「ポロネーズ第21番 ピンクの男」
僕は一心不乱に集中してピアノにかじりついていた。
時たま、手を休め、ピアノの音が鳴らなくなったタイミングを見計らって、サポート役の人が水分補給のための飲み物が入った500ミリリットルのペットボトルをピアノ練習部屋に入り、ピアノのいつも決められた位置に置いてくれる。
僕はそのペットボトルを感覚で位置を悟り、正確に無駄な動きなく取った。
「ゴクッゴクッゴクッ」
ペットボトルの水を半分くらい飲み干した。手で持った時の重みから、大体、残りの量が分かる。
もう2時間が経った。
今日のコンサートではショパンのポロネーズ第21番「ピンクの男」を演奏する。
ショパンが霊界で作曲した傑作だ。
世間では僕の新作演奏会という名分だが、今日はある勝負に出ようと思う。
「ガチャ」
誰か部屋に入ってきた。
「ノブさん!! そろそろ練習は終了の時刻になります」
いつものサポート役だ。
「はい」
僕は練習を終えた。
サポート役に誘導案内されて、ピアノの前に座った。
聞き取りやすい声でプロのアナウンスが流れ出した。
「えー、、ここで皆さんにお知らせがあります。。これから演奏されるピアノ曲は天国でピアノの詩人、フリデリックショパンが作曲したものです。ノブさんは特殊な幽体離脱という睡眠中に魂が天国に行く方法でフリデリックショパンに会い、ショパン本人が作曲したピアノ曲を教えてもらいました。その天国でのショパンの新曲を今から演奏いたします。。」
「ハハハハハ」
あまりに突拍子もない内容に静かな笑いが起こった。
コンサート会場に突然の信じられないアナウンスが流れ、観客たちの動揺し、ザワザワする音が聞こえてる。
「『ポロネーズ第21番 ピンクの男』です。」
僕は弾き始めた。
ショパンに霊界で直にレッスンしてもらいながら覚えた15分ほどの大作だ。
ショパンが夜の静かな田んぼに船を浮かべながら、涙を流しながら手紙を書き、その手紙から曲想を生み出したとは言っていたが、、「ピンクの男」って誰のことなのか、どういう意味からつけたのかは今度、ショパンに会ったら聞いてみよう。
この「ピンクの男」は、、エチュード10-3を彷彿とさせる。
悲しみに似た静かな旋律から始まり、徐々に激しく怒りと絶望のような早い連打の和音が勢いを増し、やがて頂点に達し、また徐々に静かな諦めにも似た曲調へと回帰する。
音の繋げ方やドラマ性、音の感情の高まりと迫力、静かさと激しさのコントラスト、、全てが完璧で奇跡的な超傑作。
ピアノ史上最高峰の名曲なのは間違いない。
ショパンも「僕の一番お気に入りの大好きな曲」と言っていた。
別れの曲との唯一の違いは諦めにも似た悲しみの旋律に戻ってから、徐々に明るい喜びのような和音になっていき、、まるで別れを告げられたけど、、また一緒にいられることになりました……みたいなクライマックスでは飛び切り今までショパンの作品では聴いたことがない「喜びの大爆発」「大歓喜のハッピーエンド」で曲が終わるということだ。
別れの曲のパワーアップバージョンだ。
15分で人生の全てのドラマが凝縮された音の究極のエッセンス。
普段は曲に標題をつけないショパンだが、この曲だけは特別だと言っていた。
弾き終えた。
割れんばかりの拍手が響き渡った。
我ながら完璧な演奏だったかも。
翌日、このコンサートは新聞の一面を飾った。
いつも一緒にいる世界王のアゲハがコンサートで天国のショパンが作曲した地上ではまだ知られていない未発表曲を僕が演奏したと。
この話は事実でアゲハ自身も死後の世界の霊界のショパンに会ってきたと公言したのだ。
これは世界中で大ニュースになってしまった。
世界王の影響力が一番ある人間のアゲハが記者会見で公式に宣言したからだ。
「ショパンの霊界作品地上拡大作戦」は順調だ。
だんだん、霊界の存在が有名になってくればいい。
まだまだ信じてない人がたくさんいる。
そんな人に声を大にして言いたい。
「死後の世界は存在する」