75「生まれ変わった兄貴」
ある一人の男が地球で亡くなり、霊界入りした。
彼は地上世界で61年間を過ごした。
しかし、彼は弱者だった。
26歳までは順風満帆で、大学に進み、起業して、年収10
億円を超えていた。
成功者だった。
勝ち組に思えた。
しかし、働きすぎによる「うつ病」により、一気に転落人生
を送った。
27歳から死ぬまでの34年間はまさに、生活保護のお世話になり、自分の情けなさに苦しみながら生きた。
霊界入りしたその男の名は「モノルスキー」
霊界の役所に来た。
ガイドに連れてこられたのだ。
まず、記憶を修復してもらう。
霊界入りしたときに、今までの転生前の記憶などを取り戻すためのものだ。
「記憶修復所」で記憶を取り戻したときに、彼は唖然とし
た。
「私は元々この霊界のトップだったんじゃないか。そう
だ。思い出した。しかし、無理やり、この地球に転生させられたんだ。あいつらが、シナメルドが俺をハメたんだった」
しかし、自分をハメたシナメルドに怒りは湧かなかった。
モノルスキーは弱者をいじめる政治を繰り返していた。
全く社会的弱者を相手にせず、助けなかった。
救わなかった。
その不公平で独裁的な政治をしたせいだ。
シナメルドに地球に転生させられたのは。
「人生映画劇場」へと来た。
今までの61年間の人生を映像で振り返るためだ。
そこに、シナメルドがいた。
シナメルド「久しぶりだな!!!モノルスキー!!!!記憶は戻ったようだな!!!」
モノルスキー「シナメルド.......」
二人は人生映画劇場で、モノルスキーの人生を視聴した。
そこには、まさにモノルスキーの弱い者としての人生が映し出されていた。
シナメルド「まさか、自分が弱者になるとは思わなかっただ
ろう?」
モノルスキー「俺に弱者の気持ちを理解させるために、こ
のような人生に送り込んだんだろ?」
シナメルド「俺を恨むか?今、俺はお前の後を継ぎ、霊界のトップになって、霊界を運営している!」
モノルスキー「俺は弱い者を迫害していたよな。でも、自分がいざ、弱い者になって、初めて気づいた。俺のやっていたことは間違いだったんだって。それを気づかせるために、俺はこの
人生を送ったんだな……」
シナメルド「仕方なかったんだ。初めて役所の職員になった
ときのお前は弱者に優しかった。でも、瞬く間に出世していき、だんだん、その優しさを忘れていって、暴走していった。だから……」
モノルスキー「それ以上言うな。俺は、弱者の気持ちが痛い
ほど分かったんだ。自分の生活費すら稼げない、情けなさ、自分への怒り、劣等感、助けてもらってばかりの恥ずかしさ。すべて味わった。だから、これからは自分が弱者に優しくしようと思う。助けようと思う。また、役所のイチ職員として、俺を迎えてほしい。最も弱い者のために生きたいんだ!!!自分が弱い者だったからこそ、痛いほど、その人たちの気持ちがわかるんだ!」
シナメルド「実の兄を、霊界から地球へと送ることがどれだ
け辛かったか......俺は毎日泣いていたよ。
でも、兄貴のためにはこれが最善だったんだ。本当に兄貴の
ためになるなら、どんな苦痛だって耐えたいと思った。兄貴は生まれ変わったみたいだ。兄貴がいない寂しさに耐えた甲斐があったよ」
モノルスキー「弱い者ほど大事にするべきだ」
シナメルド「今の兄貴、最高にカッコいいよ!!!」
生まれ変わったモノルスキーはまた初心を取り戻して、霊
界の役所に勤めることになった。
最高にカッコよくなった兄を見たシナメルドは、モノルスキーを地上に送って本当によかったと心から思った。
大切なことに気づかせ、学ぶために、地上世界にみんな転生していくんだと。