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74「本当に見たかった景色」

 どういうことだ??


 記憶力が上がってない。


 全然、記憶ができない。


 ピアノでショパンの別れの曲を暗譜しようとしても、全然、

頭に入ってこない。


 サムはイライラしてピアノを殴った。


「ガーン!!!!」


 またもや、エキスパートピアノ音楽学校のピアノのように、壊してしまった。


 「かゆみ」に耐えた分だけ、記憶力が上がるという方法

も、サムには効果が無かった。


 なぜか、記憶ができない。


 サムは絶望した。


 ショパンの「別れの曲」が弾けるようになりたかった。


サム「俺はやはり、才能がない。あきらめよう!」


 全財産を使い、新調したグランドピアノも、意味が無かったようだ。


 「ショパンのピアノ曲を弾きたかった」


サムは外に飛び出して、思いっきり叫んだ!!!


「ワーーーーーー!!!」


 毎回のストレス発散方法だった。


 人の目なんて気にしてる余裕なんかなかった。


「そんな叫んでいたら、声が枯れてしまうよ?」


 なんと、サムの前にショパンが現れた。


サム「ショパン!お前、どうしてここにいるんだ?」


ショパン「記憶力を上げるために、痛覚記憶の崖や、かゆみ

部屋もやったけど、効果無かったんだってな??」


サム「俺を笑いに来たのか?どうして来たんだ?」


ショパン「一緒にレッスンするぜ!! お前のイライラや憎しみは痛いほどよくわかる!」


サム「ピアノも八つ当たりして、壊してしまったんだ!無理だよ!俺は記憶力があまりに低すぎて、ショパンの曲を弾くことは永遠に叶わないんだよ!」


ショパン「いや、私が付き合うよ!一緒に、一曲、別れの曲

を弾けるようになるまでは最後までレッスンしよう。そのために、私はエキスパートピアノ音楽学校を2ヶ月休んで、ラフマニノフに全てを任せてきたんだよ」


サム「なんだって?なんでそんなことしたの?なぜ、出来の悪い俺のためにそこまでしたの??」


ショパン「出来が悪いからって放っておいたら、ピアノの指

導者として、いや、人間として失格だと思ったんだよ!願いの木に『記憶力が上がりますように!別れの曲を弾けるようになりますように』って書いてあった札を見て、サムのことを思い出したんだ!!!」


サム「でも、記憶力を上げるための方法はありません。痛覚記憶の崖、かゆみ部屋でも無理でした。呪いみたいに、記憶力が上がらないし、1か月間は暗譜しようと躍起になりましたが、結局、無理でした。たとえショパンが俺に天才的なレッスンをしても覚えられないと思います」


ショパン「じゃあ、あと2ヶ月間、一緒にレッスンしよう。必ず、別れの曲を弾けるようにする。これは、私の夢でもあるんだ!!!」


サム「俺は学校のピアノも、自宅のピアノも八つ当たりして、壊して、退学になって、どうしようもないんです。もう、あきらめるしか......」


ショパン「私が君の立場になったら、同じことすると思うよ。私は偶然、才能があったから、そうなってないだけ。これは完全に運なんだよ!全て運といってもいい!私は才能がないからやるっていう選択肢があってもいいと思う!!!上達を楽しもうよ!!!さあ、ついてきて!!!」


 サムはショパンに連れられて、ショパンコンサートホ

ールに来ていた。


 大きなホールでショパンはサムにレッスンを開始。


ショパン「いいかい?絶対にあきらめちゃダメだ!!!」


 サムはショパンに感謝した。


 結局、ショパンのレッスンは2ヶ月間、一日8時間を毎日やった。


 その結果、


 サムは記憶力が奇跡的とも思えるほど向上した。


 サムは自分の記憶力が向上したことに驚きを隠せなかった。


「信じられない……」


 ショパンはサムが様々な手を使っても、一向に記憶力が上がらないことを不思議に思い、ラフマニノフに頼んで調査してもらっていた。


 サムは呪いにかかっていた。


「記憶力が向上しない呪い」だった。


 それは、サムが霊界の超名門貴族「ココ一族」の跡取りになる代償として「記憶力減退」を与えられたのだ。


 それはサム自身が選んだことだが、サムはその記憶を失ってしまっていた。


 遥か昔のことだから、記憶がごっちゃになっていて、いつの

日か、記憶ができないのは呪いのせいということすら忘れてしまったのだ。


「記憶力減退」によって。


 ショパンはその「記憶力減退の呪い」を解くために、

「等価交換取引」をした。


 ショパンは貴重な「2ヶ月間」の時間を毎日、8時間、サムに使い、レッスンする代償に、「記憶力減退」の呪いを解放したのだった。


 2ヶ月間、一向に、記憶できないサムに付き合うのは、苦痛でもあったはずだ。


 天才のショパンからしたら。


 しかし、ショパンは才能がない人を見捨てたくなかった。


「才能がある人しか相手にしない」なんて嫌だった。


「一人を大切に!!!目の前の一人を大切に!誰も置き去りにしない。見捨てたくない」


 サムは小さなピアノ発表会で「別れの曲」を弾いた。


 それは、記憶できない自分への別れを告げたくて、前々か

ら、目標にしてきた、弾きたかった曲だ


 サムは涙を流してこの曲を弾き終えた。


 記憶減退の呪いをショパンが解いたことはサムに話していない。


サム「ありがとう。ショパン!!!」


 サムは歓喜と感謝の涙を流して、ショパンを抱きしめた。


 ショパンは目の前の一人を大切にして本当によかったと思った。


ショパン「これだ!!!本当に私が見たかった景色は!!!!!」


 かつて、ラフマニノフに「オーケストレーションが上達しな

い呪い」を解放してもらったように、今度は自分がサムを同じように助けてやりたいと思ったのだ。


「思いやりは伝染する」


 人は繋がっている。


 善いことも繋がってゆくのだと。


 人に思いやりの橋を架けたい。


 ショパンはそんな自分の願いをまたひとつ叶えた。


 超名門一族の「ココ・サム」はショパンの弟子になり、ショパンとラフマニノフの心強い味方になり、お互いに助け合うことになってゆく。

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