26「バイオレット」
音楽学校「エキスパートピアノ」で教授たちに推薦された一
人の女性がいた。
その女性の名は「バイオレット」。
ショパンとラフマニノフのどちらかを選んでくださいと言われたときにバイオレットは迷わずラフマニノフを選んだ。そ
の時の態度の勢いはとても殺気立っていて、教授たちは驚愕
した。
ラフマニノフは弟子選抜試験を実施した。
バイオレットのために。
バイオレットはラフマニノフに至近距離で会えて、話ができるのが歓喜の瞬間だった。
ラフマニノフ「バイオレットだな。では、弾いてみろ!」
バイオレット「はい!」
バイオレットの演奏は圧巻だった。ラフマニノフはただた
だ、頭をコクコクしてうなずいていた。
ラフマニノフは口を結んだり、顔の表情が幾度となく変化した。
バイオレットは演奏が終わると、ラフマニノフに急接
近して、ラフマニノフの顔を両手で挟み、なんと、大胆にも
キスをした。
ラフマニノフ「何するんだ!お前正気か?」
バイオレット「大好きです!ラフマニノフ先生」
ラフマニノフ「残念だったな!私はすでに心に決めた人がい
る!お前の願いは叶わない!早く服を着ろ。そんなので弟子
にしてもらおうとするな!お前の演奏はとにかく今まで見て
きたこの学校の生徒の中でも3本の指に入る。弟子にはして
やるが、これからも誘惑するなら、指導はできないぞ?」
バイオレット「いや、本気なんです!本気でラフマニノフ先
生のことが好きなんです!あなたしかいないんです!こんな
に胸が熱くなるのはあなただけなの!」
すると、いきなりピアノから不協和音が流れた。
バイオレットの後ろにはショパンがいつの間にかいた。
ショパン「バイオレットさん。この学校でラフマニノフを誘
惑するのはダメだと入学式で言ったはずですよ。あまりしつ
こいと、退学も考えてもらいますからね!」
バイオレット「そんな⋯では、ラフマニノフ先生が心に決めた人って一体誰なんですか?まさか、ショパンとか言いませんよね?」
ラフマニノフ「それはどうだかな」
バイオレット「ラフマニノフ先生、しっかり答えてくださ
い!!!」
ラフマニノフは困ってしまった。ショパンに対する相棒愛と異性に対する恋は種類が違うのだ。
ショパン「ラフマは私の恋人だ!絶対に渡さない!あなたが
本気でラフマを手に入れようとするならば私はこの学校の校
長としてあなたを退学処分にさせる!」
バイオレットも困ってしまった。
ラフマニノフをあきらめきれない。でも、この学校を辞めてしまえば、これからの生きる原動力であるショパンとラフマニノフを超えるピアニストと作曲家になるという夢を失う。
バイオレット「では、ラフマニノフ先生に手を出さなければ
いいのですね。一緒にいるだけなら問題ないですね?」
ショパン「本当に一緒にいるだけならね」
ラフマニノフ「俺ってそんなにモテるのか??」
バイオレット「ラフマニノフさんと一緒にいたいんです。何
かしら力になりたい!」
ショパン「ラフマが君に力を貸すんだよ。逆だよ!」
バイオレット「ショパンなんか相手にならないくらいの魅力
的な人間になって、ラフマニノフ先生から愛される人になり
ます!」
ショパン「私を舐めすぎだな。自惚れるのも程々にしたまえ!」
ラフマニノフ「とにかく、明日の朝7時ちょうどだな。この
部屋にまた来てくれ!バイオレット。君は正式な弟子だ。私
をものにしたいという欲望は分かったが、それはそれとして
君の演奏は確かに何か魅力があり、私に教わる資格は十分あ
ると思う!」
バイオレット「ありがとうございます!それではまた来ま
す!」
バイオレットはそそくさと顔面を赤くしながら、満足そうに退出した。
ショパン「ラフマ。君があまりにモテるから、僕がラフマを
好きになっているように見せかけて、君に寄ってくる恋人目的の人たちを遠ざけてるつもりだが⋯バイオレットは美人だ
し、君は正直、どう思っているんだ?バイオレットのことを」
ラフマニノフ「お前がいなかったら、今頃、バイオレットと混ざり合っていたかもしれないな。俺は本当は誘惑に弱いから
な。これからも、歯止めを効かせる俺のブレーキになってく
れ!」
ショパン「君に寄ってくる女が本当に多すぎるね。学校設立
してもう9人目だ!君も大変だな」