最終話「上には上がいる喜び」
ゲンの自己犠牲から6年が経った。
霊界の最先端音楽都市「オガサイ」の
「ミュージックドーム」では
「オガサイ音楽学校コンテストランキング」が行われていた。
司会者「続きましてはベスト3の発表に移りたいと思います」
「3位 音の芸術学校……」
ショパンとラフマニノフは胸の鼓動が早まっていた。
お互い手を繋ぎ、ドキドキしながらコンテストの様子を見守っていた。
司会者「2位の発表です。2位…………」
「ゴクリ……」
ショパンは固唾を飲んだ。
ラフマニノフはショパンの手を強く握りすぎて
ショパンから「痛い痛い!」と言われることもなかった。
それだけショパンは今年のコンテストに全てを賭けていたのだ。
次はないと思って……
二人の緊張は頂点に達した。
司会者「第2位 ベートーヴェン&モーツァルトのフルビットミュージック!!」
ショパン「うわあああああ!! やったあああああああ!!」
ショパンの迫力ある究極のガッツポーズが飛び出した。
ショパンがこんなに大声で喜びを体で表現したことは今まで一度もない。
それだけショパン史上最大級の歓喜の叫びがドーム中に響き渡り、こんなショパンを見たことない人たちは驚いてしまい、目を丸くした。
ショパンはラフマニノフを叫びながら抱きしめた。
ショパン「やっとこの日が……史上最速記録で1位だあああああ!!」
ラフマニノフはショパンとは反対に静かで体の動きが固まっていた。
声が出ないくらい感激に打ちひしがれていた。
一滴の涙がラフマニノフの頬から滑り落ちた。
司会者「第1位 ショパン&ラフマニノフのエキスパートピアノ!!」
「おめでとうございます!!」
3000人の音楽関係者たちは一斉に拍手喝采した。
司会者「優勝者スピーチをしてもらいます!! ショパンとラフマニノフ!! どうぞ!!」
ショパンとラフマニノフは二人で手を繋ぎながらステージのマイクに向かった。
ショパン「皆さん!! ありがとう!! 本当にありがとう!! 僕たちはこのオガサイ音楽学校コンテストランキングで1位を取ることを目標にしてきました。それには僕たちが我がエキスパートピアノから僕を超えるピアノ音楽作曲家とラフマニノフを超えるピアノ演奏家&ピアノ協奏曲作曲家を出さなくてはと思い、たくさんの生徒を育ててきました。ですが、長い期間、僕とラフマニノフを超える音楽家は現れなかった。しかし、今から7年前にある知り合いからピアノの大天才を紹介されて、私たちエキスパートピアノに入学させ、本格的にピアノを学ばせたところ、わずか5年で私を超えるピアノ音楽を作曲するほどの大成長を見せました。そして、ラフマニノフを超えたピアニストになり、ピアノ協奏曲もラフマニノフを凌駕するものを作曲してしまうようになり、霊界中で社会現象になりました。皆さんもご存じだと思います。超早熟の大天才、角田エリスさんです」
ショパンは話の途中でラフマニノフにマイクを渡した。
ラフマニノフ「その角田エリスさんを発見でき、才能を磨くきっかけを作れたのは知り合いの友達のおかげです。その友達が角田エリスにピアノを会わせてくれたんです。だから、私とショパンだけの力では到底、このコンテストで1位にはなれなかったでしょう。また、エキスパートピアノを有名にするきっかけになったピンクダイヤモンド猫とオレンジダイヤモンド猫もある親友が自分を犠牲にして生んでくれました。エキスパートピアノの全ての生徒たちも活躍してくれました。本当に感謝しかありません。ありがとうございました。そして、、、」
ラフマニノフは一息ついてからこう言った。
「仲間達と一緒になって夢を実現してゆくこと。みんなで協力して凄いことを成し遂げてゆく喜びを知りました。最初の頃は自分たちだけの力で夢を追うことにこだわっていました。他人の力は必要ないと。自分たちだけでやりたいと。しかし、今ははっきりとこう言えます。『一人や二人の少ない人数の力では何も達成できない。みんなと力を合わせてこそ大きなことを成し遂げることができ、それが一番の喜びである』と。たくさんの仲間と呼べる者たちが私達を変えてくれたんです!!」
二人の優勝者スピーチが終わり、角田アキコとゲンが二人の元に駆け寄った。
角田アキコ「あたいに感謝しろよ?? 前代未聞、空前絶後の大天才、角田エリスの生みの親だそ??」
ゲン「おめでとう。知名度や影響力でフルビットミュージックを超えたから1位取れたんだね。自分も力になれて嬉しいよ!! オーケストレーションに頼らず、ピアノの力だけで1位を取れたことは史上最高の偉業だよ!! まさに本望だよね。ピアノを愛するショパンとラフマにとっては」
ジンサ「よお!! お前達ならきっと1位を取れると思っていたよ。今日は優勝記念のパーティー料理をデリシャンで出してやるからぜひ来てくれよな!! 今度こそ不味い料理とは言わせないぞ??」
ラフマニノフ「ジンサ!! お前の料理はいつだって美味しかったぞ!! 今まで嘘ついていたんだ!! ゴメンな!!」
ジンサ「嘘だったのかよ?? まあ、いいさ。そんなことだろうとは思ってたぜ!! 俺の料理が不味いわけないからな」
アゲハ「ちょっと!! 私達も行くわ!!」
ノブ「皆さん、久しぶりです」
ショパン「アゲハにノブまで……いつの間に来たの??」
アゲハ「あんた達のこんな大事な日に来ないわけないでしょ??」
ショパン「みんな集まってくれて嬉しいよ」
「ショパン先生、ラフマニノフ先生、おめでとうございます!!」
サニースターリースカイ、マルパス・カーデン、ココ・サムをはじめ、
エキスパートピアノのたくさんの生徒たちもショパンとラフマニノフの元へ集まった。
バイオレットをミヤザワトモヒデから救った、裏宇宙の代表神「アイザム・メトロン」も実は来賓として変装してこっそり出席していた。
アイザム・メトロンはあまりに超超超大物なので、変装して正体をバラさないようにして、みんなが動揺し、緊張しないように配慮していた。
ショパンが裏宇宙に行き、メトロンに助けを求めてから、ショパンを知り、ショパン音楽の大ファンになっていて、ショパンとはかなり懇意になっていた。
今回のオガサイ音楽学校コンテストランキングでショパンがアイザム・メトロンに来てくれと頼んだのだ。
裏宇宙の神を呼んだからには絶対に1位を取り、優勝しなくてはならないのだと、ショパンは自分にプレッシャーを与え、追い込んでいた。
追い込まれないとフルビットミュージックを超えられないと悟っていた。
ミヤザワトモヒデと絶縁したアームストロングはこの会場の司会をしていた。
ミヤザワトモヒデは表宇宙の代表神だったが、アームストロングはミヤザワトモヒデにこき使われていた部下だった。
アイザム・メトロンがミヤザワトモヒデを表宇宙代表神の職を解き、外宇宙に追放してから、アイザム・メトロンに拾われ、彼の部下になったのだ。
アイザム・メトロンはミヤザワトモヒデと違い、部下を非常に大事にした。
角田エリス「先生!! おめでとうございます」
シナメルド「しかし、今まで有名音楽家はみんな男性だった。エリス君のような女性の最大の天才が現れるとは夢にも思わなかった。女性活躍をスローガンに掲げる我が地球圏霊界では実に喜ばしいことだ。」
ラフマニノフ「女性活躍の新しい時代がやってきたんだな!!」
アゲハ「ねえ、今、速報が来て、日本で女性初の自民党総裁が出たって!! まさに女性の太陽が現れたわね。これからは女性にどんどん活躍してもらいたいわ!! 女性より男性のほうがっていう常識を変えていきたいわね!! 女性が男性に負けない時代にね!! 」
ショパン「女性が中心の時代になったら世の中どうなるのか、、、楽しみだなあ!! 女性はずっと悔しい思いをしてきたからね!! 女性の悔しさが報われた!! それが嬉しい」
芳樹「ショパンを超えることを今まで目標にしてきたが、今度から角田エリスに変えよう!! できるだけ目標は高いほうが面白いからな!!」
ショパン「芳樹!! 相変わらず生意気だな!!」
彰一「僕はこれからもショパンについていきます。角田エリスさんには出せない魅力がありますから」
角田エリス「皆さん!! 女性と男性、どちらが優れているかよりも、力を合わせて適材適所に活躍できる時代が来ることを目指しましょう!!」
シナメルド「エリス君。素晴らしい。ただただありがとうと言いたい。冥王星のナイバルに負けない、むしろ、凌駕している音楽家が地球にも出てきてくれてこれ以上嬉しいことはない!! ピアノを始めてわずか数年でショパンとラフマニノフを超えたんだからな。末恐ろしいよ。成長速度が神がかっている。どこまで上り詰めてしまうのか楽しみすぎるぞ!! エリス君は地球の誇りだ!!」
モノルスキー「シナメルド。。これからは女性も積極的に更に霊界役所の役員に抜擢していこう!!」
シナメルド「兄貴!! わかった!! そうしよう!!」
アゲハ「ちょっと!! ショパン!! 角田エリスばかり見つめてることが多いけど、もしかして……角田エリスのことが……」
ショパン「そんな訳ないだろ?? 僕にはラフ……」
バイオレット「ラフマニノフ様!!」
バイオレットはラフマニノフの懐に飛び込んだ。
バイオレット「私の誇りよ!! 愛してるわ!!」
ラフマニノフ「俺は昔からピンク色を溺愛してた。バイオレットの名前の色に近いのは、昔からお前と出会うことが決まっていたからかもしれないな!! 類友の法則でお互い磁石のように引き寄せ合う。バイオレットとピンクのようにお互い近い存在でいような!! 愛してるぞ!!」
二人は熱いキスを交わした。
ショパンはラフマニノフとバイオレットの過激なキスを見て……
ショパン「いや、、、アゲハ、、、なんでもないよ。僕はラフマニノフって相棒がいればそれで十分さ」
アゲハ「エリスは超美人だし、長身だし、ピアノはヤバいし、あなたにピッタリよ!! 告白しちゃいなさいよ!! あなたも女に目覚めなさい!!」
ショパン「僕はラフマといられればそれでいいよ」
アゲハ「いつまでもラフマに一途ね!! それならいっそ世界の王の私と付き合う??」
ショパン「ふざけるな!!!!」
アゲハ「冗談よ!! 全く、、すぐ本気になるんだから!! 夢は実現したんだし、これからは恋愛にハマるのもいいと思うけどね!!」
ショパン「これからはオーケストレーションを本当に極めていきたい。。ピアノ業界は角田エリスが出てきたからひとまず、彼女に任せることにした。角田エリスを見ていると、いかに自分が未熟かを実感するよ」
アゲハ「決して、ショパンは未熟ではないんだけどね……あなたもかなりの天才なのは間違いないわ。。歴史に残る唯一の天才よ!! ショパンを超えるピアノ音楽作曲家は永遠に現れないと思ってたわ。。未来は本当に分からないものね!! それにしても、ラフマニノフとバイオレットはまだキスして抱きしめ合っているわね。。ショパンは嫉妬したりしないの?? バイオレットが邪魔にならないの?? ラフマニノフがバイオレットばかりに時間を使うようになってきたから、大事な相棒としての時間が奪われてしまってる気がするけど……」
ショパン「ラフマニノフが一番幸せだと感じる道が僕の道だ!! ラフマが幸せならそれでいいんだよ」
アゲハ「それより天才のあなたが敵わない超天才の存在を知った人の気持ちを理解できたかしら?? 今までショパンに出会った全ての人がピアノ曲ではショパンには絶対に勝てないって絶望にも似た気持ちになったのよ。ショパンもそんな凡人の感情を知れたみたいね??」
ショパン「ああ、、角田エリスを見ていると、今まで僕に会ってきた全ての人が、僕がエリスに感じるような超天才に対する嫉妬や驚きを味わってきたんだなって気づいたよ。まんまとやり返されたね。でも、嬉しいことだよ。僕はだいぶ、ずっとピアノ曲ではナンバーワンだったから。。そろそろ、僕を超える天才が現れてほしかったんだ」
アゲハ「ああ〜、、オーケストレーションを極限まで極めたショパンの交響曲を早く聞いてみたいわ〜!!」
ショパン「角田エリスに対する胸の高鳴り。。 真剣な眼差し。。それは自分より偉大な人が現れたことへの歓喜の興奮だよ。。 角田エリスという新たな目標ができた。上を目指し、高みを目指し、夢我夢中で前へと進んでいる時が一番幸せなんだって気づいたんだよ。角田エリスはオーケストレーションでも度肝を抜くし退屈させないからね。オーケストレーションはピアノより奥が深いかも。あらゆる楽器を使い、音による芸術をゼロから作り上げてゆくんだ。。面白いよ。音楽という世界は。僕はいつか角田エリスをも超え、真の音楽の天才になるよ」
アゲハ「あなたならなれるわよ!! 絶対にね。。諦めさえしなければ必ず!!」
ショパン「音楽には感謝している。ラフマが一緒にいて、音楽さえあれば僕はいつだって幸せだ!!」
ユウジロウ「ラフマニノフとバイオレットのキスシーンは最高だったな!!」
ショパンとラフマニノフに依頼されて「ショパン&ラフマニノフ」のドキュメンタリーを撮影していたのはユウジロウだ。
「今年、オガサイ音楽学校コンテストランキングで優勝できる。絶対に!!」
そうショパンとラフマニノフは確信し、ユウジロウに優勝までのドキュメンタリーを撮影させていたのだった。
ユウジロウ「素晴らしいドキュメンタリーになりそうだ!!」
「ドサッ」
ラフマニノフは崩れ落ち両膝を床についた。
ラフマニノフ「ううう……うううう……本当にみんなのおかげでここまで来れた。本当にありがとう……」
今まで見せたことないラフマニノフの男泣きにショパンはじめ、一同は驚きつつもこう言った。
ゲン「僕たちが協力してあげたいと思わせたショパンとラフマニノフが凄いんだよ!! さあ、顔をあげていつものラフマらしく男らしく潔くいてくれ!!」
ラフマニノフ「ありがとう!! ゲン。そして、ショパン!!
何よりお前とバディが組めて、相棒になれて本当に幸せだった。目標は達成できたが、まだまだ俺と一緒にいてくれるか??」
ショパン「当たり前だろ?? 僕たちは史上最高のバディなんだから!! これからも永遠に一緒さ!!」
ベートーヴェンとモーツァルトはみんなを遠くから嬉しそうに眺めていた。
ベートーヴェン「まさか俺達が負けるとはな……こんな奇跡が重なるとは夢にも思わなかったが、なんか二人の夢が叶ったところを見てるとこっちまで嬉しくてな……」
モーツァルト「奇跡じゃないよ。ショパンとラフマニノフが二人で勝ち取ったんだよ。運も実力の内だし。二人のピアノへの情熱が今日の優勝を勝ち取ったんだよ!!」
ベートーヴェン「負けてられないな!! 俺達も更にレベルアップしてゆこうな!!」
モーツァルト「長年1位だったから、慣れてしまい、ワクワクできなかったんだ。だから、ショパン&ラフマニノフという超えるべき目標が現れてくれて嬉しいよ」
ベートーヴェン「上には上がいることに久しぶりに感謝しているよ。また、夢を追うことを楽しめるからな!!」
上には上がいること。
それは実は絶望することじゃなく、
超えようと想いワクワクできること。
楽しめること。
それは何よりも面白く、喜びである。
嬉しいことだということを二人は知っていた。