19「隠された大会テーマ」
ショパン「ここはイチゴジャムで塗装して⋯ここはキウ
イフルーツを盛り付ける!そして、オレンジマーガリン風味のスポンジ生地で壁をつくる!」
ラフマニノフ「壁はシンプルにチョコレートにしたほうがい
いと思うんだが!イチゴチョコでな。リンゴチョコレートソ
ースもトッピング隠し味にしたらどうだ?」
ショパン「それいいね!」
2人の天才音楽家は「お菓子の家づくり選手権大会」に出場
している最中だった。2人でペアになり、「より美味しそうな見た目で、実際に美味しくて、魅力的なお菓子の家」を作るのを競う。参加者は200人ちょうど。
優勝すると獲得できるのは、霊界で最も権威のあ
ると言われ、限られた人しか招待されない地球圏霊界の最高
会議「イエス会議」に出席し、これからの霊界の世界をどの
ように変えていくかの選択権を得られる。まさにショパンと
ラフマニノフは音楽家としてだけではなく、霊界での政治の
仕事もしたいと考えていた。
霊界の法律を変え、既存の古い音楽体制を新しいものに変えていくためにも、ある程度の政治的地位が必要だと考えたのだ。
ラフマニノフ「しかし、大事なのは審査員に気に入られるも
のをつくることだ。より美味しそうで魅力的なお菓子の家と
いっても選ばれる基準があいまいで、審査員の好みしだいだ
から、審査員の感性を刺激するものじゃないとな。た
だ、審査員の情報が少なすぎるので、結局は自分たちのより
魅力的と感じたものを作るしかない。自分たちの趣向が、審
査員たちとマッチするかは運とも言えるかもな。どのような家を作るのが優勝するために必要だと思う?」
ショパン「僕が考えるに、誰でも考えられるありきたりなも
のだと絶対に選ばれないと思う。斬新で革新性があり、意外
性、面白いアイデア、工夫などがやはり大事だね」
ラフマニノフ「意外性か!独特で味のある感じが必要という
ことか。では、私たちは音楽家らしくピアノの鍵盤を普通の
階段ではなく、洒落た螺旋階段に描くというのはどうだ?」
ショパン「壁に音符をつけた楽譜も書こう。この
お菓子の家のテーマは『ある男性の恋人との別れの悲しみからの再会の喜び』にしよう。クッキーを使い、恋人の男性が手を伸ばしながら、行かないでくれって女性を追いかけるシーンを再現し、机に座って別れを悲しむ男性をチョコレートで作り、最後に女性と抱き合う姿の男性をケーキで作る。ってのは?やっぱり、恋する物語が審査員の心を動かすかもって予測したんだけど」
ラフマニノフ「たまにはお前に従うか!考えている時間もな
いしな。ただ、男性を女性に置き換えよう。男性目線より女
性目線の作りのほうがいい。普通だと男性目線から描かれる
恋愛が一般的だと俺は考えているから、斬新さを加えた
い」
ショパン「飛行機も入れよう。最後にね。恋人との新しい人生の出発の旅立ちを表現するんだ!」
ラフマニノフ「いろいろと工夫して考えるのって面白くて最
高だな!」
ショパン「その意気だよ!ラフマ。楽しむのが一番だ!楽し
めば自然といいのができるからね」
霊界では思念により、お菓子が出来上がる。実際にお菓子は
考えたとおりに実体として現れる。なので、お菓子を手作り
する必要がないのだ。すでに用意された限られた材料から、
自分の考えうる最高のアイデアを駆使して、お菓子の家を組
み立てる。なんと、この大会にはショパンとラフマニノフが
ライバル視するモーツァルトとベートーベンのペアも参加し
ていた。
モーツァルト「すっかりと君たち2人は板についてきたね。
私からのアドバイスだ。作品テーマは『太陽』にするといいよ。ピアノの螺旋階段は作らなくていい。階段なんてあまり目立たないし、魅力もない。注目されないものに凝っても仕方ないだろう」
ショパン「モーツァルト、君は僕たちの話を全て聞いていた
のか。人のことを心配する余裕があるなら自分の心配しろ!
僕たちは人からのアドバイスは採用しない。あくまで、自分
たちの力で優勝したいから」
ベートーベン「相変わらず、ショパンは頑固だ。まあ、好き
にすればいいさ。複雑な作りよりもシンプルにしたほうがい
いかもしれないしな。表現の数が多いからいいってもんじゃ
ないしな。まあ、3時間の制限時間が与えられているから、焦ることはない!シンプル・ザ・ベスト!」
ラフマニノフ「モーツァルトとベートーベンが作るお菓子の
家はスゴイ興味深いな!後で拝見させてもらうからな。期待
外れにならないように全力を尽くせよ!」
モーツァルト&ベートーベン「そっちこそ!」
ショパン「全く、僕らに気遣う余裕があるなんて。なんか腹
立ったよ。油断してるからあいつらは絶対に優勝はできない
と思う。油断してるやつに神様は微笑まない!」
大会結果はショパンの予想を覆して、モーツァルトとベート
ーベンが優勝した。
ショパン「なんでだーーーーー!審査委員長!なんで?なん
で?なんで?モーツァルトたちの家を見たけれど、全然作り
こまれてなかったとしか思えないんだが。ただの窓の日差し
で日光浴している人を表現しただけじゃん!僕たちの方が魅
力的じゃない?」
審査委員長「ヒントは私たち5人の審査委員の服装にあった。みんな、太陽の絵が書かれているものを身に付けていた。『太陽』こそが隠されていた大会テーマだったのだよ」
ショパン「そうだったのか。だから、モーツァルトは太陽をテーマにしろと言ったのか」
ラフマニノフ「じゃあ、ショパンのせいで負けたのかもな!
ワハハハハ。まあ、楽しかったからいいではないか。ショパ
ン」
ショパン「ガーーーーン。モーツァルトはそこまで見抜いていたとは。負けた……」
モーツァルト「太陽が隠された大会テーマだと気づいてほしかった理由は、ショパンたちと対等の状態で勝負したかったからだよ。まあ、観察力や洞察力、経験値で差が出るところだね」
ショパン「キー!! 悔しい!!」