77「開校記念式典」
「なんでこんな目に遭うんだ?」
ショパンは焦っていた。
ショパンが設立した「エキスパートピアノ音楽学校」の5年目の開校記念日なのに
生徒が時間になっても誰ひとり来ていないのだ。
どういうことだ?
ショパンは相棒でありパートナーであるラフマニノフに携帯電話から連絡した。
「もしもし、ラフマ!生徒たちが誰も来ていないんだ!生徒たちはどこに行ったのかな?」
「俺もそれについて詳しく調査中だ!」
「ラフマも知っていたの?てか、すでに調査しているの?」
「ああ。お前が学校に到着する前に俺はすでに来ていたんだよ!」
「なんで知らせてくれなかったんだ?」
「ある事情があってな!とにかくショパンは会場ホールにいてくれ。この件は俺が解決するから」
ショパンは誰もいない学校の会場ホールでピアノを弾きだした。
暇つぶしだ。
「こんな不安な時は幻想ポロネーズとバラード4番を弾こうかな」
ショパンは自身の不安な感情をぶつけるようにピアノを弾きだした。
ショパンただ一人しかないとても大きな会場ホールで名演奏とも呼べる
ショパンの最高傑作の作品が響き渡る。
ショパンは1時間、自身の作品を弾きとおした。
幻想ポロネーズ、バラード4番、幻想即興曲、別れの曲、革命のエチュード、舟歌、ピアノソナタ2番
3楽章「葬送行進曲」、ピアノ協奏曲1番2楽章「ピアノソロバージョン」、スケルツォ4番、
バラード1番、英雄ポロネーズ。
ただ一人、会場でピアノを弾き終えた直後に
会場の扉が勢いよく開いた。
「なんだ??」
ショパンは驚く。
数百人の生徒たちがぞろぞろと入ってきた。
一番先頭にラフマニノフがいる。
「ラフマ!みんな!どういうこと?来てくれてよかったよ!さみしかったし、なにかあったんじゃないか
って怖かったんだ!」
「ショパンの名演奏をずっと生中継してみんなで見ていたんだよ。しかも、全世界に生配信されていたの
さ」
「どういうことだよ?ラフマ!」
「いやあ、すまんすまん!実はショパンは俺の目の前や聴衆がいる前で弾くピアノ演奏と、誰もいない、一人で弾くピアノ演奏の質が全く違うことに、お前と一緒にいることが多くなってから、気づいたんだ。だから、生徒たちにショパンの唯一無二の名演奏を聞いてもらい、勉強してもらうために、わざと生徒たちがくる時間を遅らせたんだ!お前は誰もいない会場で一人で弾くピアノ演奏が一番の名演奏になる
タイプだ」
「そうだったの?でも、もし僕がピアノを弾かなかったらどうするつもりだったの?」
「ショパンがピアノを弾かないなんてありえないから、そんな心配はしなかったさ」
「だから、会場ホールでじっとしていてくれって言ったのか」
「ショパンが誰からも命令されずに、自発的に、自らの感情をピアノ演奏にぶつけたくてする
ものじゃないと、決して、名演奏にはならないからな!」
「それにしてもさすがだな。幻想ポロネーズやバラード4番などの孤独や喪失感な曲から始まり、最後は
バラード1番、英雄ポロネーズ、など、不安が吹き飛んだ喜びを感じさせる作品を弾くとはね。まるで
弾いていった作品たちがひとつのテーマを持って、物語を作っているかのようだ」
「僕の演奏、よかった?」
「最高だったぞ!」
ラフマニノフはショパンをべた褒めした。
「先生は特殊ですね。誰もいない場所で一人でいるときに一番の名演奏ができるんですから。
誰も聞いてないのに、名演奏という皮肉ですね。でも、今回は僕たちや世界中の人がしっかりと
ショパンの孤独名演奏を聞きましたから、無駄になってませんからね」
生徒の一人がそうショパンに伝えた。
「ラフマ。ありがとう。僕は誰も聞いてない誰もいない会場で名演奏ができるタイプ。それを
無駄にしないようにしてくれたんだね」
「ショパンのこの名演奏を多くの人に聞いてもらいたいということで、前々から、世界中で
有料配信するために準備していたんだ。まあ、今回は大成功だったな。よかった。ホッとしているよ」
「さあ、開校記念式典の始まりだ。ラフマにもピアノ演奏してもらうからな!」
「わかってるって!!」