42「ユウジロウの映画撮影」
ショパン「グッ⋯ウアアアアアア」
ユウジロウ「カット!ショパン。なんだ。その声は。その表情は!全然なってない。笑いながら崖から落ちるなんておかしいだろ!もう一度やってくれ!」
ショパン「うわああああああああ」
ユウジロウ「ショパン。お前は才能がないからやめちまえ」
ショパン「こら!! いくら、監督だからって、偉大な音楽家である私になんていう言い草だ!論外だ!」
ユウジロウ「ラフマニノフはしっかりと演技してくれる。ショパンとは大違いだ!ショパンがこんなに大根役者だとは思わなかった。生前は名俳優になるとまで言われていたので、期待したが、ラフマニノフのほうが全然優れているじゃないか!ショパン!!」
ショパン「なぜだ?ベートーベンもしっかりと演技できてい
る。こんなに役者の演技が難しいとは。昔の私はどこいった
んだ?」
ラフマニノフ「ショパン!ユウジロウがガッカリしている
ぞ?ユウジロウよ、ショパンには演技の訓練をもっとさせてから出演させましょう。それまでは、私たちのシーンの撮影をしましょう」
モーツァルト「前回、映画のテーマ音楽オーディションで最
下位だったが、演技だったらかなり自信あるよ」
ベートーベン「我は崖から転落し、川に沈むショパンを助け
る役だな。モーツァルトと二人でな」
ユウジロウ「テツヤが見本を見せるから。やってみろ。こんな
感じだってわかるはずだ!テツヤ!!頼む」
テツヤ「了解!ボス」
テツヤは生前、役者としてユウジロウが設立したユウジロウプロモーションで大活躍した名俳優だ。テツヤは表情一つ一つも完璧に高度な演技を見せた。
ベートーベンとモーツァルトはその通りに演技しようとしたが、モーツァルトはうまくいかなかった。
ユウジロウ「こら、モーツァルト。なぜ、お前は川で泳ぐと
きにバタフライなんだ?もっといい泳ぎ方があるだろう?ク
ロールとかだろ?バタフライなんて聞いたことも見たことも
なくて不自然だ!ショパンの次に大根役者だな!」
モーツァルト「ガーン!!!」
モーツァルトは鼻水たらしながら、呆然としていた。
ユウジロウ「テツヤ、大根役者のショパンとモーツァルトを演
技訓練してやってくれ!頼む!しっかりと教えてやってくれ!」
テツヤ「OK!ボス」
と言いながら、ショパン、モーツァルト、テツヤの3人は銭湯
で風呂につかっていた。
ショパン「ちょっと!テツヤさん!演技訓練サボって平気なん
ですか?ユウジロウ監督に怒られるんじゃ?」
モーツァルト「でも、ここの風呂!最高だな!いろいろなお
湯の種類があって、温度も自由に設定できるし。ライオンの口から湯が出てるなんて洒落ている」
テツヤ「大丈夫。アゲハにユウジロウを説得するように頼んでおいたから!ユウジロウは従来のやり方でやろうとしている。ショパンの崖から落ちるときに笑顔になる演技が私には笑え
て逆によかったんだ!ユウジロウに私から話すよりは、ズカズカ遠慮なく言えるアゲハに任せたほうがいいと思ったんだ」
ショパン「説得ってどういう意味ですか?」
モーツァルト「もしかして、風呂に入った理由を言い訳する
ことですか?」
テツヤ「今までにない映画を作りたいとユウジロウさんはおっしゃった。ならば、お前たちの演技を素直に取り入れた方が絶対に面白い。変に演技トレーニングをして、魅力的な個性を失ったら今までにない映画にはならない。ユウジロウさんも間違えることがあるんだよな!」
3人は風呂で温まりながら、様々な会話をしていた。
テツヤ「ここの風呂の壁は、このタッチディスプレイから、自
由に絵を選べるんだ!これなんかどうだ?」
風呂の大きな壁には「ブタ」の絵が映し出された。
ショパン「全然、銭湯って感じじゃないから違和感しかない!」
モーツァルト「つまり、前例のないものを選び、その違和感
を大事にしろと言いたいんですね?」
テツヤ「そうだ!違和感を楽しむ!ユウジロウさんも、アゲハの説得には屈すると思うぞ?アゲハは遠慮がないからな!ユウジロウさんに唯一、逆らえる人かもしれない!その変わった性格を
ユウジロウさんも気に入って、映画のヒロインをアゲハにやらせようと思ったんだ。元はといえば、この『天才音楽家たちの女王』は、ユウジロウさんがアゲハを主役に添えたいという願いからスタートした企画だからな!」
ラフマニノフとベートーベンは撮影を順調に進めていた。
ユウジロウ「『天才音楽家たちの女王』という映画は、有名音楽家、ラフマニノフ、ショパン、モーツァルト、ベートーベ
ンの4人が一人のキャビンアテンダントの女性を取り合うと
いう変わった映画だ。完成したら、かなり売れると期待して
いる!」
撮影所にアゲハが入ってきた。
アゲハ「ユウジロウ!! ちょっと!!」
ユウジロウ「なんだ?呼び捨てか?俺は監督だぜ?」
アゲハ「変わった映画にするんだったら、ショパンとモーツ
ァルトを演技訓練させちゃダメよ!あの演技のおかしさが、
変わりようが、魅力なのに!!!早く訓練を中止させなさい!」
ユウジロウ「俺に逆らう気か?」
アゲハ「逆らうに決まってんじゃない!バカじゃないの?今
までにない映画を目指すって言っていたくせに、今までと同
じ演技を役者にさせるってどういうことなの?あんた馬鹿じ
ゃない?」
ユウジロウ「ハハハ!アゲハ!この俺にそこまで言うか!相
変わらず、面白いな!お前は!そうか!確かにそうだな!む
しろ、ショパンとモーツァルトの演技の仕方は逆に革新的と
も取れるな!大事なことに気づかせてくれてサンキューな!」
アゲハ「早く2人を呼んであげなさい!」
ユウジロウ「ああ!そうするよ!」
こうして、ショパンとモーツァルトとテツヤが戻ってきた!
ショパン「うああああああああああ」
ラフマニノフ「ショパーーーーン!」
ショパンは敵の槍による連続攻撃を避けようとして、崖か
ら落ち、味方のラフマニノフはショパンの名を心の中で叫ん
で、身を案じた。
もう、既に日は落ち、暗くなったので、崖から落ちたショパンを立ちすくんで見守るしかなかった。
敵に紛れ込んでいたショパンの味方であるラフマニノフは、敵の情報を探るためにわざと、敵の懐に入り込んでいたのだ。
川に落ちたショパンは、バタフライとクロールをするモーツァルトとベートーベンに助けられ、保護された。
やがて、アゲハが4人の中から1人だけ、結婚する相手を選
ぶ場面で、アゲハは選べずに、失踪してしまう。
4人はやがて、アゲハが世界の王へとなる運命であることを
予言の書から知り、4人はアゲハの直属の部下となり、アゲ
ハを守りながら、アゲハは世界の王へとなっていく。
という映画は果たして霊界で大ヒットしたのだろうか……