36「トムの恨み」
ショパンとラフマニノフはフリスビーを持って、桜並木のある公園にヨークシャーテリアのトムを連れて出没した。
ショパン「さあ、トム、このフリスビーを追いかけるんだ。
口でくわえて、戻ってこい!」
ショパンは最初にトムに挑戦したが、トムはショパンを好いていなかった。トムはショパンの言うことを無視して、ラフ
マニノフにジャレまくっている。
ラフマニノフ「ショパン。手本を見せてやる!さあ、トム。行け!」
ラフマニノフがフリスビーを投げると、トムは物凄い勢いで
追いかけた。
トムはフリスビーを持って、ラフマニノフの元へ戻ってきた。
ショパン「なんで?僕って嫌われているの?このバカ犬に」
ラフマニノフ「そういう些細な言葉遣いや態度が伝わってい
るだけじゃない。俺の場合は、餌の匂い付きのフリスビー
で、ショパンのはただの何の意味もないプラスチックのフリ
スビーだ。トムは匂いに敏感だから、それで差ができただけ
だよ」
「ちょっと!ズルはダメよ。ラフマニノフ!」
なんとそこにはアゲハとピアニストのノブがいた。
ノブ「ラフマニノフさんとショパンさん。お久しぶりです」
ラフマニノフ「アゲハじゃないか。どうしてここにいるんだ?」
ノブ「僕がどうしてもショパンとラフマニノフに会いたい
って懇願したんですよ。だから、連れてきてもらいました。
僕のせいです。どうしても嫌だとしても、そんなの関係あり
ません。僕は2人に会いたいという気持ちは誰にも負けないのです」
ショパン「ノブ君。久しぶり。ピアノの腕前は上達したかな?? 僕が見てあげよう!」
「ドスン」
ショパンは公園にグランドピアノを魔法のように空中から出現させ、ノブに座らせた。
アゲハ「見せてやりなさい、ノブ」
ノブ「では、ショパンの蝶々のエチュードを弾きたいと思
います」
ショパンの練習曲25-9「蝶々」がノブの手から紡ぎ
出されている。途中、トムがピアノに乱入しようとしたら、
いきなりノブはピアノに座りながらトムを蹴っ飛ばした。
「キャイン」
トムは心外な顔して、少しショックを受けているようだっ
た。
演奏終了。
ラフマニノフ「ノブ、、、ひどいじゃないか。いくら、ピア
ノに熱中しているからといって、我が愛犬、トムを蹴っ飛ば
すなんて!君にはガッカリしたよ。ピアノの腕より、人間性
をもっと磨いてくれ!大丈夫か?トム!おーよしよし!」
トム「僕、ノブさんに蹴飛ばされて嬉しかったよ!アゲハ
さんにいつも蹴られているせいか、蹴られるのが快感になっ
てしまったんだ。ラフマニノフさん!だから、大丈夫!」
ノブ「アゲハさんがトムは蹴飛ばされるのが大好きだっ
て言っていたので、つい良いかなって思ってしまいました。
ラフマニノフさんが不快になられたなら、申し訳ございませ
ん」
アゲハ「そうよ。ラフマニノフ。あなたの愛犬はオシリを蹴
られるとすごく興奮して、喜ぶのよ。でも、ノブはオシリ
じゃなくて腕を蹴っ飛ばしたから、トムはやせ我慢して、ラ
フマニノフを安心させようと嘘をついているかもね」
ショパン「トム。ごめんね。僕がピアノをノブ君に弾かせ
なければ、痛い思いしなくて済んだのに」
アゲハ「ノブ、トムにも同じようにあなたを蹴らせてあげ
れば?そうすればお互い様でしょ?」
トム「では、僕がノブさんが弾いたのと同じ蝶々のエチュ
ードを弾くので、ノブさんは僕の邪魔をしてください」
ラフマニノフ「そんな設定プレイまでするのか?もうよくな
いか?この話は」
アゲハ「えっ?トムって蝶々弾けるの?ピアノ弾けるの?な
んで?犬でしょ?」
ラフマニノフ「トムにもピアノを教えているからな。愛犬だ
から当然だろう!」
トムはいきなり2足歩行で犬が人間になった感じに変身した。ピアノを弾く手もしっかりと出現した。
トムは蝶々を弾きだした。
ノブは「ワンワンワンワン」とめちゃくちゃリアルにト
ムの真似をして、一同は少し引いてしまった。
トムはノブの乱入が始まると、思いっきりノブの体を蹴
り飛ばし、ノブは10メートルくらい吹っ飛んだ!霊界じゃ
なかったら大けがしているところだろう。
トムは最後まで蝶々を、ノブより美しく弾いた。
ノブはあまりのトムの蹴りの威力に呆然としてしまった。
トム「これでアゲハさんの言う通り、おあいこですね。ああ、すっきりした」
ショパン「ちょっと威力強すぎるよね。トムの蹴りは。余
程、恨んでいたんだろうな。建前と本音は分からないものか
もなあ」
トムはまた犬の姿に戻り、かわいらしくラフマニノフに甘えだした。
「クウーーーン」
ノブ「犬から蹴られるなんて体験は本当にすっごい貴重だ
と思います。今日は来てよかったです。でも、たかが犬に人間の僕より美しいピアノ演奏を見せつけられて、悔しくて仕方ないです」