70「イチョウのクリスマスプレゼント」
ショパンは近くの公園にいた。
彼はベンチに座り、とても美しい黄色いイチョウの木を見て
いた。
この辺りで一番大きな高さのイチョウの木で、公園の真ん中に生えている。
癒されるために定期的に通っていた公園だった。
ある少年がそのイチョウの木を両手で抱きしめて、話しかけ
ていた。
ショパンは少年を後ろから同じように抱きしめ、
「イチョウの木に何を話してたの?」と聞いた。
少年はいきなりショパンに抱きしめられて、驚いて、ショパ
ンをはねのけた。
「また、あなたですか?この木はただのイチョウの木じゃな
いんだよ!」
「わかった!何か事情があるんだね?僕が相談相手になってあげるから!!!」
ショパンは少年の話を聞いた。
少年の話によると、公園のすぐ隣の病院に入院している時に
に、夜、このイチョウの木が、少年を窓から覗いていたらし
い。
目と鼻と口をつけて。
確かにイチョウの木なのに顔があったという。
少年は病院の5階に入院していたから、5階の高さのイチョ
ウの木と言えば、この木しかなくて、それでこのイチョウの木の正体を暴こうとしていたのだ。
「いいかい、少年。イチョウの木だって、そこにただ立って
いるだけじゃなくて、動き回りたいときもあるんだよ」
「このイチョウの木は化け物なのかな?目も鼻も口もあった
んだよ?おかしいなあ!」
「きっと君がいつもこの公園で遊んでいたから、何している
のか気になったんじゃないかな?
君はいつもこのイチョウの木に祈りを毎日、捧げていたじゃ
ないか!病院の入院している人たちの病気が、早く治りますようにって!」
「でも、なんで僕が入院しているのを知っているの?イチョ
ウの木が?」
「君がいきなり公園に遊びに来なくなったのは、この公園で
足を怪我したからだよね。僕も見ていたよ!ベンチに座りな
がら、君をいつも見ていたんだよ!だから、病院に入院して
いるんじゃないかって思ったんだよ。このイチョウ君が」
「このイチョウの木。夜、動いて回っているのかな?また会
えるかな?」
「また、会いたいのかい?」
「ただの夢じゃなかった。確かに病室のベッドの上で、この
イチョウの木が窓から覗いているのをこの目で見たんだ!でも、もう退院してしまったから……」
「きっと、このイチョウはみんなに夢を与えてるんだよ。動
くイチョウが会いに来たってなんか夢がないかい?」
「確かに、僕はこのイチョウの木が会いに来てくれたような
気がして、嬉しかったです!でも、もう会えないのかもしれ
ません。夜に何度も隠れて、見張ってましたが、このイチョ
ウの木は動きませんでした。監視カメラもつけて、確認しましたが、結局、何も起きませんでした!」
「あのイチョウの木が現れた夜は、ちょうどクリスマスだっ
たよね」
「なんで、クリスマスの日って知ってるんですか?」
「イチョウの木に聞いたんだよ!僕はこの木と会話ができる
んだ!心の中でね。テレパシーさ!」
「じゃあ、やっぱり、この木だったんだね。また、会いたい
って伝えてよ!!!会いたいよ!!!」
「残念だけど、それは無理だと言ってるよ!このイチョウの
木は一生に一度だけ、自由に歩ける時間が設けられるんだけど、その機会は、君がクリスマスなのに誰も見舞いに来ない、プレゼントも無いと知って、わざわざ君にクリスマスプレゼントとして、その一生に一度の、動く機会を君に会いに来るために使ったと言ってるよ!」
「そんな!そんな大事なチャンスを僕のために使ったくれた
なんて!!!とても大事な瞬間だったはずなのに!!!」
「それは、君がこのイチョウの木にずっとみんなのことを祈
っていたから、その祈りは全てこのイチョウの木に通じていて、君を喜ばせたいと心から思えたからなんだって!君がみんなのために祈ったその力で、いつもより早く病気が治った人がたくさんいたんだって!」
「イチョウさん!!!ありがとう。つらい病院生活、イチョ
ウさんが会いに来てくれたあの夜の日から、僕は魔法にかか
って、苦しみが和らいだんだ。ありがとう。イチョウさ
ん!」
少年は涙を流して、イチョウの木を抱きしめて離さなかっ
た!