83「ゲンの楽屋」
コーヒー屋のゲンはシンガーソングライターとしてのライブ後に楽屋で一人休んでいた。
今日のライブには世界の王「アゲハ」も来ていた。
何人ものボディーガードを引き連れて。
ゲンはハッシュドポテトが大好物で自作したものを楽屋に度々、持ってきていた。
それを一口食べた。それに自作のコーヒー
「ラフマショパンゲンブレンド」を飲みながら、
ライブ後の余韻に浸っていた。
「いいじゃない!! 私が誰だか知らないわけじゃないわよね?? 入れなさいよ。鍵、開けなさいよ。ゲンに会いに来たのよ」
何やら閉まった扉の向こう側から声が聞こえる。
ゲンは扉の鍵を開けた。
アゲハ「あら、はじめまして!! 世界の王のアゲハよ!!」
ゲン「ゲッ!! 世界王??」
アゲハ「実は今日はあんたの知り合いを連れてきているの」
ゲン「誰ですか??」
アゲハ「私の隣にいるじゃない」
ゲン「誰もいませんが??」
アゲハ「ショパンとラフマニノフよ!!」
ゲン「え?? どういうこと??」
アゲハ「私は霊界のショパンとラフマニノフにちょくちょく会ってるのよ。あなたのことも聞いているわ」
ゲン「そうですか!! しかし、ショパンとラフマニノフが来ているんですか?? この場所に??」
アゲハ「あなた霊的視力が備わってないみたいね。幽体離脱した時しかショパンとラフマニノフには接触できないのか。私よりは未熟ね。今、目の前にショパンとラフマニノフはいるわ。あなたには見えてないだけよ。ショパンとラフマニノフは1週間、エキスパートピアノの校長としての仕事を休んで、副校長のあなたに任せて、日本に観光旅行に来ているのよ。私と一緒にね」
ゲン「エキスパートピアノには今日の夜から行くつもりでした。そこまで事実を知っているなら、どうやら嘘ついてる訳じゃないみたいですね。しかし、アゲハさんが私に何の用ですか?? 私は幽体離脱しない限りショパンとラフマニノフには会えないですし、話もできない。幽体離脱したら、エキスパートピアノの仕事しなくちゃいけないし」
アゲハ「鈍感ね。ショパンとラフマニノフの2人があなたのライブしている様子を見に行きたいと言ったから、会いに来たのよ」
ゲン「アゲハさんだけ幽体離脱してない霊体じゃない肉体の状態でショパンとラフマニノフと日本観光旅行ですか?? アゲハさんも霊体で会いに来たらよかったんじゃありませんか??」
アゲハ「そしたら、ゲンはショパンとラフマニノフに今、ライブに会いに来てもらったことに気づけないでしょ?? ショパンとラフマニノフは今、自分達に気づかない素のあなたを見て、はしゃいでるわよ」
ゲン「今、ショパンとラフマニノフがここにいるのか。なんか感慨深いですね」
アゲハ「ショパンがあなたのハッシュドポテトをつまみ食いしたわよ」
ゲン「美味しいって言ってましたか??」
アゲハ「霊体では地上世界の全てのものを味わえるからね。ショパンはマッ◯のハッシュドポテトには勝てないねと言ってたわよ」
ゲン「ラフマニノフは今、何してますか??」
アゲハ「ラフマニノフはあなたの飲んでいたコーヒーをつまみ飲みしたわよ。コーヒーの容器にショパンとラフマニノフの絵や写真がビッチリ描かれていて、『嬉しい』と言っているわ。俺の店で出しているコーヒーだともね」
ゲン「ショパンとラフマニノフが今、この場所にいるということが信じられました。これだけ証拠を出されちゃね」
アゲハ「あなた、これからどうするの?? 私と一緒に旅行に行かない??」
ゲン「いえ、これからホテルでシャワー浴びて、メシ食って、寝て、幽体離脱して、エキスパートピアノに向かいます。副校長の仕事がありますからね」
アゲハ「ショパンとラフマニノフはいつもあなたを想っていることを忘れないでね」
ゲン「もちろんです」