最高のピアニストになるのです」
芳樹「ねえ、ショパンさん。彰一ばかり気にしててずる
いよ」
ショパン「仕方ないです。彰一君はいずれ、世界最大のピア
ニストになる。しかし、あなたは世界最高にまではなれませんから。才能はあるけど日本有数が関の山ですから興味がないんです」
芳樹はかなりショックを受けた。
彰一「そんな話信じられるわけない。やっぱり、僕はただの
才能の無いピアニストだよ。未来を予知できるわけないじゃ
ないか。あなた、本当は何者なんだ??」
ショパン「いいえ、未来はある程度決まっています。そして、彰一君は私に会ったことにより自信がついて、ピアノへの愛が深まり、才能が磨かれてゆきます。私は彰一君を世界最高のピアニストにさせるためにわざわざこうして会う機会を作りました」
彰一「未来は決まってる?? なんで分かるの??」
ショパン「霊界に本格的にくれば分かりますよ」
芳樹「彰ーばかり優遇していて嫌だなあ。ショパンには失望したよ」
ショパン「さあ、彰一君。私が直にピアノを生演奏してあげ
よう。そして、レッスンもしてあげる。芳樹君は帰ってよろ
しい。髪の毛を一本抜くと帰れるよ」
すると大柄の男が近づいてきた。その顔はラフマニノフそっ
くりというより本人だった。
ラフマニノフ「芳樹君は俺が面倒みる。ショパンコンクールでどっちが優勝させられるか勝負だ!! ショパン!!」
芳樹「えっ?? 今度はラフマニノフ?? あのラフマニノフが俺のことを??」
こうしてショパンとラフマニノフは互いに地球の生徒、芳樹と彰一を抱え、どちらがショパンコンクールで優勝させ
られるか、いい成績を残せるかを競い合うことになる。
ラフマニノフ「大丈夫だ!! 芳樹。未来は変えられる。俺が未来を変えてやるから!! 俺がついてるから!! 未来は常に刻一刻と変化している。俺がお前を彰一をも超えるピアニストに育て上げればいいだけだ。難しいことに挑戦したほうが面白いからな。私は今、燃えているよ。不可能を可能にしていくことをな」
芳樹「ラフマニノフさん!! 本当にありがとう」
芳樹はラフマニノフの胸に飛びついた!!
ある日、いきなりコツをつかみ天才になるという彰一。
秀才の芳樹。
2人はいずれショパンコンクールで良きライバルとなる。