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41「祝福」

 ある日当たりのよい一室。


 大きな扉みたいな窓からは直射日光が照りつけ、ねずみ色の床を真っ白に光り輝かせている。


 ショパンとラフマニノフはこの部屋を二人のプライベート部屋へと定めていた。


 音楽学校のダブル校長を務め、最近は霊界の政治の仕事にも手を出すかもしれないというワクワク感で二人はいっぱいだった。


 ショパンは寝そべりながら、ラフマニノフの膝に頭を乗せ、あおむけになり横たわっている。ラフマニノフが後ろから優しく包み込むように、ショパンに耳かきをしていた。


ショパン「あっ、そこそこ。もう少し深く。赤くなっている

はずだから、その皮膚の壁をこするようにしてくれ」


ラフマニノフ「なんだ。細かいな。注文するな!こっちはめ

んどくさいなか、やっているんだぞ?黙って俺に任せろ!」


ショパン「それにしても、この道具は本当によくできている

よね。良質な耳かき棒を探してくれて、買ってきてくれてありがとう。ラフマ」


ラフマニノフ「ピンク色にしてよかったよ。ショパンによく

お似合いだ!」 


ショパン「そうかな?ラフマは海に行った時もピンクの水着

を着て、周囲を驚かせたよね。僕も死ぬほどビックリした

よ!」


ラフマニノフ「でも、霊界って不思議なところだよな。物質

界で過ごす地上人の奴らの世界と全く異なった構造で、でき

ているのに、この肉体欲望ペンダントをつけているだけで、

地上の肉体を持つ奴らと、同じような感覚を味わうことがで

きるなんてな」


ショパン「基本、霊界では排泄や食事も必要ないし、性欲も

ない。肉体ではなく霊体だからだ。肉体ならではの欲望がないんだ。でも、肉体ペンダントにより、それらを味わえる。霊体のままなら、常に居心地の良い温度しか感じない。でも、それではつまらないし、飽きがくるから肉体を持っているときの寒さとか暑さとか、懐かしくて感じたくなるからこそ、肉体ペンダントが流行しているんだよね」


ラフマニノフ「さすがに本物の地上世界の肉体を持った奴

らみたいには感じないが、ある程度は疑似体験ができる。春

の暖かさ、夏の暑さ、秋の涼しさ、冬の寒さも味わいたいと

きに味わえる。このペンダントがあればな。だから、これを

開発した俺の会社には感謝してもらわないとな」


ショパン「すごいよね。ラフマは音楽家だけでなく『アイデ

アインフィニティー』の創業者兼最高経営責任者兼会長だもんね。音楽家として凄いだけでなくて、ラフマはビジネスの天才でもあるから、影響力や社会的成功ではラフマの圧勝だね。悔しいよ!」


ラフマニノフ「ワハハハハ。悔しかったら、ショパンも何か

商品開発して、会社を設立してみろ。ショパンにはいつまで

もライバルでいてほしいんだよ!」


ショパン「じゃあ、新しいピアノを作るっていうのは?ピアノを更に進化させるんだ。僕が生前、愛用していた

プレイエルのピアノから、スタインウェイのピアノになって

いったように、それ以上の、ピアノの革新に貢献したいなっ

て。ダメかな?」


ラフマニノフ「他人にどうかなって聞いているようじゃ、一生

実現できないだろうな。お前がどうしてもやりたい、成し遂

げたいっていう想いこそ、最も重要だ。何かを達成するうえ

で、一番大事なのは願望の強さだって、お前の読んでた成功

哲学のナポレオン・ヒルの本にも書いてあっただろう?」


ショパン「もう、耳かきはいいや。でも、僕は今、とても幸

せなんだ!幸福感がすごいよ。偉大なラフマとこうして一緒

に癒しの時間を共にできてね。こういう二人の時間が何より

の喜びだよ」


 ちょうど、その時、ショパンとラフマニノフを窓からの太陽の光が包み込んだ。暖かい心地よい美しい光に包まれ、二人は最高に至福の瞬間を迎えた。


ショパン「あれ?なんだ?このピアノ曲?いきなり流れてき

た。なんか、すごい感動する!斬新な発想の曲だね!」


ラフマニノフ「実は俺たちが窓からの太陽の光に包まれた瞬

間にこのピアノ曲が自然に流れるように設定しておいたんだ

よ。俺の新曲だ。お前に聞かせたかった!! いいか。お前は唯一無二のピアノ作曲家だ。ピアノの神だ。俺を超すなんて考えずに、ショパンにしか歩めない道を歩んでいけばいいんだ!俺ができないことをショパンはやっている。ショパンができないことを俺がやっている。お互い、できないことをカバーしあって、最高のバディを目指そうな」


ショパン「ありがとう。ラフマ。このピアノ曲、でも、3小

節目のシラシラの連続がちょっとしつこいから、もっと工夫

したほうがいいかな」


ラフマニノフ「ショパン。多分、俺は一生ショパンのピアノ

曲を超えられないだろう。でも、いいんだ。ショパンを超え

てしまうことは望んでない。俺は、俺のオリジナリティー

がある。ショパンは史上最強のピアノ作曲家だからこそ、価

値があるんだ。今、ほろよい気分でいうが、お前を尊敬して

いる」


 ラフマニノフは窓を開けた。


 春の新鮮な空気が部屋に入ってきて、黄緑色のカーテンをやさしく揺らした。


ラフマニノフ「上を見ろ。あの青空のように、どこまでもシ

ョパンはピアノ曲を作曲する天才として向上していくだろ

う。俺がビジネスを成功できたのは、ショパンに音楽家とし

て負けているからこそ、その悔しい気持ち、負けたくないと

いう気持ちがあったからだ。だから、この肉体ペンダントの

開発のきっかけ、原因はショパンだ。お前なんだ。影の開発

者といっていい。ショパンがいなければ、俺はこんなに成功

していない。ショパンには数えきれないくらい救われてい

る。これからもよろしくな」 


ショパン「ありがとう。ラフマ。偉大なる人間である君に認

められて、僕は死ぬほどうれしい」


 ショパンは涙を流し始めた。


 2人は立ち上がり、お互いに見つめあい、握手した。


 2人を包み込む太陽の光と、ラフマニノフの作曲したピアノ

曲「祝福」が、文字通り、2人の偉大な音楽家を祝福してい

た。

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