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22「存在していることの苦しみと喜び」

 満月が水面を黄色く輝かせている。


 川か、湖か、海か……ご想像に任せよう。その水の上を船が浮かんでいた。


 静かに月明かりに照らされてその船に1人の人間が腰を下ろして座っている。


 何か手紙を書いている。


 辺りは誰もいないで不気味な静寂さだけがその人間を包んでいた。


 月の光を頼りに手紙にペンを走らせている。幻想的な雰囲気だ。


 しかし、人間の表情は何やら涙が頬を流れて、くしゃくしゃな顔をしていた。


 その人間の表情を考えるに、誰かに別れの手紙でも書いているかのようだ。


 いや、きっとそうに違いない。



 手紙に彼の涙がこぼれ落ちてインクが歪み、見えづらくな

った。


「僕達、、、もう会えなくなるんだね……」


 心の中でボソっとつぶやいた。


 その人間はフレデリック・ショパン。


 川でも湖でも海でもなく、なんと田んぼに小さな船を浮かべ、焼肉を焼きながら、曲の構想を練っていた。


 手紙を書いていたのはショパンの作曲するときのやり方だ。まずは、曲にしたい感情をそのまま素直な文章で手紙を書き、その手紙からインスピレーションと刺激を受けて旋律を受け取るという構図だ。


 ショパンは田んぼが好きだった。祖国ポーランドの田園風景が彼に懐かしさという感情を与えてくれるからだ。


 相棒のラフマニノフはショパンと違い、海で作曲をしている。海で日光浴しながら、波に揺られ、パソコンでだ。


 ショパンは夜に度々、このように田んぼに船を浮かべ、カエルの鳴き声を聴きながら作曲に励むことがある。


ラフマニノフ「約束の2時に来たぞ。曲の構想はだいぶ進んだ??」


ショパン「ラフマ。寂しかったよ。やっぱり一人って寂しいね。この満天の星空と静寂な田園に船を浮かべて、美味しい焼肉を食べることは結構、楽しくて幸せな時間なんだけど。やっぱり一人より二人のほうがいいね。あえて、少し一人になる時間を生み出すことで、ラフマの存在が当たり前になっている感覚を新しくし、ラフマに感謝できるようにしているんだが」


ラフマニノフ「そうだ。俺がいることは当然のことと思って

もらっては困る!! 感謝したまえ!!」


 2人は焼肉を食べながらワインとビールも飲みだした。


ショパン「あっ、カエルが肉を狙っている……あっ!! 食べられた」


ラフマニノフ「ここが霊界じゃなかったらカエル焼きにな

っているところだったな」


ショパン「それより最近、自分の存在が怖くなるよ」


ラフマニノフ「どういうことだ??」


ショパン「生前は死ねば自分という存在は終わりだと思っていた。消滅するとね。でも、人間は死後も永遠に生き続けるってなって、永遠に生きるなんて辛いなんて思ったりしてるんだ」


ラフマニノフ「死ねば全ておしまいだったら嫌だろう。俺は永遠に生き続けることを嬉しく思うよ。だから、ショパンとこのような予想外な喜ばしい人生になったわけだしな。自分が生まれたことを恨んだこともあるが、俺は今、凄く幸せだ!!」


ショパン「永遠に生き続けるって怖いんだよね。ずっと意

識があるってことだよね。なんか自分の存在が怖い」


ラフマニノフ「今回の手紙はどんな内容だ?? どんな想いを曲にしようと思っていたんだ?? もちろんお前のことだからピアノ曲だろうが」


ショパン「今度の曲はピアノ協奏曲だよ。ラフマが一旦僕から離れるって言った時の一瞬の絶望を表現したんだ。正直、ラフマと別れるのは、兄弟家族と別れることよりも辛いんだ。心に穴が空いてしまう。たかが一瞬だけど、あの時の夢でのラフマの言動が僕を曲作りに向かわせてくれるんだ。私の次なる超傑作を目指したい。ラフマが関係しているから、自分最大のお気に入りになると思う。珍しく標題をつけようと思っているよ。ラフマに関係した名前をつけるから!!」


ラフマニノフ「……」


ショパン「僕たちずっと一緒だよね??」


ラフマニノフ「もう言うのも嫌だ。今まで何を聞いていたんだ??」


ショパン「存在していることの喜びと、永遠に消滅できない

苦しさの狭間にいつも揺れている。僕の悩みを忘れさせて

くれるのは君だからこれからもよろしく!!」


ラフマニノフ「焼肉が冷めるぞ?? お前の分も焼いてやっているんだから感謝しろよ!」


ショパン「ラフマ……聞いてる?? 真面目な話なのに」


ラフマニノフ「聞いてるよ。必ず物事にはメリット、デメリットがある。善と悪。両面を兼ねそろえて全ては存在している。存在していることの喜びがあるということは存在していることの苦しみもあるということだ。喜びだけをとることはできない。喜びだけしか感じなかったらその喜びすら喜びと感じられなくなる。喜びと感じられるのは苦しみがあるからなんだからな」


ショパン「そうだよね。苦しみがあるから喜びがあるんだよね。どちらか一方だけってことはないか。昔は天国では苦しいことは一切ない世界だと期待していたけど違ったみたいだね」


ラフマニノフ「存在している苦しみを感じないようにするの

はあきらめるしかないな。俺だって不意に怖くなり、不安に

なるよ。でも、それをショパンという酒で酔って忘れている時間を増やしたいと思っている。人から離れるな。特に俺からな。孤独になると考える時間が増えて辛くなるからな」


ショパン「君は相談役として優秀だね」


ラフマニノフ「これからもどんどん頼ってくれ。その代わ

り、俺も頼るからな。ギブ&テイクだ!!」


ショパン「お互い助け合いだね。僕も頼もしい相棒を目指

すよ」


ラフマニノフ「隠し事だけはするなよ。俺たちは素直になんでも言いたいことを言える仲を目指そう!!」


ショパン「ラフマは言いたいことを全て隠さず言い尽くすタイプだから問題ない。内気な僕の課題だね。それは……」

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