21「シャーベットランド」
「シャーベットランド」に旅行に来ているショパンとラフマ
ニノフ。
ショパン「雪が降るとどこかへ移動したりする車が使え
なかったり、何メートルも積もって溶けるまで身動きと
れなくなったり、ろくでもねえなって思っていたこともあっ
たけど、それも昔の話さ。雪をひとつの芸術として、美として感じることができるようになっただけ、僕は成長したみたいだ
な」
ラフマニノフ「見ろ、ショパン。雪のうさぎだぞ。10匹く
らい作ったぞ。この一番大きいヤンキーみたいな目つきのう
さぎが番長で、そのほかは子分だ。ショパンはうさぎたちが
帰る宿を作ってくれないか?」
うさぎの目にはピンクダイヤモンドが埋め込まれていて、それはそれはとっても雪の色とマッチして美しかったに違いな
い。
ショパン「僕がピアノ曲を作曲するようなこだわりと情熱
で、うさぎの家をつくってやるか」
ショパンが作った家はうさぎ本体より全然小さい、手抜きと思われても仕方ないものだった。しかし、ショパン日く、こ
の家に入ろうとすると、うさぎが家に合わせて小さくなり、広い敷地を満喫できるようになっているらしい。
ラフマニノフ「雪に絵を描こう。この食器用洗剤の容器に絵
の具とお湯を混ぜたカラー色水を入れて、お絵描きするんだ」
ショパン「これなーんだ!」
ラフマニノフ「なんだこの雪だるまにしか見えないもの
は」
ショパン「ド〇〇もんだよ。日本では国民的キャラクターな
んだよ。現実世界でも実在するらしいよ。霊界にもド〇〇も
んはいるらしいよ。会った人がいるんだって噂だよ。都市伝
説みたいな類だけど。僕、このキャラクター好きなんだ!」
ラフマニノフ「都市伝説だろ?俺はド〇〇もんに会ったこと
がないが……」
ショパン「いや、ド〇〇もんは実在するよ」
2人は粉雪が降るシャーベットランドの人気の温
泉に入っていた。
ラフマニノフ「雪を浴びながらの温泉は最高だよ。雪の肌寒
さと温泉の肌温かさが絶妙に組み合わさって、素晴らしい感
覚を体験させてくれる」
ショパン「あっ、サルが入ってきた。僕のイヤなアレを温泉
の中でしないだろうね?なんかサルと一緒の温泉は嫌なんだ
けど。犬ならいいんだけどね。シベリアンハスキーとか」
ラフマニノフ「相変わらず細かいな。お前は。全く、その繊
細さがあのバラードを生んだのかな」
ショパン「『明るくユーモアに満ちた彼自身の光の部分と、病弱で神経質だった影の部分が彼が生み出す美しい旋律の随所で伺い知れます』って言ってほしいね」
ラフマニノフは荷物からハンバーガーとフライドポテトを取り出した。
ラフマニノフ「ほら、食べろ。ペンギン君!」
ショパン「ペンギンって可愛いよね。僕、大好き。歩き方が
特にヨチヨチ歩きで僕を笑顔にさせてくれるんだよね!」
ペンギンが何匹か、温泉の中に侵入してきた。美味しそうな
食べ物につられてのことだ。
ラフマニノフ「なあ、ショパン。今、降っているこの雪の結
晶たちをしっかり観察してごらん。面白いことに気づくぞ?」
ショパンは注意深く、雪の結晶を手に乗せ、目を細くして、
見てみた。
ショパン「あっ、僕の顔じゃん。この雪。なんで?なんでこ
んなことが?あっ、ラフマの顔もある」
ラフマニノフ「この雪は自分の思った通りに形を変えてくれ
るらしい。面白いだろ?」
ショパン「僕もやってみる!」
ショパンはラフマニノフの目の前に降っている雪に自分の思念を飛ばした。そうすると、ラフマニノフの目の前に大きな葉っぱの形の雪が作られ、「粋な演出ありがとう!ラフ
マ」と書かれていた。
このシャーベットランドでは太陽がさんさんと照り付けながら、雪が降っているので、太陽の日差しと、雪を2種類、同時に楽しめるという地上世界では体験できない現象が起きる。
ショパン「ああ、太陽が最高!ずっとこのままでいたーい。
青い空から雪が降ってくるという神秘。この体験からまた曲
を生む霊感が育まれそう」
ラフマニノフ「俺も快晴の空を見ながら、太陽の光に照り付
けられるほど嬉しいこと、幸せなこと、快感なことはないと
思うぞ」
ショパン「ねえ、ラフマ。なんで、神は地上世界を作ったん
だろう。この霊界だけあればいいのにね。霊界のほ
うがずっと幸せになれるしね。地上世界、つまり、物質界な
んていらなくない?戦争とか貧困とか嫌なことばかり目がつ
いて、地獄としか言いようがないよね」
ラフマニノフ「でも、霊界にずっといると飽きてこないか?
全て自由で思い通り。なんか、刺激が欲しくなるんだと思
う。魂がな。不自由を味わったから、自由に幸せを感じるこ
とができるんだよ。霊界では全て自由だから、その自由が当
たり前になり、だんだん幸せという感情が薄れてくるかも
な。だから、あえて不自由の多い地上世界に行き、不自由や
苦痛を味わうんだ。そうすることで、感覚をリセットさせ、
また自由に幸せと強く感じるようになれると思うしな。物質
界でしか味わえない喜びもあるしな。この霊界ではお腹が空
くことがないから、物質界のほうが食事も美味しいと思う
ぞ。肉体による生理現象で、食欲があるからな。肉体にいる
ときしか味わえない幸せがあるんだと思う」
ショパン「じゃあ、ラフマは物質界にまた転生したいと思う
の?」
ラフマニノフ「絶対に嫌だ!あくまで俺は考えを述べただけ
だ。戻りたいなんて少しも考えちゃいないよ。それより、あ
と20分後にアイスレースを2人で参加するように予約してあるんだ。そろそろ温泉から出るぞ?」
ショパン「そんなの聞いてないよ」
ラフマニノフ「言ってなかったからな」