72「無能な生徒」
ショパンは新年度の「エキスパートピアノ音楽学校」の入学
生の初見レッスンに顔を見せていた。
入学生の一人がピアノのレッスンを受けていたが、レッスン
している先生はその生徒に困り果てていた。
音符を覚えられないのだ。
記憶力があまりに低かった。
その生徒は「サム」と言う。
先生がその初見レッスンに顔を見せていたショパンに助けを
求めた。
先生「ショパン様。手に負えない生徒がいまして.......」
ショパン「わかった。誰だ?」
サムはイライラしているように見えた。
ショパン「どうした?私がショパンだ。わが校へようこそ!どこがわからないんだ?」
サム「記憶できないんだよ!!!楽譜を!!!」
ショパン「では、このように弾いてみろ」
ショパンは自分で簡単なノクターン2番の冒頭の右手の6つ
の音を弾いた。
サム「えっ?わからない。どう弾いたのかすら......」
ショパンは何度弾いても、記憶できないサムに、こう
言った。
ショパン「やる気あるのか?6音すらも覚えられないわけがないだろ!集中しろよ!」
サム「してるよ!!!!!」
サムがピアノの鍵盤を強く叩き、不協和音が教室中に響
き渡り、周囲の視線がショパンとサムに集中した。
ショパン「なんだ?その態度は?開き直るな!!!あと20分でノクターン2番の冒頭の右手の10音符すら覚えられないのなら、向いてなかったということであきらめてもらう」
結局、サムは覚えられずに、激怒した。
ピアノの才能が皆無な論外な自分に腹が立って、自暴自棄になり、目の前のピアノを蹴りまくった。
ショパン「サム!!!お前は退学だ!才能がないばかりか、ピアノに八つ当たりか?? お前にピアノを弾く資格などない!!!」
サム「うるせー!バカショパン!!!」
ちょうど、教室を飛び出したサムと入れ違いでラフマニノフが入ってきた。
ラフマニノフ「どうした?ショパン?何があったんだ?」
ショパン「今まではこの音楽学校の門戸を広げて、誰でも
希望すれば入学できるようにしてきた。できるかぎりピアノを愛してもらいたいし、楽しんでもらいたいからね。でも、これからは最低限、楽譜を暗譜できるかどうかの、特に記憶力があるかどうかは、入学試験で確かめたほうがいい。最低限のピアノ演奏するための暗譜すらできないなら、入学できないようにしないと、彼みたいな、ノクターン2番の10個の音符すら何分経っても記憶できない、ピアニストになれない人材がこのエキスパートピアノ音楽学校に入ってきてしまい、時間と手間がかかってしまうから。このエキスパートピアノは遊びでやってるわけじゃない。甘かったよ」
ラフマニノフ「どんなに努力して頑張っても、ピアニストになれない、言い方悪いが、無能もいるって認めないとな。そんな無能にまで付き合っていたら、本当に有能な人材に時間を当てられなくなってしまう。無能に付き合う時間がもったいないから、入学できなくするわけだな?」
ショパン「そうなんだよ!本当はできるかぎりの人にピアノ
の面白さを気づかせたいけどね。これは仕方がないことなんだ。悲しいよね」
ラフマニノフ「自然界の法則で、3%の超一流、10%のま
あまあ、60%のボケーとした平凡と、27%の嫌味な斜に構えた脱落組に必ず分かれる。我々はどこに照準を合わせるかだ。もちろん、3%の超一流だ!俺とショパンを超えるピアノ音楽家を育て上げるには、金の卵に時間を割かなくてはな。落ちこぼれには、時間を割く余裕はない!夢のためだ。非情でもなんでもない。この世界は競争社会だ。実力と結果を出せないものは置いてかれるんだよな!よし、これからは最低限、入学試験に暗譜記憶力のテストを設けよう!!!」
ショパンとラフマニノフは自分たちの欠点に気づき、改善することで、またひとつ前進した。
暗譜できない腹いせに、ピアノを蹴り飛ばし、ピアノの一部
を破損させたサムは退学になった。