10「コーヒー屋のゲン」
ショパンとラフマニノフはコーヒー仲間のゲンに会っていた。
ラフマニノフ「美味しいブレンドの配合を見つけたぞ。史上
最高のおいしさだ。飲んでみてくれ」
ゲン「うーん。これはマンデリン『フレンチロースト7割』、エチオピア『シティロースト3割』」
ラフマニノフ「さすがだな!! 正解だ」
ショパン「フレンチローストって何??」
ゲン「焙煎の度合いのことですよ。深い焙煎のことがフレン
チロースト。やや深い焙煎がシティローストです」
ショパン「焙煎って何?」
ラフマニノフ「焙煎とはローストといい、生豆を加熱して、
豆の細胞組織中に糖類や有機酸を精製させ、芳香物質や褐色
色素、苦み成分を生成させることだ。ショパンはコーヒーの
素人だからな。私たちについてきたくば、しっかりコーヒー
の基礎を勉強しなさい」
ショパン「なんかめんどくさいな。僕はゲンさんの入れるコ
ーヒーを飲みたくてついてきたんだよ」
ラフマニノフ「俺が毎日飲ませているじゃないか。俺のじゃ
満足できてないのか?」
ショパン「同じ味にしか感じないんだ。僕の舌がおかしいの
かな。でも、僕は生前、少年時代にどんぐりコーヒーを飲ん
でいたことは思い出すよ」
ショパンは自身が書いたシャファルニャ通信1824年8月
19日号の文面をラフマニノフとゲンに見せた。
「本年、同月18日、ショパン氏、ドングリコーヒーを七杯
飲む。これを八杯飲まなければならない日も近いか」
ゲン「わざわざ証拠を見せつけなくてもいいと思いますけど
ね」
ラフマニノフ「ショパンはこだわるからな。こいつにコーヒーをハマらせたら俺達以上に美味しいコーヒーのブレンド黄金比を発見するかもしれない」
ショパン「僕はラフマに付き合っているだけで、コーヒーは
そこまで興味ないのが正直なところなんだけど」
ゲン「それより今日はショパンと初対面です。ショパンの生のピアノ演奏をぜひ堪能したいな」
ショパン「何の曲がいいですか?」
ゲン「幽体離脱を知ってから、、私は霊界に自由に来れるようになった。そして、あなた方二人と知り合えた。コーヒーを通じてね。あの有名なショパンに会えると聞いて胸が高鳴っていました。英雄ポロネーズを弾いていただけますか?? 今、ピアノを出します」
ショパン「分かりました」
ゲンが空中から思念で出現させた王様の絵が描かれたピアノをショパンは興味深く見つめた。
ショパン「なぜ、王様のイラストがピアノに描かれてあるんですか??」
ゲン「英雄ポロネーズにピッタリの雰囲気だからです」
ショパン「では……」
ショパンは英雄ポロネーズを弾き恥じ。
ゲン「ラフマと違ってゆっくりと味わうように繊細に弾きますね。これがショパンか。世界中の名だたるピアニストや音楽愛好家たちがショパンの生演奏を聴きたがっていることでしょう。それはいずれ肉体が死を迎えることにより、霊界のショパンに会えるようになることで成就する。死は人間最後にして最大のご褒美なのかもしれません」
ショパン「私に会いたがる人は星の数ほどいます。でも、み
んながみんな会えるわけじゃないです。ゲンさん。あなたは
幸運ですね。ラフマのコネがなかったら多分、私とあなたは
会えてない」
ラフマニノフ「ショパンは霊界でも人気者で、常に客人がひ
っきりなしに来る。それに嫌気が差してショパンは槍を使う
番人を雇ったくらいだ。無断で許可なくショパンの前に現れた人を槍で追い返すんだ」
ゲン「今度、、ショパンとラフマニノフの演奏会に私を招待してください」
ショパン「あなたはシンガーソングライターらしいじゃないですか。ピアノ演奏した代わりに何か歌ってくれませんか?? あなたの一番歌いたい歌を……」
ゲン「分かりました」
「おはよう、世の中⋯」
ゲンは歌いだした。
ショパン「いい曲ですね。元気が出ます。イントロの出だし
が特に好きです。私たちは音楽家として友達3人組になりま
しょう」
ゲン「友達と言ってもらえるなんて恐縮です。まだまだあ
なた方お二人には及ばない駆け出しの音楽家ですから、これ
から精進していきます」
ラフマニノフ「ゲンは俺たちと違って声帯を使って歌う歌手
だ。種類が違うから比べられないよ。それぞれに違う個性や良さがあるからな。俺達はクラシック音楽家だ。そして、、
ゲンはミュージシャンだ。まあ、天才度でいったら、俺、シ
ョパン、ゲンの順だな。だから、ゲンはもっと俺達の友達
に相応しいくらいの天才を目指してくれ!!」
ゲン「分かりました。もっと天才になれるように進化してい
きます」
ショパン「いくらゲンが才能あっても僕達みたいになるの
は無理じゃないかな」
ラフマニノフ「ゲンならショパンを超えられる可能性がある」
ショパン「僕のこと甘く見てない??」
ゲン「ショパンを超えられるとは露ほどにも思っていませ
ん。ただ、過去の自分と比較して前進できればいいです。さ
あ、今度は私の選んだ史上最高のコーヒーを淹れましょう」
ラフマニノフ「ゲンのコーヒーへの情熱はお前のピアノに対する情熱に似ている気がする。なんだか親近感が湧かないか??」
ショパン「ラフマのコーヒーより全然美味しい。レベルが違う。どうしたらこんなコーヒーになるんだろう?? ラフマはゲンを見習えよ!」
ゲン「そう言われると嬉しいですね。これはラフマに教えてもらったブレンドですが」
ショパン「そうだったの?? 今までのラフマとは違うね」
ラフマニノフ「ゲン!! それはないぞ。お前のオリジナルブレンドを淹れてくれ」
ゲン「喜んで」